Runaway Love
二人で一緒に包丁を握る訳にもいかないので、あたしが材料を切り、野口くんがフライパンで炒める。
ただの肉野菜炒めに、かなりの時間がかかってしまったのは、もう、仕方ない。
ご飯は、まだ、炊いた事が無いようで、買い置きしてあったレトルトご飯を温める。
「すみません。……結局、作らせちゃって……」
「気にしないで。それに、ちゃんと駆くんも作ったじゃない」
「――……難しいですね、料理って……」
しょんぼりしながらも、肉野菜炒めを口にすると、野口くんは顔を上げた。
「……美味しい?」
「――ハイ」
「良かった。じゃあ、今度は一人で、できるわよね?」
「――……ハイ」
少しだけ、はにかみながら、あたしにうなづく彼は、徐々に気持ちが上がってきたようだ。
――良かった。これで、自信無くしたなんていったら、どうしようかと思った。
二人で完食し、洗い物を終わらせる。
インスタントのコーヒーを入れてもらい、あたしは、それを口にしながら、目の前の野口くんを見上げた。
――……会社の状況、聞いても良いんだろうか。
下手に話題にすると、言いたくない話題に触れるかもしれない。
それが、彼の感情を刺激しないとも限らない。
そう思うと、自分からは切り出せなかった。
そして、彼も、何か言い出す事はなかったので、あたし達は、結局、コーヒーを飲み終えるまで、無言のままになってしまったのだった。
カップを洗い終え、あたしはハンカチで手を拭きながら、立ち上がった野口くんを見やる。
「そ、そろそろ帰るわね」
「――茉奈さん」
すると、腕を引かれ、彼に抱きしめられる。
「か、駆くん」
「――……やっぱり、さみしい、です」
「え」
「……ずっと、目の前に茉奈さんがいたのに」
そう言って、野口くんは腕に力を込めた。
「――……もう、本当に、閉じ込めちゃって良いですか……」
「――え」
あたしは、一瞬、背筋が凍りそうになってしまった。
――じ、冗談、よね?
そんな思いに気づいたのか、野口くんは、苦笑いであたしを離す。
「冗談ですってば。――……さすがに、自分でも、ヤバイのはわかりますよ」
「……もう……」
でも、そんな真剣な口調で言うのは、本心だからなのかもしれない。
――あたしは、自分から彼に抱き着くと、そっと、背に手を回した。
「……茉奈さん?」
「――……バカ、ね」
「……ハイ。……すみません」
そう言って、あたしを再び抱きしめると、野口くんはそのまま唇に触れる。
「――……茉奈さん、充電させてください」
あたしの返事も聞かずに、何度も、軽く唇が触れる。
そして、数回ののちに、舌が入り込んできた。
「――ん」
それに返すように絡めると、次第に激しくなっていき、呼吸をするために唇を離すと、お互いに色めいた吐息が漏れる。
「――……茉奈さん、これ以上は……マズいです」
「……あ、ご、ごめんなさい……」
見上げれば、耳や首まで真っ赤な野口くんは、気まずそうに視線をそらした。
「……頑張って我慢してたんですけど、茉奈さん、全部ふっ飛ばしましたね」
「ご、ごめんなさいってば」
あたしは、慌てて謝る。
すると、野口くんは、あたしの両肩を押さえた。
――あ、コレ。前もやられた……。
その予想は、当たってしまった。
「――お返しです」
まるで、耳から頭の中に、直接届くような至近距離で、彼は一段低い声で囁く。
「――ん、やっ……」
「茉奈さん、ホント、耳弱いですね」
「バ……カッ……」
思わず身をよじってしまうが、逃げる事は許されず、さらに甘く言葉が続く。
「――可愛いですよ」
「ね……も、やめっ……」
あたしは、涙目になりながら、野口くんを見上げる。
これ以上は、制御がきかなくなりそうで、怖い。
すると、彼は、あたしの耳を軽く噛んで離れた。
「――お互い様、ですよ、茉奈さん」
「……もうっ……!」
