Runaway Love

43

 そのまま、実家に泊まった翌朝、若干ぼうっとしたまま階下(した)に下りて行くと、母さんは既に朝食の用意を終えていた。
「おや、アンタにしては遅起きだったわね」
「……母さんが早いんじゃない。まだ六時半よ」
「目が覚めたんだからしょうがないじゃない。それに、徐々に身体慣らしていかないと、店始めた時にしんどいでしょうが」
「……そうだけどさ。――ていうか、ホントにもう、再開する気なの」
「当然じゃない。みなさん、待ってられるんだから」
 朝っぱらから、気合いを入れている母さんを、あたしは、少々げんなりと見やる。
 これだけの熱量、あたしには持てない。
 ――まあ、だからこそ、店ができるんだろうけれど。
「じゃあ、今日も店の片付けするから。アンタ、何時までいるんだい?」
「……まあ、夕方前くらいには、帰るわよ」
 あたしの答えに、母さんはうなづく。
「じゃあ、まあ、昼くらいまで、店の片付けにしようかね」
 自動的に、決定されてしまった。

 それから、家の方の片付けをしていると、チャイムが鳴る。
 また、近所の人でも来たのだろうか。
 少々、うんざりしながら、画面を見て――固まる。

『おはようございます、奈津美に頼まれて、お手伝いに来ました』

 岡くんが、にこやかに挨拶をして立っていた。

 あたしは、キッチンで洗い物をしていた母さんに、声をかける。
「――母さん。……奈津美に、店の片付けしてるって言ったの?」
「ああ、昨日、電話でね。アンタ、早々と寝ちゃってたじゃない」
 その答えに、ため息をついた。
「……奈津美が、岡くんに、手伝いに来いって言ったみたい。……来てるんだけど」
「おや、早かったね」
 驚くでもなく、母さんは、そう答える。
 あたしは、それに眉を寄せた。
「……ちょっと……母さんが頼んだの?!」
「まあ、人手があれば、助かるとは言ったわよ。テルくんが来るかと思ったけど、奈津美の面倒もあるしね」
「……あのコは、身内じゃないのよ」
「身内も同然じゃない」
 あっけらかんと返した母親に、あたしは、あきれを通り越して、怒りさえ覚える。

「他人よ!」

 どんなに仲が良かろうが、身内ではない。
 あたしは、ようやく玄関のドアを開ける。
 すると、ぱあっと、満開の花のような笑顔を向けられた。

「――おはようございます!お手伝いに来ま……」

 ――そして、目に見えて、硬直されたのだった。
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