Runaway Love
少々の休憩も終了し、いよいよ、店内を本格的に整える。
テーブル等は定位置に戻っているので、壁の汚れを拭いたり、キッチンの棚の整理をしたり。
岡くんは、店の周囲の掃除。雑草も生えてきていたので、草取りもしてもらった。
ようやく終了すれば十一時を過ぎたところ。
全員でリビングのソファで、一息ついたところで、母さんが切り出した。
「とりあえず、キリの良いところで、九月一日から再開としようかしらね」
「……母さん、曜日的に、キリ良くないんだけど……」
壁に貼ってあるカレンダーを見やり、確認すれば、平日真ん中だ。
「会社員の人達は、月曜からの方が良いと思うんだけど」
「それもそうだねぇ。――じゃあ、次の週かい?」
「そうしたら?」
母さんは、珍しく素直にうなづくと、いそいそと立ち上がる。
そして、カレンダーをめくり、黒マジックでデカデカと、店、とだけ書いた。
やはり、ずっと休んでいるのは、不本意だったのだろう。
後ろ姿だけでも、ウキウキしてるのが見て取れて、思わず苦笑いした。
「それじゃあ、テーブルとか戻してあるから。あと、何かする事あるの」
「そうだねぇ。ガスとか水道とかの再開手続きは平日じゃないとだし、アンタ、明日仕事なんだから、お昼食べたら帰っていいわよ」
「……わかった」
――あたしの予定を、勝手に決めないでよ。
けれど、そんな事を言っても、母さんは気にも留めないのだ。
言うだけ消耗する。
「じゃあ、ちょっと、自分の部屋片付けていくから。本とか、まだ残ってるし」
「そうかい。ああ、将太くんも、お昼、食べていきなさいな」
「え、あ、いえ、オレは……」
「いいから、いいから。タダで手伝ってもらう訳にはいかないしね」
岡くんは、チラリとあたしを見やると、じゃあ、と、うなづいた。
「でも、時間あるし、ついでに、茉奈の部屋の片づけも手伝ってもらって良いかしらね」
「――わかりました」
中途半端な時間なのは、わざとか。
母さんは、彼にそう言うと、あたしを見る。
「お昼はアタシだけで十分できるから。アンタ、せっかくだし、ひと通り片付けていきなさいよ」
「……わかったわよ」
あたしは、わざとらしく大きくため息をつく。
あからさますぎるお膳立てに、イラつきを隠せない。
けれど、キッチンに向かう母さんは、どこか嬉しそうで、完全に八つ当たりになる文句は言えなかった。
「茉奈さん、何、お手伝いしましょう?」
二階の自分の部屋に行くと、後ろから岡くんが、遠慮がちに尋ねた。
「……別に、手伝いがいる程の事、するつもりなんて無いわよ。ただ、置いたままの本、どうしようか考えたかっただけ」
「――……そうですか」
「まあ、アンタは、その辺に座って休んでたら。院もバイトも忙しいんじゃないの」
「え」
あたしは、クローゼットを開けると、ほとんど空になったそこに、かろうじて残っていたコロ付きケースを三個引き出した。
中を開け、背表紙のタイトルを確認しながら、続ける。
「……不本意だけど、ウチがアンタに世話になっているのは、確かなんだし。必要以上に迷惑かけたくないから」
すると、岡くんは、あたしの隣にしゃがんで視線を合わせる。
真っ直ぐな、それに、身体は硬直してしまう。
「……ありがとうございます。――でも、オレ、好きでやってるんで。……少しでも、あなたの役に立てれば、うれしいですから」
「そっ……そう言われてもっ……」
実際は、アンタのせいで、あたしの生活は一変したのだ。
役に立つどころか、疫病神じゃない。
そうまくし立てたかったが、キスでふさがれる。
軽く触れて、すぐに離れた岡くんは、ニコリ、と、笑う。
あたしは、ジロリとにらみつけ、顔をそらした。
「――……そういう事言うなら、キスとか、やめてよ」
「それはそれ、です」
「……アンタねぇ……」
