Runaway Love
午前中は、建物内の案内や、工場内部の説明。
食堂の使用方法や、出入りの業者さんの紹介。
本社とは勝手が違うので、少々、消耗してしまった。
総勢五百人を超える従業員は、二十四時間内のシフト勤務、もしくは、昼か夜間専門。お互いに一切、顔を合わせた事が無い人もいるそうだ。
そして、それが終わると、事務所内の配置や、パソコン内の色んなデータの説明。
あたしは、逐一メモを取りながら、何とか頭に叩き込む。
「事務仕事は、たぶん、そんなに負担じゃないと思うんだけどね」
「はい」
「――その分、他の雑務に追われるわよぉ」
「――……ハ、ハイ」
ニコニコと、脅すように言う柴田さんに、あたしはたじろぐ。
ここで、ずっと、同じ仕事をしてきた人だ。
言葉の重みが違う。
「備品やユニフォームの発注でしょ、資材の管理、発注、書類関係の報告や伝票作成、電話応対に、新人の対応、業者さんへの対応や応接――」
次々と出てくる業務内容に、あたしは目を丸くした。
――そ、そんなにあるの⁉
「一つ一つは、一瞬で終わるようなものなんだけどね。……まあ、五百人もいると、油断すると、いろいろ溜まっていっちゃうわよぉ」
「……が、頑張ります……」
今まで、電卓とパソコンと、少々の電話対応しかしていない、あたしに、務まるんだろうか。
不安を抱えながらも、あたしは、必死でメモを取り続けた。
「お世話様ですー!荷物お願いします!」
「ハイハイ、ハンコで良いの?」
「すみません、コレ、発注お願いします」
「来週の月曜着予定だから。在庫があればね」
「おーい、フジタ産業の納品伝票って、ドコ行ったあ⁉」
「工場長の机の脇の棚に、もう入ってますよ。レトルト部の方」
「第一工場の入り口、電灯が一個切れかけてますー!手配お願いしますー!」
「後で電話しておくわぁ!」
次から次へと事務室に入っては出て行く人達。
様々な内容に、あたしは目が回りそうだ。
それを、柴田さんは、あっさりと捌いていく。
圧倒されて、固まってしまったあたしを見やると、彼女は笑って言った。
「でしょう?」
「ハ、ハイ……」
……コレ、本当に、あたしにできるの……?
そんな不安は、お見通しのようで、今までとは違う種類の笑顔を向けられた。
「私は、慣れてるから。ちゃんと、工場の人間には、先週のうちに事情を話しておいてあるからね。せっかく来てくれた人、イビったら、バチが当たるでしょ」
そう言ってくれた柴田さんの笑顔は、何だか、安心できた。
――元々、包容力のある人なんだろうな。
「――……一つ一つ、慣れていけるようにしますので」
「ええ、まあ、わからなかったら、誰かしらに聞いてね。大体、私、困ったら本社の総務さんに電話してるし」
その言葉に、一瞬で心臓が冷える。
「杉崎さんなら、知り合いもいるんじゃないの?」
「――……え、ええ、まあ……」
悪気が無い分、反応に困った。
「柴田さんー!第二工場分、白衣発注お願いー!」
そんな空気を悟られる前に、事務室に飛び込んできた依頼に、あたしは、少しだけ息を吐いた。
食堂の使用方法や、出入りの業者さんの紹介。
本社とは勝手が違うので、少々、消耗してしまった。
総勢五百人を超える従業員は、二十四時間内のシフト勤務、もしくは、昼か夜間専門。お互いに一切、顔を合わせた事が無い人もいるそうだ。
そして、それが終わると、事務所内の配置や、パソコン内の色んなデータの説明。
あたしは、逐一メモを取りながら、何とか頭に叩き込む。
「事務仕事は、たぶん、そんなに負担じゃないと思うんだけどね」
「はい」
「――その分、他の雑務に追われるわよぉ」
「――……ハ、ハイ」
ニコニコと、脅すように言う柴田さんに、あたしはたじろぐ。
ここで、ずっと、同じ仕事をしてきた人だ。
言葉の重みが違う。
「備品やユニフォームの発注でしょ、資材の管理、発注、書類関係の報告や伝票作成、電話応対に、新人の対応、業者さんへの対応や応接――」
次々と出てくる業務内容に、あたしは目を丸くした。
――そ、そんなにあるの⁉
「一つ一つは、一瞬で終わるようなものなんだけどね。……まあ、五百人もいると、油断すると、いろいろ溜まっていっちゃうわよぉ」
「……が、頑張ります……」
今まで、電卓とパソコンと、少々の電話対応しかしていない、あたしに、務まるんだろうか。
不安を抱えながらも、あたしは、必死でメモを取り続けた。
「お世話様ですー!荷物お願いします!」
「ハイハイ、ハンコで良いの?」
「すみません、コレ、発注お願いします」
「来週の月曜着予定だから。在庫があればね」
「おーい、フジタ産業の納品伝票って、ドコ行ったあ⁉」
「工場長の机の脇の棚に、もう入ってますよ。レトルト部の方」
「第一工場の入り口、電灯が一個切れかけてますー!手配お願いしますー!」
「後で電話しておくわぁ!」
次から次へと事務室に入っては出て行く人達。
様々な内容に、あたしは目が回りそうだ。
それを、柴田さんは、あっさりと捌いていく。
圧倒されて、固まってしまったあたしを見やると、彼女は笑って言った。
「でしょう?」
「ハ、ハイ……」
……コレ、本当に、あたしにできるの……?
そんな不安は、お見通しのようで、今までとは違う種類の笑顔を向けられた。
「私は、慣れてるから。ちゃんと、工場の人間には、先週のうちに事情を話しておいてあるからね。せっかく来てくれた人、イビったら、バチが当たるでしょ」
そう言ってくれた柴田さんの笑顔は、何だか、安心できた。
――元々、包容力のある人なんだろうな。
「――……一つ一つ、慣れていけるようにしますので」
「ええ、まあ、わからなかったら、誰かしらに聞いてね。大体、私、困ったら本社の総務さんに電話してるし」
その言葉に、一瞬で心臓が冷える。
「杉崎さんなら、知り合いもいるんじゃないの?」
「――……え、ええ、まあ……」
悪気が無い分、反応に困った。
「柴田さんー!第二工場分、白衣発注お願いー!」
そんな空気を悟られる前に、事務室に飛び込んできた依頼に、あたしは、少しだけ息を吐いた。