Runaway Love
「――杉崎、帰ってるんだろ?」

 その声に、ビクリとする。
 ――早川だ。
 あたしが反射的に顔を上げると、視界には、岡くんの顔。
「出ちゃ、ダメですよ」
 耳元でそう囁くと、岡くんは、そのまま、あたしを抱き寄せてキスをする。

「……っ!!」

 昨日は早川で、今日は岡くん。
 ――あたし、何か、呪われてるの⁉
 ていうか、どうして、あたしは避けない?

「杉崎?」

 早川の声に、耳をふさぎたくなる。

 目をきつく閉じ、どうにかやり過ごそうとするのに、岡くんは許してくれない。
 柔らかくて、熱くて、厚い舌に、口内をこれでもかと、まさぐられる。
 飲み込めない唾液は、そのまま首元まで流れていく。

「――いないのか?」

 その言葉で、思わずホッとするけれど、遠ざかっていく足音に反比例するように、更にキスが激しくなる。
「ん、んっ……っ……!!」
 岡くんの胸板をたたくけれど、ビクともしない。
 あたしを抱いた腕は、背中をすうっと撫で回し、右手は服の上から胸を揉みしだいていく。

 あ、ダメだ。
 ――……このカンジ、覚えてる。

 記憶は無いはずなのに、抱かれた感触は覚えてるって、何なの、あたし。

 だんだん力が抜けてしまい、ついには、その場に崩れ落ちてしまった。
 岡くんは、そんなあたしを支えながら、そっと横たえる。
 けれど、唇は離さない。
 そのまま、気が遠くなりそうになるほどキスを続けられ、ようやく離された時には、あたしの視界は朦朧としていた。
 見上げると、岡くんは、眉を寄せながら、あたしを見下ろしている。
「――絶対、渡しませんから」
「え」
「オレ、相当こじらせてる自覚、ありますからね」
「――え?」
 岡くんは、そう言って、あたしの部屋着をたくし上げる。
 何を言っても聞いてくれなさそうな雰囲気に、焦ってきた。
「ちょっ……!ねえ、岡くん!」
「――いくら茉奈さんのお願いでも、あきらめるのは無理ですから」
「え」
「十年ですよ?」
 岡くんは、あらわになったあたしの腹部を、そおっと舌でなめまわしながら言う。
「ねぇっ……もう、やめ……」
 うずいてしまう身体は、慣れていないあたし自身では抑えきれない。
 けれど、かまわずに岡くんは、そのまま話すのだ。
「中坊の時から、十年。――茉奈さんだけ、好きだったんですから。やっと、手に入れられたと思ったのに、覚えてないって、あんまりでしょ」
「そ、それ……はっ……ごめ、んっ……なさ……いっ……」
 ビクリと跳ね上がる身体を、岡くんは両手で押さえつける。
「ごめん、じゃなくて、思い出してほしいんですよ。……たとえば、あの夜と同じようにしたら、思い出します?」
「やっ……!」
 言いながら、岡くんは、あたしの胸をはだけ、おもむろに口づけた。
 思考回路が追いつかず、だんだん意識は遠のいていく。

「え、ま、茉奈さん?」

 記憶が飛んだとわかったのは、次にベッドで目が覚めてからだった。
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