Runaway Love
二人、少しだけ時間を使い、熱を持った身体を落ち着けると、ようやく顔を合わせる事ができた。
何だか顔を合わせるのが恥ずかしすぎて、お互いに少しだけ視線をそらしたまま、向かい合って座る。
「――……すみません。……こんなつもりじゃ無かったんですが……」
「気にしないで。――それより、顔色戻ったみたいね。落ち着いた?」
野口くんは、うなづくと、苦笑いを浮かべる。
「……良い感じに気がそれたみたいで」
「でも、そのたびにキスするのは止めてよね。会社じゃ、バレたら大変だから」
「しませんよ。――あんな表情の茉奈さん、他のヤツ等に見せたくありませんから」
拗ねたようにそう言って、その長い脚を片方抱えて、こちらを見やる野口くんは、どこかの雑誌の表紙に見える。
あたしは、反応に困り、思わず視線をそらしてしまった。
「茉奈さん?」
「……だ、だから、別に意識してやってる訳じゃないんだから」
「無意識だから、余計心配なんですってば」
何だか結論が出なさそうなので、あたしは、立ち上がって会話を切った。
「まあ、もう、駆くんにしか見せないんだろうから、良しにしてくれない?」
すると、彼はそのまま顔を自分の抱えた脚にうずめる。
「駆くん?」
「……無意識なのは、表情以外もですか」
「は?」
あたしが眉を寄せると、野口くんは顔を上げる。
何故か耳まで真っ赤だ。
「……自分の言った言葉の破壊力、理解してくださいよ……」
「……わかんないわよ、もうっ……!」
あたしは、ふてくされながら、キッチンに向かい、ようやく夕飯の支度にとりかかれたのだった。
それから、少し遅くなった夕飯を終え、野口くんは先ほど見られなかった、あたしの本棚を眺める。
「あ、こっちのシリーズ持ってたんですね」
「ええ。――昔、一番ハマっててね。……学生の頃だから……もう、十年以上前にもなるのね」
一冊、彼から借りた本と同じ、芦屋先生のものを差し出すと、野口くんは、興味深そうに受け取った。
リアルタイムで買った本は、表紙はかなりくたびれているが、自分なりに大事にしていたものだ。
「……何か、そういうの聞くと、茉奈さんが年上なんだって再認識しますね」
「――おばさんだとか言う?」
「言いませんよ。――こんなに可愛いのに」
「かっ……!!」
スルッと出てくる言葉に、硬直してしまう。
当の野口くんは、少し上機嫌に、受け取った本をめくっている。
「……また、無意識に出たわね」
「え?」
キョトンとあたしを見る彼は、自分が何を言ったのかも気づいていないようだ。
「――か、可愛いとか……あたしじゃなきゃ、誤解されるでしょ」
彼の言葉は、やはり、その外見と相まって、受け取る側にとっては衝撃的になるのだ。
「え、そ、そういうのもダメですか?」
「ダメっていうか……他の女性なら勘違いするって話」
「すみません……。でも……オレ、今、こうやって、まともに話せる女性って、茉奈さんだけなんで。……他の女性は、限界まで頑張って、やっと少し会話が成立する感じで……」
少ししょげたように言い、野口くんは視線を落とす。
「だ、大丈夫よ。……自覚があるなら良いって、言ったでしょ。無理してほしい訳じゃないわ」
「――ハイ。でも、気をつけます。茉奈さんに誤解されるの、嫌なんで」
そう言って、頭を下げようとするので、慌てて止めた。
「わかってるってば。だから、もう、良いにしましょ。それより、本、どれか持って行く?」
これ以上は、彼の精神状態に響きそうなので、あたしは無理矢理に話題をそらした。
「あ、じゃあ――……」
野口くんは、改めてあたしが渡した本と、シリーズ全八冊のうち、半分――四冊を持った。
「ひとまず、半分、貸してください」
「どうぞ。――終わりそうなら、言ってね」
「ハイ」
「あ、あと、徹夜禁止。仕事に響くようなら、次は貸しません」
あたしは、そう言って、野口くんを見上げる。
すると、彼はクスリと笑い、うなづいた。
「――それは困るんで、頑張ります」
