Runaway Love
34
――何だ、付き合ってないのかよ。
そんな言葉が耳に入り、あたしは足を止めた。
高校の図書室。
今日は、委員会の担当の日ではないけれど、本を借りたくて、受付時間ギリギリに駆け込もうとしたのだ。
もう、残っている生徒も、ほとんどいないと思っていたそこから、話し声が聞こえ、思わず、その場で固まってしまった。
――まあ、最初は、ちょっと遊んでみようかと思ったんだけどさ、あのコ、思った以上に融通利かなくて。
聞こえてきたのは――先輩の声。
――で、妹にいったって?ヤバくねぇ?中坊だろ?
――いや、写真見ろって。最初に、隠し撮りしといたんだよ。
すると、数人の男子のどよめく声。
聞くに堪えない言葉が、耳の中に蓄積していく。
――ああ……早く逃げなきゃ……。
けれど、身体は固まったまま動けない。
――でも、ガード固いんだよ、あのコが。保護者面して、連絡先も教えないように念を押してるみたいでさ。
心臓の音が、やけに速く聞こえる。
――ったく、何のために、つまんないのガマンして、機嫌取ってると思ってるんだっての。
不機嫌そうな声に、足が震えて力が入らない。
――けどよ、一回くらい、ヤッても良いんじゃねぇの。せっかくだし。
――ええー、面倒そうじゃん。マジになられたら、後々さ。
どうにか気力を振り絞って動かした足で、ようやく歩き出す。
にじみそうになる涙は、唇を噛みしめて我慢した。
……やっぱり――……そうだ、よね。
――……あたしなんか、奈津美のおまけでしかない。
……本気で好きになってくれる人なんて、いる訳が、ないんだ。
スマホのアラームで、目が開く。
あたしは、ゆるゆると起き上がると、辺りを見回し、ようやく夢だと認識できた。
嫌な汗が、インナーにまで染み込み、気持ち悪い。
高校の時の夢。
最近、ようやく頻度が減ったと思ったのに。
――やっぱり、先輩本人と会ってしまったせいか。
あたしは、ベッドから下りると、そのままシャワーを浴びる事にする。
服は雑に脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んだ。
今日は日曜。昨日は結局、妙に疲れて、何もできずに終わったのだ。
大物の洗濯と、掃除。一週間分のまとめ買い。
いつものルーティンを頭に思い浮かべながら、汗を流していると、ふと、左腕の傷が視界に入る。
まじまじと見るが、もう、ほとんどふさがっていて、目を凝らさないと良く見えない程だった。
――良かった。
身体に傷が残るのは、もう、しょうがないと思っていた。
これで、岩泉さんを、必要以上に恨まなくて済むだろう。
あたしは、そのままシャワーを止め、バスタオルで身体を拭く。
思わず、自分の身体を見下ろしてしまい、気分は落ちた。
――……本当に、次は、しちゃうんだろうか。
この前の事を思い出し、挙動不審になりそうだけど、覚悟はしなきゃいけないのだ。
もう、たぶん――野口くんは、そういうつもりなんだろうから。
――……でも、何だか、申し訳無いな。
……スタイルが良い訳じゃないし、肌だって、そんなにキレイに見えない。
奈津美みたいに手入れを欠かさないとか、考えた事もなかった。
いざ、自分が、その状況に立たされて、初めて現実を認識した。
――……岡くんは……どう思ったんだろ……。
考えてしまい、慌てて首を振る。
そんなのは、もう、どうでもいい。
――あたしは、彼を振ったんだから。
そんな言葉が耳に入り、あたしは足を止めた。
高校の図書室。
今日は、委員会の担当の日ではないけれど、本を借りたくて、受付時間ギリギリに駆け込もうとしたのだ。
もう、残っている生徒も、ほとんどいないと思っていたそこから、話し声が聞こえ、思わず、その場で固まってしまった。
――まあ、最初は、ちょっと遊んでみようかと思ったんだけどさ、あのコ、思った以上に融通利かなくて。
聞こえてきたのは――先輩の声。
――で、妹にいったって?ヤバくねぇ?中坊だろ?
――いや、写真見ろって。最初に、隠し撮りしといたんだよ。
すると、数人の男子のどよめく声。
聞くに堪えない言葉が、耳の中に蓄積していく。
――ああ……早く逃げなきゃ……。
けれど、身体は固まったまま動けない。
――でも、ガード固いんだよ、あのコが。保護者面して、連絡先も教えないように念を押してるみたいでさ。
心臓の音が、やけに速く聞こえる。
――ったく、何のために、つまんないのガマンして、機嫌取ってると思ってるんだっての。
不機嫌そうな声に、足が震えて力が入らない。
――けどよ、一回くらい、ヤッても良いんじゃねぇの。せっかくだし。
――ええー、面倒そうじゃん。マジになられたら、後々さ。
どうにか気力を振り絞って動かした足で、ようやく歩き出す。
にじみそうになる涙は、唇を噛みしめて我慢した。
……やっぱり――……そうだ、よね。
――……あたしなんか、奈津美のおまけでしかない。
……本気で好きになってくれる人なんて、いる訳が、ないんだ。
スマホのアラームで、目が開く。
あたしは、ゆるゆると起き上がると、辺りを見回し、ようやく夢だと認識できた。
嫌な汗が、インナーにまで染み込み、気持ち悪い。
高校の時の夢。
最近、ようやく頻度が減ったと思ったのに。
――やっぱり、先輩本人と会ってしまったせいか。
あたしは、ベッドから下りると、そのままシャワーを浴びる事にする。
服は雑に脱ぎ捨て、洗濯機に放り込んだ。
今日は日曜。昨日は結局、妙に疲れて、何もできずに終わったのだ。
大物の洗濯と、掃除。一週間分のまとめ買い。
いつものルーティンを頭に思い浮かべながら、汗を流していると、ふと、左腕の傷が視界に入る。
まじまじと見るが、もう、ほとんどふさがっていて、目を凝らさないと良く見えない程だった。
――良かった。
身体に傷が残るのは、もう、しょうがないと思っていた。
これで、岩泉さんを、必要以上に恨まなくて済むだろう。
あたしは、そのままシャワーを止め、バスタオルで身体を拭く。
思わず、自分の身体を見下ろしてしまい、気分は落ちた。
――……本当に、次は、しちゃうんだろうか。
この前の事を思い出し、挙動不審になりそうだけど、覚悟はしなきゃいけないのだ。
もう、たぶん――野口くんは、そういうつもりなんだろうから。
――……でも、何だか、申し訳無いな。
……スタイルが良い訳じゃないし、肌だって、そんなにキレイに見えない。
奈津美みたいに手入れを欠かさないとか、考えた事もなかった。
いざ、自分が、その状況に立たされて、初めて現実を認識した。
――……岡くんは……どう思ったんだろ……。
考えてしまい、慌てて首を振る。
そんなのは、もう、どうでもいい。
――あたしは、彼を振ったんだから。