Runaway Love
それから、いつものルーティンをこなし、昼過ぎには、いつものマルタヤへ、まとめ買いに向かった。
今日は、実家に行くのはやめよう。
――奈津美のお見舞いも。
昨日、本人からメッセージが来ていて、ひとまず、点滴で落ち着いているので、そう入院が長くなる訳じゃないとの事だった。
安心できたけれど、あの調子じゃ、また、いつ同じような事になるかわからない。
――……そんな思いをしてまで、頑張れるなんて……やっぱり、あたしには考えられない……。
店に到着し、いつものようにカートにカゴを上下で二つ乗せる。
荷物持ちはいないけれど、頑張るしかないだろう。
あたしは、野菜売り場から今日の特売商品を眺め、手に取る。
そろそろ、月末だ。
このままの状況なら、やっぱり、辞めなきゃいけないか――……。
経理部のみんなや、早川には悪いけれど、状況が大して変わりそうもないなら、仕方ない。
早目に次の職を探さないといけないし。
魚の切り身を眺めながら、頭の中はそんな事ばかりが流れては消える。
――本当なら、辞めたくない。
この先の現実を考えたら、みっともなくても、後ろ指さされても、しがみつくしかないのに。
ため息交じりに、サケの切り身を手に取って、カゴに入れる。
すると、不意にスマホが振動し、あたしは邪魔にならないように、人通りの無い乾物が並ぶ通路に入って、バッグの中から取り出した。
そして、表示された画面を見て、一瞬、ためらう。
――早川。
メッセージが、送られてきた。
あたしは、少しだけ迷ったが、それを開く。
――大阪二日目。今、観光中。
それだけ。
そして、数枚の写真が続く。向こうの景色やシンボルタワーだ。
最後に一枚だけ、自撮りの写真があった。
――ちょっとだけ、バツが悪そうな表情。
あんまり、慣れていないようで、端が切れている。
あたしは、クスリ、と、笑みが浮かんだ。
――ひとまず、無事について何より。
返事は、それだけ。
すると、送ってすぐに着信だ。
あたしは、迷いながらも通話にする。
『おう、写真、見られたか』
何てことのない、早川の声に、無性に安心してしまう。
「――……景色は良いけど、何で、自撮り写真まで送るのよ」
『まあ、無事だって報告がてらだ』
「いらないわよ」
『それより、今、どこだ?何か、BGMで声が切れるんだよ』
「ああ、マルタヤよ。買い物」
すると、ほんの少しだけ間があった。
「……早川?」
『いや、荷物持ちがいないんなら、あんまり買い込むなよ。一週間分』
「……平気よ」
何だか、急に距離を感じてしまい、あたしは黙り込む。
『おい、杉崎?』
「……何でもない。用が無いなら、切るわよ」
『――……ああ』
けれど、終了ボタンを押そうとすると、待て、と、声がする。
「何よ」
『――……やっぱり、お前の顔が見られないのは、さみしい』
一瞬、息が止まりそうになった。
まるで、恋人に言うような、甘いセリフに、言葉が出ない。
『――それだけだ。じゃあな』
そんなあたしの心境などお構いなしに、早川は電話を終えた。
――……何よ、それ。
――……振られたの、わかってよ……。
あたしは、大きく息を吐くと、スマホをバッグに片付けた。
今日は、実家に行くのはやめよう。
――奈津美のお見舞いも。
昨日、本人からメッセージが来ていて、ひとまず、点滴で落ち着いているので、そう入院が長くなる訳じゃないとの事だった。
安心できたけれど、あの調子じゃ、また、いつ同じような事になるかわからない。
――……そんな思いをしてまで、頑張れるなんて……やっぱり、あたしには考えられない……。
店に到着し、いつものようにカートにカゴを上下で二つ乗せる。
荷物持ちはいないけれど、頑張るしかないだろう。
あたしは、野菜売り場から今日の特売商品を眺め、手に取る。
そろそろ、月末だ。
このままの状況なら、やっぱり、辞めなきゃいけないか――……。
経理部のみんなや、早川には悪いけれど、状況が大して変わりそうもないなら、仕方ない。
早目に次の職を探さないといけないし。
魚の切り身を眺めながら、頭の中はそんな事ばかりが流れては消える。
――本当なら、辞めたくない。
この先の現実を考えたら、みっともなくても、後ろ指さされても、しがみつくしかないのに。
ため息交じりに、サケの切り身を手に取って、カゴに入れる。
すると、不意にスマホが振動し、あたしは邪魔にならないように、人通りの無い乾物が並ぶ通路に入って、バッグの中から取り出した。
そして、表示された画面を見て、一瞬、ためらう。
――早川。
メッセージが、送られてきた。
あたしは、少しだけ迷ったが、それを開く。
――大阪二日目。今、観光中。
それだけ。
そして、数枚の写真が続く。向こうの景色やシンボルタワーだ。
最後に一枚だけ、自撮りの写真があった。
――ちょっとだけ、バツが悪そうな表情。
あんまり、慣れていないようで、端が切れている。
あたしは、クスリ、と、笑みが浮かんだ。
――ひとまず、無事について何より。
返事は、それだけ。
すると、送ってすぐに着信だ。
あたしは、迷いながらも通話にする。
『おう、写真、見られたか』
何てことのない、早川の声に、無性に安心してしまう。
「――……景色は良いけど、何で、自撮り写真まで送るのよ」
『まあ、無事だって報告がてらだ』
「いらないわよ」
『それより、今、どこだ?何か、BGMで声が切れるんだよ』
「ああ、マルタヤよ。買い物」
すると、ほんの少しだけ間があった。
「……早川?」
『いや、荷物持ちがいないんなら、あんまり買い込むなよ。一週間分』
「……平気よ」
何だか、急に距離を感じてしまい、あたしは黙り込む。
『おい、杉崎?』
「……何でもない。用が無いなら、切るわよ」
『――……ああ』
けれど、終了ボタンを押そうとすると、待て、と、声がする。
「何よ」
『――……やっぱり、お前の顔が見られないのは、さみしい』
一瞬、息が止まりそうになった。
まるで、恋人に言うような、甘いセリフに、言葉が出ない。
『――それだけだ。じゃあな』
そんなあたしの心境などお構いなしに、早川は電話を終えた。
――……何よ、それ。
――……振られたの、わかってよ……。
あたしは、大きく息を吐くと、スマホをバッグに片付けた。