Runaway Love
 エレベーターを下り、それぞれ別れる。
 あたしは、そのままロッカールームに行くと帰り支度を済ませ、正門へ向かおうとして、一瞬、カバンのスマホをチェックしてしまった。
 ――良かった。今日は、何も来てない。
 ほう、と、息を吐くと、今度こそ正門を出る。

「お疲れ」

「――何でいるのよ」

 家の方へ向きを変えると、早川が待ち構えていた。
 ――今日の文句でも言う気かしら。
 あたしは、スルーして歩き出すと、後ろから早川はついてきた。
「アンタもストーカー扱いされるわよ」
「用があるんだよ」
「あたしには無い」
 少し歩く速さを上げると、右足のかかとが、ピリリと痛む。
 ――ああ、靴擦れ、ばんそうこう貼ってなかったわ。
 そんな事を考えながら歩いていると、早川が左肩をつかんだ。
「――何」
「足、大丈夫か」
「……気にするほどじゃないわよ」
 どうして、こんな細かい事に気がつくのか。
 あたしは、チラリと早川を見上げると、顔いっぱいに、心配、と、書いてあるようだ。

 ――何か、コイツも、岡くんみたいだな。

 そう思ってしまい、ギクリとする。

 ヤバイ。思考回路、疲れでおかしくなってるわ。

「おい、杉崎?」
「な、何でもないわよ!」
 あたしは、痛みを我慢して歩く速度を上げる。
 けれど、早川とのコンパスの差は歴然で、すぐに追いつかれた。
「お前、靴擦れか?」
 のぞき込んでくる早川の視線から逃れるように、あたしは、さらに歩を進める。
 痛みは、倍増しているけれど、この状況から逃れる方が先だ。
 既に、アパートは見えている。
 家に帰れば、消毒液やらひと通りそろっているから、どうにでもなるだろう。
「杉崎」
「お疲れ様。お願いだから、放っておいて」
「できる訳ねぇだろ」
 早川は、そのまま、あたしのアパート前まで来てしまった。
 まあ、朝、既に部屋はバレてしまったので、そこは気にしない。
「薬、あるのか?」
「あるわよ」
 階段を上がるのもつらいけれど、顔に出したら負けだ。
 どうにか、部屋にたどり着くと、ついて来た早川を振り返った。
「アンタ、ホントにストーカーにでもなる気?」
「冗談につきあってる場合じゃ無ぇよ」
 本人が嫌がってるんだから、帰ってほしいんだけど。
 そう言いたかったけれど、昨日の様に、もめて騒ぎになったら、ここに住めなくなるかもしれない。

「――とりあえず、入って」

 あたしは、頭の中で天秤にかけ、早川を渋々、部屋の中に入れた。
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