ねぇ、嘘じゃないよ
それより、今は、仕事に行かないと。
私たちは、今、幼馴染でもなんでもない。仕事仲間だから。

別に緊急なことじゃない。今度放送されるアニメの収録が昨日から今日に、変わっただけ。

私たちはメインのヒロイン/ヒーロー役。
恋愛ストーリーだから、少し気まずいけれど。
私と愁夜の演技方法は、「そのキャラになる」だから。
自分の事情なんて、どうでもいい。

好きだ、そう言われるシーンは、少し、ドキッとするけれど。

心を落ち着かせたら、大丈夫。その子に、なれる。
プロ意識が高いねぇって言われがちだけれど。見る人に、精一杯の感動を。
原作ファンの方も頷けるような、演技を。
人を魅了するような、声を。

そうやってずっと、してきた。

演技をしている時は自分の感情を入れてはいけない。でも、感情移入はしなくてはならない。
そんな無理なこと、どうやってするのって愁夜に泣きついたりしたこともあったなぁ。

その度、愁夜は頭を撫でてくれた。
自分も苦労してるはずなのに、私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。

あの時は、一緒にいてくれるのがありがたかったけれど。
今となっては、少し複雑だ。

馬鹿野郎。アメリカじゃあるまいし、彼女でもない一応異性の人を気軽く抱きしめるな。

思い出し笑いをしてしまって、飛び込んだ電車の中で注目を浴びる。

でも、いつもはうざいくらいに耳に飛び込んでくる悲鳴も、聞こえない。

なぜなら。
今は注目を浴びてる時間もないとのことで、ゆるゆるの三つ編みと大きいメガネ、耳にはイアフォンと、地味すぎる格好をしている、から。
まるで、下校中の地味インキャみたいな。
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