Runaway Love

4

 そのまま、数回、唇が重なり――舌がからめられ、あたしの思考は朦朧としてくる。
 まだ、自分が何をされているのか、理解できない。

 何、これ。

 ――……あたし、何されてんの……?

「……っふ……ン……ッ……」

 耳に届く声が、自分のものだとは思いたくない。

 気が遠くなるような時間、口内をまさぐられ、ようやく解放された時、あたしの思考は、完全に停止した。

「――……す、杉崎……?」

 恐る恐る名前を呼ばれ、ようやく我に返る。
 そして、反射で、目の前の早川から座ったまま後ずさる。

「なっ……な、何っ……をっ……!!?」


「――好きだ」


「……へ?」

 距離を取ったあたしを真っ直ぐに見て、早川は、そう言った。
 その返事は、まあ……自分でも、無いな、とは思ったけれど。

「――……初めて会った時、一目惚れした。……今まで、散々アピールしてきたつもりだったんだけどな……」

「わっ……わかんないわよ、そんなの!!」

 早川は、苦笑いであたしを見る。
「だろうな。――……お前、思った以上に鈍感っつーか、天然っつーか」
「――……けなしてるでしょ」
「いや、そういうトコも新鮮だったし。――このまま、”仲の良い同僚”でも良いかと思ったんだけどな……」
 そう言いながら、早川は、そのまま距離を詰めてきた。
「……は……早川……?」
 早川は、そっと、あたしの頬に手を触れる。
 それは、壊れ物を触るように――そおっと。
「あの、若いヤツと……そういう関係なんだと思ったら――……やっぱり、取られたくねぇって思ったんだよ」
「ちっ……違うわよ!」
「え?」
 思わず否定してしまったけれど……事情を話すつもりも無い。
「……あたしは……恋愛とか、必要無いから……」
「え――……?」
 自嘲気味に笑みが浮かぶ。

「――ゴメン、早川。あたし、恋愛、したくないんだ」

「――……どういう意味だよ……」

 あたしは、視線を落とす。
 靴擦れの痛みは、和らいでいた。
 ――けれど、胸は痛むばかりだ。

「――……とにかく、ゴメン。あたしは、アンタとも……岡くんとも――……誰とも恋愛したいと思えない」

「杉崎」

「――……ゴメン……帰って……」

 早川は、ぼう然として、あたしを見る。
 そりゃあ、そうだろう。
 けれど、事情を話したところで、理解されるとも思えない。

「――帰って」

 もう一度、念を押すように言うと、早川は立ち上がり、無言で部屋を出て行った。


 ――……ゴメン……本当に……。

 浮かんできた涙は、靴擦れのせいだと思いたかった。
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