開き直ったように言う彼に、あたしは、眉をしかめた。
テーブル等は定位置に戻っているので、壁の汚れを拭いたり、キッチンの棚の整理をしたり。
岡くんは、店の周囲の掃除。雑草も生えてきていたので、草取りもしてもらった。
ようやく終了すれば十一時を過ぎたところ。
全員でリビングのソファで、一息ついたところで、母さんが切り出した。
「とりあえず、キリの良いところで、九月一日から再開としようかしらね」
「……母さん、曜日的に、キリ良くないんだけど……」
壁に貼ってあるカレンダーを見やり、確認すれば、平日真ん中だ。
「会社員の人達は、月曜からの方が良いと思うんだけど」
「それもそうだねぇ。――じゃあ、次の週かい?」
「そうしたら?」
母さんは、珍しく素直にうなづくと、いそいそと立ち上がる。
そして、カレンダーをめくり、黒マジックでデカデカと、店、とだけ書いた。
やはり、ずっと休んでいるのは、不本意だったのだろう。
後ろ姿だけでも、ウキウキしてるのが見て取れて、思わず苦笑いした。
「それじゃあ、テーブルとか戻してあるから。あと、何かする事あるの」
「そうだねぇ。ガスとか水道とかの再開手続きは平日じゃないとだし、アンタ、明日仕事なんだから、お昼食べたら帰っていいわよ」
「……わかった」
――あたしの予定を、勝手に決めないでよ。
けれど、そんな事を言っても、母さんは気にも留めないのだ。
言うだけ消耗する。
「じゃあ、ちょっと、自分の部屋片付けていくから。本とか、まだ残ってるし」
「そうかい。ああ、将太くんも、お昼、食べていきなさいな」
「え、あ、いえ、オレは……」
「いいから、いいから。タダで手伝ってもらう訳にはいかないしね」
岡くんは、チラリとあたしを見やると、じゃあ、と、うなづいた。
「でも、時間あるし、ついでに、茉奈の部屋の片づけも手伝ってもらって良いかしらね」
「――わかりました」
中途半端な時間なのは、わざとか。
母さんは、彼にそう言うと、あたしを見る。
「お昼はアタシだけで十分できるから。アンタ、せっかくだし、ひと通り片付けていきなさいよ」
「……わかったわよ」
あたしは、わざとらしく大きくため息をつく。
あからさますぎるお膳立てに、イラつきを隠せない。
けれど、キッチンに向かう母さんは、どこか嬉しそうで、完全に八つ当たりになる文句は言えなかった。
「茉奈さん、何、お手伝いしましょう?」
二階の自分の部屋に行くと、後ろから岡くんが、遠慮がちに尋ねた。
「……別に、手伝いがいる程の事、するつもりなんて無いわよ。ただ、置いたままの本、どうしようか考えたかっただけ」
「――……そうですか」
「まあ、アンタは、その辺に座って休んでたら。院もバイトも忙しいんじゃないの」
「え」
あたしは、クローゼットを開けると、ほとんど空になったそこに、かろうじて残っていたコロ付きケースを三個引き出した。
中を開け、背表紙のタイトルを確認しながら、続ける。
「……不本意だけど、ウチがアンタに世話になっているのは、確かなんだし。必要以上に迷惑かけたくないから」
すると、岡くんは、あたしの隣にしゃがんで視線を合わせる。
真っ直ぐな、それに、身体は硬直してしまう。
「……ありがとうございます。――でも、オレ、好きでやってるんで。……少しでも、あなたの役に立てれば、うれしいですから」
「そっ……そう言われてもっ……」
実際は、アンタのせいで、あたしの生活は一変したのだ。
役に立つどころか、疫病神じゃない。
そうまくし立てたかったが、キスでふさがれる。
軽く触れて、すぐに離れた岡くんは、ニコリ、と、笑う。
あたしは、ジロリとにらみつけ、顔をそらした。
「――……そういう事言うなら、キスとか、やめてよ」
「それはそれ、です」
「……アンタねぇ……」
開き直ったように言う彼に、あたしは、眉をしかめた。