望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「……大変なときもあったけど、もう終わったことだし、史輝くんはなにも悪くないので気にしないでくださいね」

「当時の話をするのは気が重いか?」

史輝は過去の話をすることで美紅が落ち込まないか心配してくれているようだ。

「いいえ、大丈夫です。笛吹家に引き取られてからの楽しい話はあまりないけど、今思うと完全に絶望してた訳じゃなかったみたいです。伯父様に借りているお金を返したら、あれをやろうこれをやろうって考えてたくらいだから」

きっと完全に諦めていたら、未来への希望なんて持っていなかったはずだ。

昔のように史輝の側にいるのは無理だと諦めていても、自分なりの小さな幸せを願う心はあったのだ。

「そうか……よかった。これからはその未来に俺を入れてくれるか?」

史輝が美紅を見つめて言う。その美しい眼差しに鼓動が跳ねた。

「そ、それはもちろん……だって史輝くんは私の旦那様だから」

美紅の言葉ひとつで史輝の顔に喜びが広がるのが嬉しくて仕方ない。

顔が火照るのを感じながら、グラスに残っていたお酒をごくりと飲む。

船はとてもゆっくり進み、景色の移り変わりは緩やかだ。
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