Runaway Love
翌日、更に状況は恐ろしい事になっていた。
工場長に加えて、副工場長も事務所に入りびたりで、電話やメールの対応。
そんな中に、ウチの営業もやってきて、納品日の融通を依頼していく。
――……コレ、あたし、昨日より早く帰れないんじゃ……。
その直感は正しく、ボロボロになりながら終了したのは、八時前だった。
言われていた通りにスマホを確認すれば、野口くんもさすがに定時は難しく、七時半に終了したとの事。
あたしは、一応、今終わったとメッセージを送ると、すぐに着信があった。
「野口くん、お疲れ様」
『……お疲れ様です。今、コンビニに停まってるんですが、あと十五分くらいで着きます』
「そう。……あのね、無理しちゃダメだからね」
疲れたような声色に、あたしは不安を覚える。
『いえ、大丈夫ですから』
若干頑なな口調で言うと、野口くんは電話を切る。
あたしは、そのまま正門前で待っていると、数人の工場の人達が通り過ぎて行き、お互いに挨拶を交わす。
顔は知らないが、たぶん、向こうは知っているんだろう。
すると、しばらくして、道路の向こう側から、既に見慣れた黒い乗用車がやって来て、あたしは軽く手を上げた。
野口くんは、そのまま道路脇に停車すると、運転席から降りて助手席のドアを開ける。
「お疲れ様です、茉奈さん」
「――お疲れ様」
お互いに、少しだけ疲れた顔で笑い合う。
すぐにドアを閉めると、彼は車を発進させた。
「今日は、さすがに忙しかった?」
あたしが、そう尋ねると、うなづいて返された。
「さすがに。――まあ、今までより人数が少ないんですから、当然なんですけど」
「……それは……ごめんなさい……」
「茉奈さんのせいじゃないでしょう。――でも、求人、応募来てるんでしょうか……?」
その問いに、あたしは首を振る。
「人事の事はわからないわ。……ただ、こっちには何の情報も無いのは確か」
「そうですか……」
少々沈んで返され、言葉に詰まる。
――もし、応募が無いままなら……あたしは、このまま続けなければならないのだろうか。
それを、社長は見越して、あんな事を言ったのだろうか。
そう思ったら、返す言葉が見つからなかった。
「茉奈さん、こんな時間ですけど、今日、夕飯どうします?」
「え、あ……そ、そうね……」
口ごもってしまうあたしに、野口くんは、続ける。
「ファミレスでも行きますか?」
「――……ごめん、何か、食欲無いから……」
この先を考えてしまい、更に疲れからか、お腹が空いた感覚が、まるで無いのだ。
野口くんは、車を路肩に停めると、眉を寄せながら、あたしをのぞき込む。
「茉奈さん、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。……たぶん、慣れてないところで、緊張とかもあったし、必要以上に疲れたのかも」
あたしは、無理に笑顔を作る。
これ以上、彼に心配をかける訳にはいかない。
「茉奈さん」
「え?」
「――……オレ、彼氏ですよ?」
「……え……?」
言わんとする事が読めず、あたしは聞き返すと、ギュッと手を握られた。
「……心配くらい、させてください……」
うつむく野口くんの表情が見えず、あたしは戸惑う。
「――……で、でも……」
そう言いかけ、頭に浮かんだのは――
――オレに、あなたを心配する権利をください――……。
告白された時に、野口くんに言われた言葉。
――……そうか。
――……野口くんにとって、あたしは、そういう存在なんだ。
「……茉奈さん……」
「……ごめんなさい。……心配してくれて、ありがとう」
「――え」
「野口くんは、あたしの”彼氏”、なのよね」
今度は、彼が、言っている意味が取れずに、眉を寄せた。
「茉奈さん?」
「あたしが、野口くんを心配するように――キミは、あたしの事を心配してくれるのよね――……好きだから……」
すると、彼は、握っていた手に力を込める。
「――ハイ」
あたしは、素直にうなづく彼を、少しだけ愛おしく思い――同時に、申し訳無く思ってしまった。
