Runaway Love
26
時計を見やれば、まだ深夜。
痛み止めが切れてきたのか、ズキズキと左腕が痛み出す。
けれど、起き上がる気にもなれない。
あたしは、ふと、サイドテーブルに置きっぱなしだった文庫本を手に取った。
野口くんから借りた本は、既に一冊読み終えている。
二冊目を手に取ると、手元用のライトをつけた。
ページをゆっくりめくり、話の中に入っていく。
その感覚が、心地いい。
気がつけば、いつの間にか眠っていて、次に目が覚めたのは――七時半だった。
思わず、ガバリ、と、起き上がり、あたしはベッドから飛び降りた。
「うっそ……!」
マズイ、マズイ!!
あたしは、急いで支度を済ませ、生き残っていた、岡くんがくれたゼリー飲料を流し込む。
最後の一つをバッグに放り込み、昨日のような、傷を隠せる服を探して着る。
今日は、黒のカットソーに、紺色の大人しめな柄のロングスカート。
髪はもう、まとめている暇も無い。
あたしは、最後にマスクをつけるため洗面所に行き、鏡を見た。
頬の腫れは、昨日、野口くんに湿布を貼ってもらったおかげで、だいぶ引いている。
口元の傷は、ほぼ消えていた。
今週乗り切れば、たぶん、来週には社食に行けるくらいにはなるだろう。
――そう思いたい。
そして、いつもよりも、だいぶ遅く家を出る。
ダッシュはできないが、早足で歩けば、ギリギリ間に合うはず。
あたしは、できる限りのスピードで会社へ向かった。
どうやら、今の時間はピークのようで、ドヤドヤと擬音がついたように、社員が正面玄関へ入っていくのが見える。
その波の中に、こっそりと紛れ込み、あたしは痕跡をすべて消し去られたロッカールームへとたどり着いた。
また、ロッカーに紙が貼られていると思ったが、今日は無事だった。
――もしかしたら、帰りに貼られているかもしれないが。
「おはようございますー、杉崎主任!」
「――お、おはよう……」
すると、ロッカールームから出た途端、不意打ちのように挨拶をされ、あたしはそちらを振り返る。
この前の総務部の娘達が、裏から入って来ていて、こちらへやってきた。
「珍しいですねー!杉崎主任が、こんな時間に出勤されるなんて」
「ああ、ちょっと、寝坊しちゃって」
「ええー?あ、お泊りでした?服も髪も、何か違うし」
「こら!!アンタってば、どうしてそう……!!」
なかなかの質問に、どうやって答えようかと悩んだが、一瞬で助け船が来た。
「おはようございます、すみません、朝っぱらから……!ホラ、行くよ、高岡」
「良いじゃん、幸せのおすそ分け、もらいたいー」
あたしは、その返しに思わず吹き出す。
それに気づかず、二人は隣の第二ロッカールームに入って行った。。
――そうね、あたしも、もらいたいわ。
何故か、抵抗も無く話しかけてくれる彼女たちを邪険に思えなくて、あたしは不思議な感覚を覚える。
外山さんもそうだけど――奈津美とは違うタイプの彼女達が、理想の妹のように感じるのだろうか。
そんな事を考えながら、あたしが、一人エレベーターを待っていると、後ろに人の気配を感じ、ゾワリと背筋が反応してしまう。
チラリと後ろを見やれば、たぶん、営業の人間だろう。数人の男性社員が、ひそひそと話しながら、同じようにエレベーターの到着を待っていた。
あたしが敏感になっているだけだと思いたい。
けれど、あの騒ぎは、既に全社員の知るところだ。
同じ箱に乗るのは気が引けて、あたしは、階段へと方向を変えた。
痛み止めが切れてきたのか、ズキズキと左腕が痛み出す。
けれど、起き上がる気にもなれない。
あたしは、ふと、サイドテーブルに置きっぱなしだった文庫本を手に取った。
野口くんから借りた本は、既に一冊読み終えている。
二冊目を手に取ると、手元用のライトをつけた。
ページをゆっくりめくり、話の中に入っていく。
その感覚が、心地いい。
気がつけば、いつの間にか眠っていて、次に目が覚めたのは――七時半だった。
思わず、ガバリ、と、起き上がり、あたしはベッドから飛び降りた。
「うっそ……!」
マズイ、マズイ!!
あたしは、急いで支度を済ませ、生き残っていた、岡くんがくれたゼリー飲料を流し込む。
最後の一つをバッグに放り込み、昨日のような、傷を隠せる服を探して着る。
今日は、黒のカットソーに、紺色の大人しめな柄のロングスカート。
髪はもう、まとめている暇も無い。
あたしは、最後にマスクをつけるため洗面所に行き、鏡を見た。
頬の腫れは、昨日、野口くんに湿布を貼ってもらったおかげで、だいぶ引いている。
口元の傷は、ほぼ消えていた。
今週乗り切れば、たぶん、来週には社食に行けるくらいにはなるだろう。
――そう思いたい。
そして、いつもよりも、だいぶ遅く家を出る。
ダッシュはできないが、早足で歩けば、ギリギリ間に合うはず。
あたしは、できる限りのスピードで会社へ向かった。
どうやら、今の時間はピークのようで、ドヤドヤと擬音がついたように、社員が正面玄関へ入っていくのが見える。
その波の中に、こっそりと紛れ込み、あたしは痕跡をすべて消し去られたロッカールームへとたどり着いた。
また、ロッカーに紙が貼られていると思ったが、今日は無事だった。
――もしかしたら、帰りに貼られているかもしれないが。
「おはようございますー、杉崎主任!」
「――お、おはよう……」
すると、ロッカールームから出た途端、不意打ちのように挨拶をされ、あたしはそちらを振り返る。
この前の総務部の娘達が、裏から入って来ていて、こちらへやってきた。
「珍しいですねー!杉崎主任が、こんな時間に出勤されるなんて」
「ああ、ちょっと、寝坊しちゃって」
「ええー?あ、お泊りでした?服も髪も、何か違うし」
「こら!!アンタってば、どうしてそう……!!」
なかなかの質問に、どうやって答えようかと悩んだが、一瞬で助け船が来た。
「おはようございます、すみません、朝っぱらから……!ホラ、行くよ、高岡」
「良いじゃん、幸せのおすそ分け、もらいたいー」
あたしは、その返しに思わず吹き出す。
それに気づかず、二人は隣の第二ロッカールームに入って行った。。
――そうね、あたしも、もらいたいわ。
何故か、抵抗も無く話しかけてくれる彼女たちを邪険に思えなくて、あたしは不思議な感覚を覚える。
外山さんもそうだけど――奈津美とは違うタイプの彼女達が、理想の妹のように感じるのだろうか。
そんな事を考えながら、あたしが、一人エレベーターを待っていると、後ろに人の気配を感じ、ゾワリと背筋が反応してしまう。
チラリと後ろを見やれば、たぶん、営業の人間だろう。数人の男性社員が、ひそひそと話しながら、同じようにエレベーターの到着を待っていた。
あたしが敏感になっているだけだと思いたい。
けれど、あの騒ぎは、既に全社員の知るところだ。
同じ箱に乗るのは気が引けて、あたしは、階段へと方向を変えた。