ねぇ、嘘じゃないよ
それから少し電車に揺られながら音楽を聴いてると、頭上からアナウンスが響く。
あっ、次だ…。
音楽を止めて、イアフォンを外す。
ケースにしまって鞄に入れたら、ぴょんと電車を降りる。
小走りでスタジオに行って、エレベーターが来るのを待っていると、息を切らした愁夜が後ろからやってきた。
「おい。お前走るなよ」
あれ、ちょっぴり不機嫌?
「仕方ないでしょ。愁夜と一緒に行くわけにもいかないし…」
走ってしまったのは少し申し訳ないけれど、風邪の私服男子高校生と下校中のインキャ女子高校生が一緒にいるわけにもいかないですし。
メガネをしまい、三つ編みを解きながら頬を膨らませる。
ばさばさと髪の毛を顔の左側に寄せると、いつもの自分になった。
渋々と愁夜もメガネをとっている。
マスクを外して髪の毛をちょっと整えてる愁夜をじっと見つめてしまい、目が合う。
慌てて目を逸らすと、にやっと愁夜が笑う気配がした。
「俺がイケメンすぎて見惚れちゃった?」
そんな顔もやっぱり、悔しいくらいかっこよくて。
「はぁ!?んなわけないし!」
なんて、意地を張ってしまった。
自分の顔がいいのは自分がいちばん知ってるくせに。それを使うなんて、卑怯だ。
「…そっかぁ。残念、俺はゆうが可愛すぎてずっと見てたいのに」
「っ…!?」
はぁ、?
「はぁぁぁぁぁ!?」
可愛すぎてずっと見てたい?
私のことが?
「からかうな!!」
ぽかぽか、叩きながら叫ぶ。
私の顔は今、真っ赤なんだろうな。
照れすぎて、思ってることなんて丸見えなんだろうな。
…悔しい。
いつまでも余裕で、こっちがどう思うかなんて何にも考えずにぽんぽんとなんでも言いやがって。