Runaway Love
あっさりと、あたしと岡くんを置き去りにして、奈津美と母さんは、照行くんの車で一足先に家に帰って行った。
「……悪かったわね、奈津美が呼びつけたんでしょ」
暗くなる中、お墓参りに向かう人達の波に逆らうように、あたしは、岡くんと歩いて行く。
提灯の灯を理由に、視線は交わさない。
「――……いえ、もう、暗いですし。……呼んでくれて、良かったです」
狭い道、自転車を引きながらあたしの隣を歩く彼と腕が触れ、ドキリ、と、心臓が反応する。
「……アンタ、忙しいんだから、断りなさいよ」
それをごまかすように言えば、
「茉奈さんが、最優先です」
あっさりと、そう返され、言葉に詰まった。
家までは、約二十分くらい。
いつものように、早歩きもできない。
「……今日、店に来る予定ですよね」
すると、岡くんはそう言って、あたしをのぞき込む。
あたしは、視線を合わせないまま、うなづいた。
「――勝手に決まってたみたいだけど」
「……一応、テルと奈津美のお祝いも兼ねてるんです」
「え」
思わぬ言葉に、反射的に顔を上げて、岡くんを見やった。
――そして、目が合う。
……いつだって、その真っ直ぐな視線に、捕らえられてしまうのだ。
人が行き交う中、立ち止まってしまうあたし達を避けるように、数人が追い越していく。
あたしは、我に返ると、足を進めた。
――心臓が、いつも以上に跳ね上がるのは、見ないふりだ。
「ウチの家族も、二人と仲が良いんで。――ただ、店もあったし、全員が式に参加する事もできなかったから、ちょうど良いって。今日はもう、店閉めて、貸し切り状態にして待ってるんですよ」
「――……そう」
あたしは、それだけ返すと、視線を再び下げる。
視界に入るのは、ゆらゆらと、提灯の中で揺らめいている火。
すると、ピタリと、腕が触れ、あたしは顔を上げる。
「……岡くん?」
「何ですか?」
ニコリと笑って返す彼を、にらんで返す。
――わざとやってるわね、このコ。
けれど、その温もりに、泣きたくなる。
そして、不意に浮かんだ想いに、戸惑ってしまう。
――……何で……。
――……何で、このまま、離れたくないなんて、思うのよ。
あたしは、唇を噛んで、無理矢理、身体を岡くんから離そうとする。
「茉奈さん!」
「きゃ……っ……」
すると、向かいからやって来た男性にぶつかりそうになり、強い力で引き寄せられた。
「あ、危ないですよ。火、持ってるんですから、気をつけてください」
岡くんは、左手で自転車を支え、あたしを空いた右手で軽々と包み込む。
「……ご、ごめんなさい……」
さすがに、今のは、あたしが悪い。
素直に顔を上げて謝れば、彼は、複雑な表情で、あたしを見下ろした。
「いえ、オレこそ、すみません。車道側歩けば良かったんですけど……自転車、逆にジャマかと思って――」
「アンタが謝る事無いでしょ。完全にあたしの不注意」
そう返せば、クスリ、と、笑う声が、かすかに聞こえた。
「……何よ」
「――やっぱり、そういうトコ、好きです」
「バッ……!」
あたしは、慌てて身体を離し、周囲を見渡した。
まさか、会社の人間がいるとは思えないが、誰が聞いているかわからないのだ。
「やめてよね、こんなトコで」
「――じゃあ、二人きりなら、良いんですか?」
「ふざけないで」
「――……本気ですけど。……いっそ、このまま、どこか行きましょうか?」
その言葉にギョッとする。
また、スイッチが入っていないだろうか。
あたしは、恐る恐る彼を見上げる。
すると、少しだけ悲しそうに、微笑み返された。
「――……冗談、ですよ」
――けれど、口調は、決して冗談を言っているようには聞こえなかった。
「……悪かったわね、奈津美が呼びつけたんでしょ」
暗くなる中、お墓参りに向かう人達の波に逆らうように、あたしは、岡くんと歩いて行く。
提灯の灯を理由に、視線は交わさない。
「――……いえ、もう、暗いですし。……呼んでくれて、良かったです」
狭い道、自転車を引きながらあたしの隣を歩く彼と腕が触れ、ドキリ、と、心臓が反応する。
「……アンタ、忙しいんだから、断りなさいよ」
それをごまかすように言えば、
「茉奈さんが、最優先です」
あっさりと、そう返され、言葉に詰まった。
家までは、約二十分くらい。
いつものように、早歩きもできない。
「……今日、店に来る予定ですよね」
すると、岡くんはそう言って、あたしをのぞき込む。
あたしは、視線を合わせないまま、うなづいた。
「――勝手に決まってたみたいだけど」
「……一応、テルと奈津美のお祝いも兼ねてるんです」
「え」
思わぬ言葉に、反射的に顔を上げて、岡くんを見やった。
――そして、目が合う。
……いつだって、その真っ直ぐな視線に、捕らえられてしまうのだ。
人が行き交う中、立ち止まってしまうあたし達を避けるように、数人が追い越していく。
あたしは、我に返ると、足を進めた。
――心臓が、いつも以上に跳ね上がるのは、見ないふりだ。
「ウチの家族も、二人と仲が良いんで。――ただ、店もあったし、全員が式に参加する事もできなかったから、ちょうど良いって。今日はもう、店閉めて、貸し切り状態にして待ってるんですよ」
「――……そう」
あたしは、それだけ返すと、視線を再び下げる。
視界に入るのは、ゆらゆらと、提灯の中で揺らめいている火。
すると、ピタリと、腕が触れ、あたしは顔を上げる。
「……岡くん?」
「何ですか?」
ニコリと笑って返す彼を、にらんで返す。
――わざとやってるわね、このコ。
けれど、その温もりに、泣きたくなる。
そして、不意に浮かんだ想いに、戸惑ってしまう。
――……何で……。
――……何で、このまま、離れたくないなんて、思うのよ。
あたしは、唇を噛んで、無理矢理、身体を岡くんから離そうとする。
「茉奈さん!」
「きゃ……っ……」
すると、向かいからやって来た男性にぶつかりそうになり、強い力で引き寄せられた。
「あ、危ないですよ。火、持ってるんですから、気をつけてください」
岡くんは、左手で自転車を支え、あたしを空いた右手で軽々と包み込む。
「……ご、ごめんなさい……」
さすがに、今のは、あたしが悪い。
素直に顔を上げて謝れば、彼は、複雑な表情で、あたしを見下ろした。
「いえ、オレこそ、すみません。車道側歩けば良かったんですけど……自転車、逆にジャマかと思って――」
「アンタが謝る事無いでしょ。完全にあたしの不注意」
そう返せば、クスリ、と、笑う声が、かすかに聞こえた。
「……何よ」
「――やっぱり、そういうトコ、好きです」
「バッ……!」
あたしは、慌てて身体を離し、周囲を見渡した。
まさか、会社の人間がいるとは思えないが、誰が聞いているかわからないのだ。
「やめてよね、こんなトコで」
「――じゃあ、二人きりなら、良いんですか?」
「ふざけないで」
「――……本気ですけど。……いっそ、このまま、どこか行きましょうか?」
その言葉にギョッとする。
また、スイッチが入っていないだろうか。
あたしは、恐る恐る彼を見上げる。
すると、少しだけ悲しそうに、微笑み返された。
「――……冗談、ですよ」
――けれど、口調は、決して冗談を言っているようには聞こえなかった。