Runaway Love
何とか産婦人科までこらえてくれた奈津美は、緊急で入院する事になった。
ひとまず、今は、処置室で、吐き気止めなどの薬が入った点滴を打っている。
「――何か、いるもの、あるの?」
あたしは、ベッドに横になっている奈津美のそばに来て尋ねた。
さっきよりも顔色が戻ってきたので、薬が効いているのだろう。
「……ん……。ひとまず、入院セット作って、実家に置いてあるから持って来て……」
「な、何それ?」
「いつ入院するか、わかんないからさ……。着替えとか必要なもの、いろいろとバッグに入れたヤツ……用意してあるの。――お母さんに聞けば、わかるよ」
急に、奈津美の顔つきが変わった気がして、あたしは、一瞬たじろぐ。
――いつの間に、こんなにしっかりしたのよ。
すると、奈津美は、かすかに苦笑いを浮かべた。
「……お姉ちゃん、アタシさ……キツイはキツイんだけど……親になるんだって思ったら、結構、我慢できちゃうみたい――」
「え」
「お腹に赤ちゃんがいるって思ったら……テルとの子供だって思ったら、何か、頑張れるっていうか……」
そこまで言うと、奈津美は、深呼吸して続けた。
まだ、吐き気は完全に収まってはいないようだ。
「――……って、まあ……アタシのガラじゃないんだけど、ね……」
そう言って、少しだけ恥ずかしそうに微笑む奈津美に、あたしは言葉を失う。
――あたし、何を偉そうに。
不憫だなんて、失礼にも程がある。
奈津美は――全部、理解した上で、苦しくても頑張ってるのに。
「……ごめん……」
「え?」
「……あたし、全然理解してなくて……」
すると、奈津美は首を振る。
「仕方ないよ……だって、お姉ちゃん、子供産んだ事無いじゃない」
その否定的な言葉に、無意識に唇を噛む。
――それは事実だ。
けれど、それは、あたしが覚悟して選んだ道。
それでも、今の奈津美に反論する気には、なれなかった。
「――それに、将太も言ってたでしょ……個人差あるのよ。……アタシは、たまたま……こんな風だったってだけ」
無理矢理笑みを浮かべるが、もう、しゃべらない方が良いだろう。
「……わかったから……もう、寝なさい」
あたしは、それだけ言うと、奈津美から視線をそらす。
奈津美は、素直にうなづくと、目を閉じた。
――もし……あたしが、恋愛して、結婚して――子供がいたら……奈津美の言う事も、理解できたんだろうか……。
そんな風に傾く思考は、すぐに停止させた。
あたしは、点滴を刺している腕をよけて、奈津美に布団をかけ直した。
「……じゃあ、あたし、母さんと照行くんに連絡して、荷物取って来るから」
「……うん。……お願い……お姉ちゃん……」
もう、半分寝かけているのだろう。
少しだけ、甘えた口調で、奈津美は返す。
――ほんの少しだけ、幼い頃に戻ったようで――あたしは、軽く、ポンポン、と、布団を叩いた。
あたしが、一人処置室を出ると、廊下で岡くんが心配そうに待っていた。
「――入院、だそうよ」
一言、それだけ言うと、彼は眉を寄せて、そしてうなづいた。
「……じゃあ、オレ、テルに連絡します」
「――ええ、お願い。……後、実家に入院用の荷物があるらしいから、持って来てって。あたし、母さんに連絡して、聞いてみるわ」
そう言って、お互いに携帯電話の通話スペースに歩き出す。
一階ロビーの奥。そう、人もいない場所。
けれど、お互いに、何となく距離を取っている。
それが、無性に、さみしく感じてしまい、あたしはそれを振り払う。
そして、母さんに電話をかけた。
ひとまず、今は、処置室で、吐き気止めなどの薬が入った点滴を打っている。
「――何か、いるもの、あるの?」
あたしは、ベッドに横になっている奈津美のそばに来て尋ねた。
さっきよりも顔色が戻ってきたので、薬が効いているのだろう。
「……ん……。ひとまず、入院セット作って、実家に置いてあるから持って来て……」
「な、何それ?」
「いつ入院するか、わかんないからさ……。着替えとか必要なもの、いろいろとバッグに入れたヤツ……用意してあるの。――お母さんに聞けば、わかるよ」
急に、奈津美の顔つきが変わった気がして、あたしは、一瞬たじろぐ。
――いつの間に、こんなにしっかりしたのよ。
すると、奈津美は、かすかに苦笑いを浮かべた。
「……お姉ちゃん、アタシさ……キツイはキツイんだけど……親になるんだって思ったら、結構、我慢できちゃうみたい――」
「え」
「お腹に赤ちゃんがいるって思ったら……テルとの子供だって思ったら、何か、頑張れるっていうか……」
そこまで言うと、奈津美は、深呼吸して続けた。
まだ、吐き気は完全に収まってはいないようだ。
「――……って、まあ……アタシのガラじゃないんだけど、ね……」
そう言って、少しだけ恥ずかしそうに微笑む奈津美に、あたしは言葉を失う。
――あたし、何を偉そうに。
不憫だなんて、失礼にも程がある。
奈津美は――全部、理解した上で、苦しくても頑張ってるのに。
「……ごめん……」
「え?」
「……あたし、全然理解してなくて……」
すると、奈津美は首を振る。
「仕方ないよ……だって、お姉ちゃん、子供産んだ事無いじゃない」
その否定的な言葉に、無意識に唇を噛む。
――それは事実だ。
けれど、それは、あたしが覚悟して選んだ道。
それでも、今の奈津美に反論する気には、なれなかった。
「――それに、将太も言ってたでしょ……個人差あるのよ。……アタシは、たまたま……こんな風だったってだけ」
無理矢理笑みを浮かべるが、もう、しゃべらない方が良いだろう。
「……わかったから……もう、寝なさい」
あたしは、それだけ言うと、奈津美から視線をそらす。
奈津美は、素直にうなづくと、目を閉じた。
――もし……あたしが、恋愛して、結婚して――子供がいたら……奈津美の言う事も、理解できたんだろうか……。
そんな風に傾く思考は、すぐに停止させた。
あたしは、点滴を刺している腕をよけて、奈津美に布団をかけ直した。
「……じゃあ、あたし、母さんと照行くんに連絡して、荷物取って来るから」
「……うん。……お願い……お姉ちゃん……」
もう、半分寝かけているのだろう。
少しだけ、甘えた口調で、奈津美は返す。
――ほんの少しだけ、幼い頃に戻ったようで――あたしは、軽く、ポンポン、と、布団を叩いた。
あたしが、一人処置室を出ると、廊下で岡くんが心配そうに待っていた。
「――入院、だそうよ」
一言、それだけ言うと、彼は眉を寄せて、そしてうなづいた。
「……じゃあ、オレ、テルに連絡します」
「――ええ、お願い。……後、実家に入院用の荷物があるらしいから、持って来てって。あたし、母さんに連絡して、聞いてみるわ」
そう言って、お互いに携帯電話の通話スペースに歩き出す。
一階ロビーの奥。そう、人もいない場所。
けれど、お互いに、何となく距離を取っている。
それが、無性に、さみしく感じてしまい、あたしはそれを振り払う。
そして、母さんに電話をかけた。