Runaway Love
みんなの心配をよそに、あたしは、午後からの仕事も通常通りにこなす事ができた。
やっぱり、仮眠したのが良かったのかもしれない。
「杉崎、後、営業に領収証の出し忘れが無いか、確認しておいてくれ。週末、中締めだっつって。あそこが一番遅いからな」
「わかりました」
あたしはうなづくと、内線をかける。
『――ハイ。営業一課、早川』
一瞬、息をのむが、すぐに立て直す。
「お疲れ様です。経理部、杉崎です。週末、中締めなので、領収証の出し忘れがあれば、明日までにお願いいたします」
完全な業務連絡。
『了解しました。部長に伝えておきます』
早川も、態度を変えない。
それだけで、安心できた。
あたしは受話器を置き、大野さんにうなづいた。
「早川主任に伝言済みです」
「おう。次、こっち、頼むわ」
大野さんは、机越しに書類を投げ込む。
それを受け取ると、眉を寄せた。
――各地の工場と、支店からの請求書の山と、支払い記録。
「大野さん、これ――」
「先月分の支払い、漏れが無いかチェック。売掛扱いになってるヤツは、今月中に入金処理しておいてくれ」
「は、はい」
なかなかの量に、一瞬たじろぐ。
自分でやると言った以上、大野さんは容赦無かった。
あたしは、書類の束を整えると、チェックを始める。
しばらくやっていると、思った以上に、工場の仕入れが面倒臭かった。
まあ、いろんな種類の製品を作っているのだから、仕方ないにしても――……それぞれ、仕入れ量がまちまちだったり、追加なのか、三日もしないうちに、同じ商品の請求書があったり。
「……大野さん、コレ、もう少しまとまりませんか……?」
「だよなぁ。でも、工場にそれ言うと、角が立つんだよ。向こうには向こうの事情があるから」
「……はあ……」
苦笑いで返す大野さんは、あたしに言った。
「まあ、中央工場に行ってる部長が、少しずつ変えてるらしいから」
「え」
「そうそう。今、フォーム作ってる途中でね」
自然に会話に入って来たので、部長がいた事に気づくのに、全員が遅れた。
「ぶ、部長!」
「ただいま。――来て早々で悪いんだけど、杉崎くん、ちょっといいかな」
あたしは、マスクの下の口元を引き締めた。
社長室に、部長の後に続いて入ると、目の前には、つい先日会ったばかりの社長の姿。
男性秘書の住吉さんが、その長身をピクリとも動かさずに立っている。
そして、部屋の隅に、直立不動で立っているのは、榎本部長と――早川だ。
「済まないね、忙しい時に」
そう言って、あたしの前にやって来た。
「杉崎さん、傷の具合はどんなかな?」
「あ、だ、大丈夫です。――お騒がせして、申し訳ありません……」
「いや、キミ、被害者でしょ。謝る事ないからね」
社長は、続いて、早川を見やる。
「早川くんも、被害者だからね。――キミの責任は問わないから」
「し、しかし……」
すると、視線を落とす早川に代わり、榎本部長が口を開いた。
「――原因は、一方的なものとは言え、早川の接し方にも問題があったのかもしれませんし――」
――は?
あたしは、その言葉に、眉を寄せた。
やっぱり、仮眠したのが良かったのかもしれない。
「杉崎、後、営業に領収証の出し忘れが無いか、確認しておいてくれ。週末、中締めだっつって。あそこが一番遅いからな」
「わかりました」
あたしはうなづくと、内線をかける。
『――ハイ。営業一課、早川』
一瞬、息をのむが、すぐに立て直す。
「お疲れ様です。経理部、杉崎です。週末、中締めなので、領収証の出し忘れがあれば、明日までにお願いいたします」
完全な業務連絡。
『了解しました。部長に伝えておきます』
早川も、態度を変えない。
それだけで、安心できた。
あたしは受話器を置き、大野さんにうなづいた。
「早川主任に伝言済みです」
「おう。次、こっち、頼むわ」
大野さんは、机越しに書類を投げ込む。
それを受け取ると、眉を寄せた。
――各地の工場と、支店からの請求書の山と、支払い記録。
「大野さん、これ――」
「先月分の支払い、漏れが無いかチェック。売掛扱いになってるヤツは、今月中に入金処理しておいてくれ」
「は、はい」
なかなかの量に、一瞬たじろぐ。
自分でやると言った以上、大野さんは容赦無かった。
あたしは、書類の束を整えると、チェックを始める。
しばらくやっていると、思った以上に、工場の仕入れが面倒臭かった。
まあ、いろんな種類の製品を作っているのだから、仕方ないにしても――……それぞれ、仕入れ量がまちまちだったり、追加なのか、三日もしないうちに、同じ商品の請求書があったり。
「……大野さん、コレ、もう少しまとまりませんか……?」
「だよなぁ。でも、工場にそれ言うと、角が立つんだよ。向こうには向こうの事情があるから」
「……はあ……」
苦笑いで返す大野さんは、あたしに言った。
「まあ、中央工場に行ってる部長が、少しずつ変えてるらしいから」
「え」
「そうそう。今、フォーム作ってる途中でね」
自然に会話に入って来たので、部長がいた事に気づくのに、全員が遅れた。
「ぶ、部長!」
「ただいま。――来て早々で悪いんだけど、杉崎くん、ちょっといいかな」
あたしは、マスクの下の口元を引き締めた。
社長室に、部長の後に続いて入ると、目の前には、つい先日会ったばかりの社長の姿。
男性秘書の住吉さんが、その長身をピクリとも動かさずに立っている。
そして、部屋の隅に、直立不動で立っているのは、榎本部長と――早川だ。
「済まないね、忙しい時に」
そう言って、あたしの前にやって来た。
「杉崎さん、傷の具合はどんなかな?」
「あ、だ、大丈夫です。――お騒がせして、申し訳ありません……」
「いや、キミ、被害者でしょ。謝る事ないからね」
社長は、続いて、早川を見やる。
「早川くんも、被害者だからね。――キミの責任は問わないから」
「し、しかし……」
すると、視線を落とす早川に代わり、榎本部長が口を開いた。
「――原因は、一方的なものとは言え、早川の接し方にも問題があったのかもしれませんし――」
――は?
あたしは、その言葉に、眉を寄せた。