Runaway Love
午前中は、大野さんの仕事は落ち着いていたので、あたしは外山さんに細かい引き継ぎをした。
ベースはできてきたが、イレギュラー対応などは、まだ伝えていない。
「――じゃあ、こういうのは返しても良いんですね」
「そうね。もう一回、書き直してもらって」
あたしは、自分で作ったトラブルシューティングのファイルを彼女に見せながら、説明を続ける。
過去に発生した大騒ぎの元など、記録しておいた方が良いようなものは、コピーを取るなどして、残している。
――次は無いように。自分に被害が及ばない為の処世術だ。
外山さんは、自分のノートにメモを取りながら、あたしの話を聞いて、うなづいたり質問したり。
やっぱり、この前聞いた本心は、本当なんだと嬉しくなった。
「杉崎、午後から、中締め用の書類とデータ揃えておいてくれ」
すると、大野さんがパソコンをにらんだまま、あたしに指示を出す。
「わかりました。いつも通りで大丈夫ですか」
「ああ。ひとまず、帳簿と領収証、伝票で大丈夫だろ。デカいものはオレの方でやっておく」
「お願いします」
あたしはうなづくと、再び外山さんに、細かい資料の見方などの説明を始めた。
お昼休みになると、いつものように大野さんと外山さんは、あっさりと部屋を出て行った。
「――杉崎主任、お昼、まだ、ここですか?」
野口くんは、隣にやって来ると、あたしをのぞき込んで尋ねる。
「……まあ、まだ、痕は残ってるし……週末くらいには、大丈夫になるんじゃないの」
あたしは、無意識にマスクを触る。
頬の痛みと腫れはだいぶ引いたけれど、青あざが目立ってきてしまった。
「――……早く、元に戻ると良いですね……」
「ありがと」
野口くんは、眉を寄せて、あたしの頬にマスク越しに触れた。
瞬間、この前のキスが思い出され、思わず顔を伏せる。
「杉崎主任?」
「……ご、ごめんなさい。……ちょっと……その、恥ずかしくなったっていうか……」
「――え」
あたしは、チラリと野口くんを見上げて続けた。
「……せ、先週……」
「え、あ」
野口くんも、つられて固まる。
そして、あたしの頬をそっと撫で、マスクを取った。
「野口くん?」
「――あんまり、可愛い事言わないでくださいよ」
「え」
どこが、と、反論する間もなく、唇が重なる。
「オレ、これでも結構ガマンしてますんで」
「――……もう……」
あたしは、クスリ、と、笑う野口くんを、にらむ。
彼は、すぐに、あたしのマスクを戻すと、耳元で囁いた。
「――今日は、ウチ来ますか?」
「え?」
「都合、悪いですか」
「……悪いというか……週末、実家でつぶしちゃったから、やる事多くて……」
若干、言い訳のようになってしまうが、事実ではある。
野口くんは、納得してくれたようで苦笑いでうなづいた。
「ありがと。それより、社食、行かなくていいの?」
昼休みの時間が無くなるのはマズい。
野口くんは、気乗りしなさそうだが、食べない訳にもいかない。
「ホラ、食べるだけ食べてらっしゃい。今日は、中締めなんだから、お腹すくわよ」
「――わかりました」
ふてくされたようにうなづくと、野口くんは部屋を出て行った。
ベースはできてきたが、イレギュラー対応などは、まだ伝えていない。
「――じゃあ、こういうのは返しても良いんですね」
「そうね。もう一回、書き直してもらって」
あたしは、自分で作ったトラブルシューティングのファイルを彼女に見せながら、説明を続ける。
過去に発生した大騒ぎの元など、記録しておいた方が良いようなものは、コピーを取るなどして、残している。
――次は無いように。自分に被害が及ばない為の処世術だ。
外山さんは、自分のノートにメモを取りながら、あたしの話を聞いて、うなづいたり質問したり。
やっぱり、この前聞いた本心は、本当なんだと嬉しくなった。
「杉崎、午後から、中締め用の書類とデータ揃えておいてくれ」
すると、大野さんがパソコンをにらんだまま、あたしに指示を出す。
「わかりました。いつも通りで大丈夫ですか」
「ああ。ひとまず、帳簿と領収証、伝票で大丈夫だろ。デカいものはオレの方でやっておく」
「お願いします」
あたしはうなづくと、再び外山さんに、細かい資料の見方などの説明を始めた。
お昼休みになると、いつものように大野さんと外山さんは、あっさりと部屋を出て行った。
「――杉崎主任、お昼、まだ、ここですか?」
野口くんは、隣にやって来ると、あたしをのぞき込んで尋ねる。
「……まあ、まだ、痕は残ってるし……週末くらいには、大丈夫になるんじゃないの」
あたしは、無意識にマスクを触る。
頬の痛みと腫れはだいぶ引いたけれど、青あざが目立ってきてしまった。
「――……早く、元に戻ると良いですね……」
「ありがと」
野口くんは、眉を寄せて、あたしの頬にマスク越しに触れた。
瞬間、この前のキスが思い出され、思わず顔を伏せる。
「杉崎主任?」
「……ご、ごめんなさい。……ちょっと……その、恥ずかしくなったっていうか……」
「――え」
あたしは、チラリと野口くんを見上げて続けた。
「……せ、先週……」
「え、あ」
野口くんも、つられて固まる。
そして、あたしの頬をそっと撫で、マスクを取った。
「野口くん?」
「――あんまり、可愛い事言わないでくださいよ」
「え」
どこが、と、反論する間もなく、唇が重なる。
「オレ、これでも結構ガマンしてますんで」
「――……もう……」
あたしは、クスリ、と、笑う野口くんを、にらむ。
彼は、すぐに、あたしのマスクを戻すと、耳元で囁いた。
「――今日は、ウチ来ますか?」
「え?」
「都合、悪いですか」
「……悪いというか……週末、実家でつぶしちゃったから、やる事多くて……」
若干、言い訳のようになってしまうが、事実ではある。
野口くんは、納得してくれたようで苦笑いでうなづいた。
「ありがと。それより、社食、行かなくていいの?」
昼休みの時間が無くなるのはマズい。
野口くんは、気乗りしなさそうだが、食べない訳にもいかない。
「ホラ、食べるだけ食べてらっしゃい。今日は、中締めなんだから、お腹すくわよ」
「――わかりました」
ふてくされたようにうなづくと、野口くんは部屋を出て行った。