工場長に加えて、副工場長も事務所に入りびたりで、電話やメールの対応。
そんな中に、ウチの営業もやってきて、納品日の融通を依頼していく。
――……コレ、あたし、昨日より早く帰れないんじゃ……。
その直感は正しく、ボロボロになりながら終了したのは、八時前だった。
言われていた通りにスマホを確認すれば、野口くんもさすがに定時は難しく、七時半に終了したとの事。
あたしは、一応、今終わったとメッセージを送ると、すぐに着信があった。
「野口くん、お疲れ様」
『……お疲れ様です。今、コンビニに停まってるんですが、あと十五分くらいで着きます』
「そう。……あのね、無理しちゃダメだからね」
疲れたような声色に、あたしは不安を覚える。
『いえ、大丈夫ですから』
若干頑なな口調で言うと、野口くんは電話を切る。
あたしは、そのまま正門前で待っていると、数人の工場の人達が通り過ぎて行き、お互いに挨拶を交わす。
顔は知らないが、たぶん、向こうは知っているんだろう。
すると、しばらくして、道路の向こう側から、既に見慣れた黒い乗用車がやって来て、あたしは軽く手を上げた。
野口くんは、そのまま道路脇に停車すると、運転席から降りて助手席のドアを開ける。
「お疲れ様です、茉奈さん」
「――お疲れ様」
お互いに、少しだけ疲れた顔で笑い合う。
すぐにドアを閉めると、彼は車を発進させた。
「今日は、さすがに忙しかった?」
あたしが、そう尋ねると、うなづいて返された。
「さすがに。――まあ、今までより人数が少ないんですから、当然なんですけど」
「……それは……ごめんなさい……」
「茉奈さんのせいじゃないでしょう。――でも、求人、応募来てるんでしょうか……?」
その問いに、あたしは首を振る。
「人事の事はわからないわ。……ただ、こっちには何の情報も無いのは確か」
「そうですか……」
少々沈んで返され、言葉に詰まる。
――もし、応募が無いままなら……あたしは、このまま続けなければならないのだろうか。
それを、社長は見越して、あんな事を言ったのだろうか。
そう思ったら、返す言葉が見つからなかった。
「茉奈さん、こんな時間ですけど、今日、夕飯どうします?」
「え、あ……そ、そうね……」
口ごもってしまうあたしに、野口くんは、続ける。
「ファミレスでも行きますか?」
「――……ごめん、何か、食欲無いから……」
この先を考えてしまい、更に疲れからか、お腹が空いた感覚が、まるで無いのだ。
野口くんは、車を路肩に停めると、眉を寄せながら、あたしをのぞき込む。
「茉奈さん、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。……たぶん、慣れてないところで、緊張とかもあったし、必要以上に疲れたのかも」
あたしは、無理に笑顔を作る。
これ以上、彼に心配をかける訳にはいかない。
「茉奈さん」
「え?」
「――……オレ、彼氏ですよ?」
「……え……?」
言わんとする事が読めず、あたしは聞き返すと、ギュッと手を握られた。
「……心配くらい、させてください……」
うつむく野口くんの表情が見えず、あたしは戸惑う。
「――……で、でも……」
そう言いかけ、頭に浮かんだのは――
――オレに、あなたを心配する権利をください――……。
告白された時に、野口くんに言われた言葉。
――……そうか。
――……野口くんにとって、あたしは、そういう存在なんだ。
「……茉奈さん……」
「……ごめんなさい。……心配してくれて、ありがとう」
「――え」
「野口くんは、あたしの”彼氏”、なのよね」
今度は、彼が、言っている意味が取れずに、眉を寄せた。
「茉奈さん?」
「あたしが、野口くんを心配するように――キミは、あたしの事を心配してくれるのよね――……好きだから……」
すると、彼は、握っていた手に力を込める。
「――ハイ」
あたしは、素直にうなづく彼を、少しだけ愛おしく思い――同時に、申し訳無く思ってしまった。