ニコリと笑う彼を、あたしは真っ赤になって、にらみ付けたのだった。
ただの肉野菜炒めに、かなりの時間がかかってしまったのは、もう、仕方ない。
ご飯は、まだ、炊いた事が無いようで、買い置きしてあったレトルトご飯を温める。
「すみません。……結局、作らせちゃって……」
「気にしないで。それに、ちゃんと駆くんも作ったじゃない」
「――……難しいですね、料理って……」
しょんぼりしながらも、肉野菜炒めを口にすると、野口くんは顔を上げた。
「……美味しい?」
「――ハイ」
「良かった。じゃあ、今度は一人で、できるわよね?」
「――……ハイ」
少しだけ、はにかみながら、あたしにうなづく彼は、徐々に気持ちが上がってきたようだ。
――良かった。これで、自信無くしたなんていったら、どうしようかと思った。
二人で完食し、洗い物を終わらせる。
インスタントのコーヒーを入れてもらい、あたしは、それを口にしながら、目の前の野口くんを見上げた。
――……会社の状況、聞いても良いんだろうか。
下手に話題にすると、言いたくない話題に触れるかもしれない。
それが、彼の感情を刺激しないとも限らない。
そう思うと、自分からは切り出せなかった。
そして、彼も、何か言い出す事はなかったので、あたし達は、結局、コーヒーを飲み終えるまで、無言のままになってしまったのだった。
カップを洗い終え、あたしはハンカチで手を拭きながら、立ち上がった野口くんを見やる。
「そ、そろそろ帰るわね」
「――茉奈さん」
すると、腕を引かれ、彼に抱きしめられる。
「か、駆くん」
「――……やっぱり、さみしい、です」
「え」
「……ずっと、目の前に茉奈さんがいたのに」
そう言って、野口くんは腕に力を込めた。
「――……もう、本当に、閉じ込めちゃって良いですか……」
「――え」
あたしは、一瞬、背筋が凍りそうになってしまった。
――じ、冗談、よね?
そんな思いに気づいたのか、野口くんは、苦笑いであたしを離す。
「冗談ですってば。――……さすがに、自分でも、ヤバイのはわかりますよ」
「……もう……」
でも、そんな真剣な口調で言うのは、本心だからなのかもしれない。
――あたしは、自分から彼に抱き着くと、そっと、背に手を回した。
「……茉奈さん?」
「――……バカ、ね」
「……ハイ。……すみません」
そう言って、あたしを再び抱きしめると、野口くんはそのまま唇に触れる。
「――……茉奈さん、充電させてください」
あたしの返事も聞かずに、何度も、軽く唇が触れる。
そして、数回ののちに、舌が入り込んできた。
「――ん」
それに返すように絡めると、次第に激しくなっていき、呼吸をするために唇を離すと、お互いに色めいた吐息が漏れる。
「――……茉奈さん、これ以上は……マズいです」
「……あ、ご、ごめんなさい……」
見上げれば、耳や首まで真っ赤な野口くんは、気まずそうに視線をそらした。
「……頑張って我慢してたんですけど、茉奈さん、全部ふっ飛ばしましたね」
「ご、ごめんなさいってば」
あたしは、慌てて謝る。
すると、野口くんは、あたしの両肩を押さえた。
――あ、コレ。前もやられた……。
その予想は、当たってしまった。
「――お返しです」
まるで、耳から頭の中に、直接届くような至近距離で、彼は一段低い声で囁く。
「――ん、やっ……」
「茉奈さん、ホント、耳弱いですね」
「バ……カッ……」
思わず身をよじってしまうが、逃げる事は許されず、さらに甘く言葉が続く。
「――可愛いですよ」
「ね……も、やめっ……」
あたしは、涙目になりながら、野口くんを見上げる。
これ以上は、制御がきかなくなりそうで、怖い。
すると、彼は、あたしの耳を軽く噛んで離れた。
「――お互い様、ですよ、茉奈さん」
「……もうっ……!」
ニコリと笑う彼を、あたしは真っ赤になって、にらみ付けたのだった。