そうして、あたしのアパートを後にしたのは、十時を過ぎたあたりだった。
何だか顔を合わせるのが恥ずかしすぎて、お互いに少しだけ視線をそらしたまま、向かい合って座る。
「――……すみません。……こんなつもりじゃ無かったんですが……」
「気にしないで。――それより、顔色戻ったみたいね。落ち着いた?」
野口くんは、うなづくと、苦笑いを浮かべる。
「……良い感じに気がそれたみたいで」
「でも、そのたびにキスするのは止めてよね。会社じゃ、バレたら大変だから」
「しませんよ。――あんな表情の茉奈さん、他のヤツ等に見せたくありませんから」
拗ねたようにそう言って、その長い脚を片方抱えて、こちらを見やる野口くんは、どこかの雑誌の表紙に見える。
あたしは、反応に困り、思わず視線をそらしてしまった。
「茉奈さん?」
「……だ、だから、別に意識してやってる訳じゃないんだから」
「無意識だから、余計心配なんですってば」
何だか結論が出なさそうなので、あたしは、立ち上がって会話を切った。
「まあ、もう、駆くんにしか見せないんだろうから、良しにしてくれない?」
すると、彼はそのまま顔を自分の抱えた脚にうずめる。
「駆くん?」
「……無意識なのは、表情以外もですか」
「は?」
あたしが眉を寄せると、野口くんは顔を上げる。
何故か耳まで真っ赤だ。
「……自分の言った言葉の破壊力、理解してくださいよ……」
「……わかんないわよ、もうっ……!」
あたしは、ふてくされながら、キッチンに向かい、ようやく夕飯の支度にとりかかれたのだった。
それから、少し遅くなった夕飯を終え、野口くんは先ほど見られなかった、あたしの本棚を眺める。
「あ、こっちのシリーズ持ってたんですね」
「ええ。――昔、一番ハマっててね。……学生の頃だから……もう、十年以上前にもなるのね」
一冊、彼から借りた本と同じ、芦屋先生のものを差し出すと、野口くんは、興味深そうに受け取った。
リアルタイムで買った本は、表紙はかなりくたびれているが、自分なりに大事にしていたものだ。
「……何か、そういうの聞くと、茉奈さんが年上なんだって再認識しますね」
「――おばさんだとか言う?」
「言いませんよ。――こんなに可愛いのに」
「かっ……!!」
スルッと出てくる言葉に、硬直してしまう。
当の野口くんは、少し上機嫌に、受け取った本をめくっている。
「……また、無意識に出たわね」
「え?」
キョトンとあたしを見る彼は、自分が何を言ったのかも気づいていないようだ。
「――か、可愛いとか……あたしじゃなきゃ、誤解されるでしょ」
彼の言葉は、やはり、その外見と相まって、受け取る側にとっては衝撃的になるのだ。
「え、そ、そういうのもダメですか?」
「ダメっていうか……他の女性なら勘違いするって話」
「すみません……。でも……オレ、今、こうやって、まともに話せる女性って、茉奈さんだけなんで。……他の女性は、限界まで頑張って、やっと少し会話が成立する感じで……」
少ししょげたように言い、野口くんは視線を落とす。
「だ、大丈夫よ。……自覚があるなら良いって、言ったでしょ。無理してほしい訳じゃないわ」
「――ハイ。でも、気をつけます。茉奈さんに誤解されるの、嫌なんで」
そう言って、頭を下げようとするので、慌てて止めた。
「わかってるってば。だから、もう、良いにしましょ。それより、本、どれか持って行く?」
これ以上は、彼の精神状態に響きそうなので、あたしは無理矢理に話題をそらした。
「あ、じゃあ――……」
野口くんは、改めてあたしが渡した本と、シリーズ全八冊のうち、半分――四冊を持った。
「ひとまず、半分、貸してください」
「どうぞ。――終わりそうなら、言ってね」
「ハイ」
「あ、あと、徹夜禁止。仕事に響くようなら、次は貸しません」
あたしは、そう言って、野口くんを見上げる。
すると、彼はクスリと笑い、うなづいた。
「――それは困るんで、頑張ります」
そうして、あたしのアパートを後にしたのは、十時を過ぎたあたりだった。