ねぇ、嘘じゃないよ
愁夜も、アニメオタクか?と笑ってしまうような格好をしている。

ボサボサの髪に、アニメオタクっぷりがたまんない厚みのあるメガネ。

「コホコホッ…」
控えめな咳が聞こえる。

愁夜はマスクをしていて、ラフな私服に着替えている。

設定は、風邪のアニメオタク、みたいな。

それにしても、咳、リアルだなー。
さすが俳優。演技力ハンパない。

…こっちも女優だけど。

がたんごとん。
電車が揺れて、私も揺れる。


暇だから、本当に音楽でも聴こうかなと、スマホを起動した。

パッと明るくなる画面。

…そう言えば、アニメももうすぐで放送されるなぁ。
主題歌聞こ。

「さくら色の恋」
なんてありきたりな曲名なんだろう、初めはそう思ってしまったけれど。
歌詞が響くし、歌声は透き通ってて綺麗で、今いちばん好きな曲だ。

思わず、口ずさんでいたら、愁夜が口を塞ぐ。

「ゆう、おま、その曲まだ出てないだろ。公に出すな」
愁夜の言葉にハッとする。

「ごめん」
大ミスだ。誰が聞いているかも、これから聞くのかもわからないのに。

私は制服をいじって、何かを直した感を出す。
そして、愁夜は離れた。

…要するに、愁夜が私に何かを見た目について注意した、という演技である。

こういう即興の演技をするのは、結構得意。
いや、得意でなくても、お互い何を思ってるかなんて大体想像がつくから。
以心伝心、みたいな。
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