Runaway Love
「――ね……もうっ……やめて……」
ようやく離された唇から、絞り出すように言葉を伝える。
けれど、岡くんは首を縦には振らなかった。
「逃がすと思いますか?」
クスリ、と、口元を上げる彼の表情は、暗い中、逆光になっていてわからない。
そして、あたしの首元に顔を寄せる。
その行動に覚えがあり、思わず身を引こうとするが、許してはもらえなかった。
肌に強く吸いつかれる感覚。
「――……っ……!!」
上げそうになる声を、無理矢理に押さえる。
「……野口さん、気づきますよね」
「やっ……!」
力任せに岡くんを押しのけ、逃げようとしたが、彼の方が一瞬早かった。
簡単に引き戻されてしまう。
何とか背を向けると、するりと髪をかき上げられ、服を引き下げられる。
「待っ……」
制止の言葉を言い終わらないうちに、背中の上の所に、同じように何度もキツく吸いつかれた。
――どうして。
――……あたしは、間違ってない。
そう言いたかった。
けれど、言えなかった。
――……だって、自信が無いから。
野口くんといる事が、正解なのかわからない。
でも――今、あたしは彼の彼女なのだ。
始まりは何であれ、それが、あたしの選択だったはず。
そう自分に言い聞かせる。
――後悔するような選択であっても、責任は、すべて自分にあるんだから。
「茉奈さん」
黙り込んだあたしを、岡くんは後ろからのぞき込んでくる。
「……お願いだから……やめて……」
かろうじて出せた声は、震えていた。
「――……茉奈……さん……」
そして、後ろから頬に触れる彼の指の感触に、自分が涙をこぼしている事に気がついた。
「……そんなに……嫌でしたか……」
「あ、当たり前でしょっ……!――……野口くんを傷つけたくないのよ……」
――こんな事、野口くんに知られたら――……。
傷つけたくないのに。
来るべき時には、キレイな思い出のままで、別れたいのに。
すると、岡くんは、あたしをそのまま抱きしめる。
さっきとは、くらべものにならない程の、弱々しい力で。
「――……本当に……好き……なんですね……。……あの人が……」
その言葉を、一瞬、否定しようとして止まる。
「――……っ……い、言ったじゃないっ……!」
あたしは、彼の腕から逃れて振り返ると、こぼれたままの涙を雑に拭った。
「……アンタにだって、きっと、そんな女性が現れるわよ。……もう……あたしになんて、構わないで――……」
それだけ言うと、深呼吸して歩き出す。
この時間なら、まだ、電車もバスも動いているはずだ。
「――……帰る」
あたしは、店の中に入ると、盛り上がっている奈津美達を見やり、そっとバッグを持った。
「あれ、お姉ちゃん、どうかした?」
それに気づいた奈津美が振り返り、尋ねる。
「――明日、予定入ってるし、先に帰るわね」
「え、あ、じゃあ、将太に送ってもらって……」
「いらないから。――まだ、バスもあるでしょ」
あたしは、顔を見られないよう、視線を下げてそれだけ言うと、岡くんの家族に頭を下げる。
「申し訳ありませんが、お暇させていただきます。――今日は、妹夫婦の為に、ありがとうございました」
戸惑いを隠せない皆さんを見られず、あたしは、足早に店を出た。
ようやく離された唇から、絞り出すように言葉を伝える。
けれど、岡くんは首を縦には振らなかった。
「逃がすと思いますか?」
クスリ、と、口元を上げる彼の表情は、暗い中、逆光になっていてわからない。
そして、あたしの首元に顔を寄せる。
その行動に覚えがあり、思わず身を引こうとするが、許してはもらえなかった。
肌に強く吸いつかれる感覚。
「――……っ……!!」
上げそうになる声を、無理矢理に押さえる。
「……野口さん、気づきますよね」
「やっ……!」
力任せに岡くんを押しのけ、逃げようとしたが、彼の方が一瞬早かった。
簡単に引き戻されてしまう。
何とか背を向けると、するりと髪をかき上げられ、服を引き下げられる。
「待っ……」
制止の言葉を言い終わらないうちに、背中の上の所に、同じように何度もキツく吸いつかれた。
――どうして。
――……あたしは、間違ってない。
そう言いたかった。
けれど、言えなかった。
――……だって、自信が無いから。
野口くんといる事が、正解なのかわからない。
でも――今、あたしは彼の彼女なのだ。
始まりは何であれ、それが、あたしの選択だったはず。
そう自分に言い聞かせる。
――後悔するような選択であっても、責任は、すべて自分にあるんだから。
「茉奈さん」
黙り込んだあたしを、岡くんは後ろからのぞき込んでくる。
「……お願いだから……やめて……」
かろうじて出せた声は、震えていた。
「――……茉奈……さん……」
そして、後ろから頬に触れる彼の指の感触に、自分が涙をこぼしている事に気がついた。
「……そんなに……嫌でしたか……」
「あ、当たり前でしょっ……!――……野口くんを傷つけたくないのよ……」
――こんな事、野口くんに知られたら――……。
傷つけたくないのに。
来るべき時には、キレイな思い出のままで、別れたいのに。
すると、岡くんは、あたしをそのまま抱きしめる。
さっきとは、くらべものにならない程の、弱々しい力で。
「――……本当に……好き……なんですね……。……あの人が……」
その言葉を、一瞬、否定しようとして止まる。
「――……っ……い、言ったじゃないっ……!」
あたしは、彼の腕から逃れて振り返ると、こぼれたままの涙を雑に拭った。
「……アンタにだって、きっと、そんな女性が現れるわよ。……もう……あたしになんて、構わないで――……」
それだけ言うと、深呼吸して歩き出す。
この時間なら、まだ、電車もバスも動いているはずだ。
「――……帰る」
あたしは、店の中に入ると、盛り上がっている奈津美達を見やり、そっとバッグを持った。
「あれ、お姉ちゃん、どうかした?」
それに気づいた奈津美が振り返り、尋ねる。
「――明日、予定入ってるし、先に帰るわね」
「え、あ、じゃあ、将太に送ってもらって……」
「いらないから。――まだ、バスもあるでしょ」
あたしは、顔を見られないよう、視線を下げてそれだけ言うと、岡くんの家族に頭を下げる。
「申し訳ありませんが、お暇させていただきます。――今日は、妹夫婦の為に、ありがとうございました」
戸惑いを隠せない皆さんを見られず、あたしは、足早に店を出た。