Runaway Love
それから、目が覚めた奈津美は、点滴を終えて病室に移動した。
幸い、四人部屋とはいえ、二人しか入っておらず、それぞれがカーテンで仕切られているので、他の人の顔すらわからなかった。
「じゃあ、帰るけど――何かあったら、連絡ちょうだい」
岡くんからの連絡を受け、照行くんが、急きょ出張を切り上げて帰って来られるらしい。
ついでなので、実家に寄って、入院用のバッグを持って来てもらう事にしたので、あたしは、そのまま帰る事にした。
バッグを持つと、ベッドに横になった奈津美を見下ろす。
「うん。――ありがと、お姉ちゃん」
若干、血の気が戻ってきたのか、しっかりとした口調で、うなづいて返してきたので、少しホッとする。
いくら、苦手な妹とはいえ、病床についている時に邪険にできはしない。
「後で、照行くんが来ると思うから」
「――うん。……あのさ、お姉ちゃん」
「何よ」
「……アタシ、将太とは、ずっと友達だから」
「――……何よ、急に」
「だから――……将太の事、傷つけないであげて」
息をのんだあたしから視線をそらし、奈津美は続けた。
「……お姉ちゃんからしたら、ウザいかもしれないけど……アイツ、中坊の時から、いろいろあっても、根っこは何にも変わってないんだ。――……アタシ等には、考えられないくらい、純粋で――」
「――……そう」
あたしは、それだけ言うと、病室を後にした。
――……そんなの、あたしには、関係無いわよ。
あのコが、どういうつもりで、あたしに近づいてきたのかなんて、もう、どうでもいい。
あたしは、ただ――……今までの”あたし”を捨てたくないだけ。
二十九年――どんなに悪い事だって、すべて我慢して飲み込んできて……ようやく、自分と折り合いがついてきたと思ったのに。
岡くんといると、それが、すべて間違いだったように思えてしまう。
――それは、どうしても、認めたくは無かった。
あたしは、入院病棟がある二階から下りながら、ふと気づき、足を止める。
このままじゃ、岡くんと二人で、産婦人科を出てしまう事になるじゃない。
――二人きりには、ならないでください。
野口くんの言葉を思い出し、あたしはスマホを取り出す。
通話スペースに向かうと、岡くんの番号を呼び出した。
『茉奈さん?終わりましたか?』
何事も無かったかのような口調。
それは、あくまで、あたしに気を遣ってからか。
あたしは、ためらいがちに口を開く。
「――あたし、タクシーで帰るから」
『え?』
「――……アンタと二人で、産婦人科出てきたなんて、誰かに見られたくないの」
そう告げると、彼の返事も聞かずに、通話を終える。
そして、すぐに、いつものタクシー会社に電話すると、十分もしないうちに、一台到着し、あたしは、アパートまで帰ったのだった。
部屋のドアを開けると、あたしはその場に座り込んだ。
あまりにも目まぐるしすぎて、頭が停止しそうになる。
――……いつになったら……元に戻れるんだろう……。
早く、昔のように一人でいたいと思っても――……きっと、もう、無理なんだとわかっている。
けれど、思わずにはいられなかった。
幸い、四人部屋とはいえ、二人しか入っておらず、それぞれがカーテンで仕切られているので、他の人の顔すらわからなかった。
「じゃあ、帰るけど――何かあったら、連絡ちょうだい」
岡くんからの連絡を受け、照行くんが、急きょ出張を切り上げて帰って来られるらしい。
ついでなので、実家に寄って、入院用のバッグを持って来てもらう事にしたので、あたしは、そのまま帰る事にした。
バッグを持つと、ベッドに横になった奈津美を見下ろす。
「うん。――ありがと、お姉ちゃん」
若干、血の気が戻ってきたのか、しっかりとした口調で、うなづいて返してきたので、少しホッとする。
いくら、苦手な妹とはいえ、病床についている時に邪険にできはしない。
「後で、照行くんが来ると思うから」
「――うん。……あのさ、お姉ちゃん」
「何よ」
「……アタシ、将太とは、ずっと友達だから」
「――……何よ、急に」
「だから――……将太の事、傷つけないであげて」
息をのんだあたしから視線をそらし、奈津美は続けた。
「……お姉ちゃんからしたら、ウザいかもしれないけど……アイツ、中坊の時から、いろいろあっても、根っこは何にも変わってないんだ。――……アタシ等には、考えられないくらい、純粋で――」
「――……そう」
あたしは、それだけ言うと、病室を後にした。
――……そんなの、あたしには、関係無いわよ。
あのコが、どういうつもりで、あたしに近づいてきたのかなんて、もう、どうでもいい。
あたしは、ただ――……今までの”あたし”を捨てたくないだけ。
二十九年――どんなに悪い事だって、すべて我慢して飲み込んできて……ようやく、自分と折り合いがついてきたと思ったのに。
岡くんといると、それが、すべて間違いだったように思えてしまう。
――それは、どうしても、認めたくは無かった。
あたしは、入院病棟がある二階から下りながら、ふと気づき、足を止める。
このままじゃ、岡くんと二人で、産婦人科を出てしまう事になるじゃない。
――二人きりには、ならないでください。
野口くんの言葉を思い出し、あたしはスマホを取り出す。
通話スペースに向かうと、岡くんの番号を呼び出した。
『茉奈さん?終わりましたか?』
何事も無かったかのような口調。
それは、あくまで、あたしに気を遣ってからか。
あたしは、ためらいがちに口を開く。
「――あたし、タクシーで帰るから」
『え?』
「――……アンタと二人で、産婦人科出てきたなんて、誰かに見られたくないの」
そう告げると、彼の返事も聞かずに、通話を終える。
そして、すぐに、いつものタクシー会社に電話すると、十分もしないうちに、一台到着し、あたしは、アパートまで帰ったのだった。
部屋のドアを開けると、あたしはその場に座り込んだ。
あまりにも目まぐるしすぎて、頭が停止しそうになる。
――……いつになったら……元に戻れるんだろう……。
早く、昔のように一人でいたいと思っても――……きっと、もう、無理なんだとわかっている。
けれど、思わずにはいられなかった。