Runaway Love
全員、事の次第を聞き終えると、大きく息を吐いた。
「じゃあ、みんなで杉崎くんのフォロー、頼むね。私は、すぐに、工場戻らないと」
部長は、そう言って、大急ぎで荷物を持つと、去って行った。
それを見送ると、全員で席に着き、仕事の続きに手を付ける。
「――まあ、事情が事情なだけに、大っぴらにもできないだろうしな。……最小限のダメージで済めば良いんだが」
大野さんは、そう言うと、少しだけ複雑そうな表情を見せた。
「あたし、SNSチェックしておきます。どのくらい情報が回ってるのか」
外山さんは、気合いを入れて、あたしに言う。
「ええ、まあ、ほどほどで良いわよ。――下手に手出ししたら、逆効果みたいだし」
「わかりました。あ、杉崎主任、今日の締め、あたしの方でやりますんで」
張り切った彼女は、握りこぶしを作って、そう宣言する。
あたしは、それに、素直に甘える事にした。
「そう?じゃあ、お願いね、外山さん」
外山さんは、うなづくと、パソコンのデータを開く。
少しゆっくりではあるけれど、ミスも無く終えたようで、現金の確認を終えると大野さんに金庫の鍵をかけてもらった。
「よし、じゃあ、時間も時間だし、今日はお疲れさん、てコトで」
「はい」
大野さんは、立ち上がると部屋の中を片付けて回る。
今日は、部長の引き継ぎは大丈夫のようだ。
「じゃあ、お疲れ様でしたー!」
外山さんが、明るく挨拶をし、あたし達はそれに返す。
「オレも、今日は用事があるんで、お先」
「あ、はい。お疲れ様です」
大野さんが珍しく急いで帰って行くのを見送り、あたしは後ろの棚に置いていたバッグを持った。
「大野代理、今日、奥さんの誕生日なんだそうですよ」
「え、そうなの⁉」
野口くんが、閉められたドアを見やりながら、そう言った。
大野さんは、あまり見えないが、二人の子持ち。
しかも、結婚が早かったので四十二歳で、既に二人とも成人しているそうだ。ちなみに、奥様は年上との事。
今は、どちらも県外の大学に進学しているそうで、二人暮らし。
自分には、考えられない人生は、まるで、テレビ画面の向こうの事のようだ。
「――じゃあ、オレ達も帰りましょう。――茉奈さん」
「あ、そ、そうね」
あたしは、近くに聞こえた声に、ビクリとしてしまう。
いつの間にか、野口くんはあたしのそばに来ていた。
「……具合、どんなですか?」
「え?」
「――傷の具合、ですよ」
野口くんは、そっと、あたしの手を握る。
「――……見ても、良いですか」
「え、で、でも」
戸惑うあたしに構わず、マスクの耳ヒモが、そっと外される。
その瞬間、息をのむ音が耳に届き、あたしは顔を背けた。
――……ああ、見せたくなかったな……。
そのまま、視線を下げる。
「茉奈さん」
「……まあ、野口くんが心配するほどのものじゃないからさ。気にしなくていいわよ」
「茉奈さんっ……!」
野口くんは、あたしの両肩を掴み、自分の方へ向ける。
「――……何ですか、それ。……何で、オレに、心配されたくないみたいに言うんですか」
あたしは、口をつぐむ。
けれど、野口くんは許してくれなかった。
「じゃあ、みんなで杉崎くんのフォロー、頼むね。私は、すぐに、工場戻らないと」
部長は、そう言って、大急ぎで荷物を持つと、去って行った。
それを見送ると、全員で席に着き、仕事の続きに手を付ける。
「――まあ、事情が事情なだけに、大っぴらにもできないだろうしな。……最小限のダメージで済めば良いんだが」
大野さんは、そう言うと、少しだけ複雑そうな表情を見せた。
「あたし、SNSチェックしておきます。どのくらい情報が回ってるのか」
外山さんは、気合いを入れて、あたしに言う。
「ええ、まあ、ほどほどで良いわよ。――下手に手出ししたら、逆効果みたいだし」
「わかりました。あ、杉崎主任、今日の締め、あたしの方でやりますんで」
張り切った彼女は、握りこぶしを作って、そう宣言する。
あたしは、それに、素直に甘える事にした。
「そう?じゃあ、お願いね、外山さん」
外山さんは、うなづくと、パソコンのデータを開く。
少しゆっくりではあるけれど、ミスも無く終えたようで、現金の確認を終えると大野さんに金庫の鍵をかけてもらった。
「よし、じゃあ、時間も時間だし、今日はお疲れさん、てコトで」
「はい」
大野さんは、立ち上がると部屋の中を片付けて回る。
今日は、部長の引き継ぎは大丈夫のようだ。
「じゃあ、お疲れ様でしたー!」
外山さんが、明るく挨拶をし、あたし達はそれに返す。
「オレも、今日は用事があるんで、お先」
「あ、はい。お疲れ様です」
大野さんが珍しく急いで帰って行くのを見送り、あたしは後ろの棚に置いていたバッグを持った。
「大野代理、今日、奥さんの誕生日なんだそうですよ」
「え、そうなの⁉」
野口くんが、閉められたドアを見やりながら、そう言った。
大野さんは、あまり見えないが、二人の子持ち。
しかも、結婚が早かったので四十二歳で、既に二人とも成人しているそうだ。ちなみに、奥様は年上との事。
今は、どちらも県外の大学に進学しているそうで、二人暮らし。
自分には、考えられない人生は、まるで、テレビ画面の向こうの事のようだ。
「――じゃあ、オレ達も帰りましょう。――茉奈さん」
「あ、そ、そうね」
あたしは、近くに聞こえた声に、ビクリとしてしまう。
いつの間にか、野口くんはあたしのそばに来ていた。
「……具合、どんなですか?」
「え?」
「――傷の具合、ですよ」
野口くんは、そっと、あたしの手を握る。
「――……見ても、良いですか」
「え、で、でも」
戸惑うあたしに構わず、マスクの耳ヒモが、そっと外される。
その瞬間、息をのむ音が耳に届き、あたしは顔を背けた。
――……ああ、見せたくなかったな……。
そのまま、視線を下げる。
「茉奈さん」
「……まあ、野口くんが心配するほどのものじゃないからさ。気にしなくていいわよ」
「茉奈さんっ……!」
野口くんは、あたしの両肩を掴み、自分の方へ向ける。
「――……何ですか、それ。……何で、オレに、心配されたくないみたいに言うんですか」
あたしは、口をつぐむ。
けれど、野口くんは許してくれなかった。