Runaway Love
「な、何か……ごめんなさい……」
完全に予定外。最近、イレギュラーが多すぎて、身体までおかしくなったか。
あたしは、急いで処理を終えて戻って来ると、野口くんは心配そうに見てきた。
「何、言ってるんですか。オレの事はどうでも良いんですよ」
そう言って、あたしを自分の前に座らせる。
そして、後ろからそっと抱きしめ、顔を肩にうずめた。
「駆くん」
「――大丈夫ですか?生理痛とか、症状、ありますか?」
「え、あ、今……薬飲んだ、から……」
思わぬ言葉に、返事が遅れる。
すると、彼は顔を上げ、少々気まずそうに言った。
「……えっと、昔から、姉二人が、なるたびに大騒ぎしてて……鍛えられました。薬の種類とか、覚えさせられましたから」
あたしは、思わず笑みが浮かぶ。
「――そうなのね」
「でも、今は感謝ですかね。――こうやって、理解できるんですから」
「……まあ……正直、気まずいけど」
「すみません。――でも、茉奈さんの、大事な身体ですよ?」
「……ありがとう」
野口くんは、そう言って、あたしのお腹にそっと触れる。
「――……女の人って、大変ですよね……」
その温もりが、心地よくて、あたしは目を閉じてうなづいた。
「……まあ、こればっかりは、しょうがないから」
「何か、不条理ですよね――……いくら必要でも……。痛み、代われたら良かったんですけど」
「――……ありがとう……。きっと、良い旦那様になるわね、駆くんは……」
こんなに、理解して、心配してくれるなんて、貴重な存在だと思う。
その時、結婚する相手は、幸せだろう。
――その、あたしではない、誰かは。
「――……他人事みたいに、言わないでくださいよ……」
つぶやくように言ったその言葉は、あたしの意思を理解しているから。
――一生、一人で生きていく。
彼も、同じだと思っていたかったけれど……それは、ただの、わがままだ――。
――あの、もう、やめてもらえませんか。あたし、何を言われても、奈津美に取り次ぎできませんから。
目の前の先輩は、笑みを浮かべたまま、あたしに近づいてきた。
――妹思いのお姉さんも良いんだけどさ、そろそろ、こっちもガマンするのも飽きたんだよね。
そう言って、校舎の影に手を引いて連れて行かれる。
放課後、テスト前で、部活も休み。
校内で残っているのは、もう、先生と、勉強の為に残っている生徒くらい。
いつものように、一人、生徒玄関に向かうと、先輩が待ち伏せしていたのだ。
壁に背中をぶつけるように押され、あたしは、思わず顔をゆがめた。
――キミさ、もしかして、僕の事、好きなの?
――え。
そう言うと、先輩は、あたしに顔を近づける。
――何で邪魔するのかと思ったんだけど、それなら、言ってくれれば相手くらいしたのに。
――ちっ……違いますっ……!
首を思い切り振ると、チッ、と、舌打ちされた。
――じゃあ、奈津美ちゃん、呼んでくれない?いい加減、ちゃんと、会いたいんだけど。
――何なら、キミにも、男紹介しようか。
――それなら、一緒に、《《いろいろ》》できるじゃない。
ヘラヘラと笑う先輩は――あたしが惹かれた彼とは、ほど遠くて。
こちらが本当の彼なんだと、思った。
――こんな男になんて、奈津美はもったいない。
いくら、あの娘がコンプレックスの原因だとしても、姉として、絶対に許さない。
あたしが、ずっと口を閉ざしていると、先輩は、わざとらしい程に、大きくため息をついた。
――何だよ、つまんねぇ女だな。
その瞬間、その言葉は、胸の奥に深く――とても、深く、突き刺さった。
完全に予定外。最近、イレギュラーが多すぎて、身体までおかしくなったか。
あたしは、急いで処理を終えて戻って来ると、野口くんは心配そうに見てきた。
「何、言ってるんですか。オレの事はどうでも良いんですよ」
そう言って、あたしを自分の前に座らせる。
そして、後ろからそっと抱きしめ、顔を肩にうずめた。
「駆くん」
「――大丈夫ですか?生理痛とか、症状、ありますか?」
「え、あ、今……薬飲んだ、から……」
思わぬ言葉に、返事が遅れる。
すると、彼は顔を上げ、少々気まずそうに言った。
「……えっと、昔から、姉二人が、なるたびに大騒ぎしてて……鍛えられました。薬の種類とか、覚えさせられましたから」
あたしは、思わず笑みが浮かぶ。
「――そうなのね」
「でも、今は感謝ですかね。――こうやって、理解できるんですから」
「……まあ……正直、気まずいけど」
「すみません。――でも、茉奈さんの、大事な身体ですよ?」
「……ありがとう」
野口くんは、そう言って、あたしのお腹にそっと触れる。
「――……女の人って、大変ですよね……」
その温もりが、心地よくて、あたしは目を閉じてうなづいた。
「……まあ、こればっかりは、しょうがないから」
「何か、不条理ですよね――……いくら必要でも……。痛み、代われたら良かったんですけど」
「――……ありがとう……。きっと、良い旦那様になるわね、駆くんは……」
こんなに、理解して、心配してくれるなんて、貴重な存在だと思う。
その時、結婚する相手は、幸せだろう。
――その、あたしではない、誰かは。
「――……他人事みたいに、言わないでくださいよ……」
つぶやくように言ったその言葉は、あたしの意思を理解しているから。
――一生、一人で生きていく。
彼も、同じだと思っていたかったけれど……それは、ただの、わがままだ――。
――あの、もう、やめてもらえませんか。あたし、何を言われても、奈津美に取り次ぎできませんから。
目の前の先輩は、笑みを浮かべたまま、あたしに近づいてきた。
――妹思いのお姉さんも良いんだけどさ、そろそろ、こっちもガマンするのも飽きたんだよね。
そう言って、校舎の影に手を引いて連れて行かれる。
放課後、テスト前で、部活も休み。
校内で残っているのは、もう、先生と、勉強の為に残っている生徒くらい。
いつものように、一人、生徒玄関に向かうと、先輩が待ち伏せしていたのだ。
壁に背中をぶつけるように押され、あたしは、思わず顔をゆがめた。
――キミさ、もしかして、僕の事、好きなの?
――え。
そう言うと、先輩は、あたしに顔を近づける。
――何で邪魔するのかと思ったんだけど、それなら、言ってくれれば相手くらいしたのに。
――ちっ……違いますっ……!
首を思い切り振ると、チッ、と、舌打ちされた。
――じゃあ、奈津美ちゃん、呼んでくれない?いい加減、ちゃんと、会いたいんだけど。
――何なら、キミにも、男紹介しようか。
――それなら、一緒に、《《いろいろ》》できるじゃない。
ヘラヘラと笑う先輩は――あたしが惹かれた彼とは、ほど遠くて。
こちらが本当の彼なんだと、思った。
――こんな男になんて、奈津美はもったいない。
いくら、あの娘がコンプレックスの原因だとしても、姉として、絶対に許さない。
あたしが、ずっと口を閉ざしていると、先輩は、わざとらしい程に、大きくため息をついた。
――何だよ、つまんねぇ女だな。
その瞬間、その言葉は、胸の奥に深く――とても、深く、突き刺さった。