Runaway Love
流れ続ける涙を、早川は手で、唇で、拭い去る。
けれど、いつまでも止まる事の無いそれに、ついに、しびれを切らした。
「――悪い」
「……え……?」
言うが遅い、唇が重ねられ、あたしは目を見開いた。
少しだけかさついた、早川の唇の熱さに、涙は一瞬で止まる。
早川は、それに気づき、すぐに離れたが、またすぐに重ねてきた。
――今度は、深く、激しく。
「――……ん……っ……」
――……でも、とても、優しく――。
「……茉奈っ……」
名前を呼ばれ、いつの間にか閉じていた目を開くと、力の限り抱きしめられる。
「――……茉奈……好きだ――……」
呪文のように、繰り返し囁かれる言葉に、口づけに、胸の奥が締め付けられて苦しい。
増していく罪悪感は、けれど、早川を突き放す理由には、なれなかった。
唇が離され、我に返ると、あたしは早川から視線をそらす。
――……もう、自分で自分がわからなくなってきた。
こんな風にされても、嫌いになれないのは、何でなんだろう。
「わ、悪い。……そんなに嫌だったか」
「え」
気まずそうに言う早川は、回り込んであたしをのぞき込む。
……本気で嫌だったら、こんなに悩まない。
そう返したかったけれど、調子に乗られるのも癪に障る。
あたしは、ジロリと早川を見やると、ため息をついた。
「……次にやったら、通報ね」
「……おい、コラ。犯罪者扱いするな」
「合意の上でなかったら、犯罪なのよ」
こちとら、ミステリだって読み込んでるのだ。
そこらの浅い知識以上のものはある。
すると、早川は困ったように微笑む。
それは、思わず、こちらが見とれるような――そんな表情。
「わかった、わかった。詫びに何かあれば、手伝う」
あたしは、眉を寄せたが、ふと、自分の首筋に手を当てる。
「……ねえ、キスマークの消し方、わかる?」
「え」
それから、早川は、スマホで検索しながら、タオルをレンジで温め、蒸しタオルを作った。
「――たぶん、コレが一番やりやすい方法なんだろうけど……」
そう言って、温度を確認しながら、あたしの首筋に当てた。
「――……っん!」
思ったよりも熱く、思わず身体がビクリと反応してしまう。
「……おい」
「だって……」
眉を寄せる早川は、一旦タオルを外すと、もう一度軽く冷まし、再び当てた。
「……どうだ」
「……ん……大丈夫……」
目を閉じ、はあ、と、息を吐く。
でも、本当に、これで消えてくれるんだろうか。
そんな事を思いながら数分間、無言のまま、早川はタオルを当ててくれた。
何だか、よくわからない光景に、思わず苦笑いが浮かぶ。
――何で、あたしは、こんな事、頼んでるんだろうね。
「ちょっと外してみるぞ」
すると、早川は、そう言ってタオルを外し、あたしの首筋をまじまじと見た。
「――……どう……?消えた……?」
「……んー……微妙なトコだな」
「ちゃんと検索したんでしょうね」
「一応、温めたり、冷やしたりすれば良いってあったぞ」
そう言って、再び、タオルを当てる。
「ん……っ……」
あたしが、ビクリと反応を返すと、早川はしかめ面で言う。
「――おい、茉奈。その声、どうにかしろ。いい加減、襲うぞ」
「似たような事したクセに」
「……それは、まあ……」
「ふざけた事言うなら、さっさと出て行って」
「ホントに襲うぞ」
言いながら、タオルを持った手は離さない。
軽口の応酬をしながらも、早川は真剣にあたしの肌を見つめている。
「……まあ、若干薄くなった程度か」
「――そう上手くはいかないようね」
「後は大丈夫か」
確認され、言葉に詰まった。
それを見逃すようなコイツではない。
「まだ、あるのかよ。……ったく……マジで、後で文句言わねぇとだな」
「何言ってんの。アンタ、岡くんの連絡先なんて知らないでしょ」
そう言うが、あっさりと否定された。
「いや、知ってるぞ」
「はぁ⁉」
勢いよく顔を上げると、至近距離になった早川は苦笑いで答える。
「――っつーか、初めて会った後、無理矢理交換させられた。……お前に何かあったら、連絡しろって聞かなくてよ」
「……なっ……」
あ然として、無意識に口が開いてしまう。
それを見た早川は、ぶっ、と、吹き出した。
けれど、いつまでも止まる事の無いそれに、ついに、しびれを切らした。
「――悪い」
「……え……?」
言うが遅い、唇が重ねられ、あたしは目を見開いた。
少しだけかさついた、早川の唇の熱さに、涙は一瞬で止まる。
早川は、それに気づき、すぐに離れたが、またすぐに重ねてきた。
――今度は、深く、激しく。
「――……ん……っ……」
――……でも、とても、優しく――。
「……茉奈っ……」
名前を呼ばれ、いつの間にか閉じていた目を開くと、力の限り抱きしめられる。
「――……茉奈……好きだ――……」
呪文のように、繰り返し囁かれる言葉に、口づけに、胸の奥が締め付けられて苦しい。
増していく罪悪感は、けれど、早川を突き放す理由には、なれなかった。
唇が離され、我に返ると、あたしは早川から視線をそらす。
――……もう、自分で自分がわからなくなってきた。
こんな風にされても、嫌いになれないのは、何でなんだろう。
「わ、悪い。……そんなに嫌だったか」
「え」
気まずそうに言う早川は、回り込んであたしをのぞき込む。
……本気で嫌だったら、こんなに悩まない。
そう返したかったけれど、調子に乗られるのも癪に障る。
あたしは、ジロリと早川を見やると、ため息をついた。
「……次にやったら、通報ね」
「……おい、コラ。犯罪者扱いするな」
「合意の上でなかったら、犯罪なのよ」
こちとら、ミステリだって読み込んでるのだ。
そこらの浅い知識以上のものはある。
すると、早川は困ったように微笑む。
それは、思わず、こちらが見とれるような――そんな表情。
「わかった、わかった。詫びに何かあれば、手伝う」
あたしは、眉を寄せたが、ふと、自分の首筋に手を当てる。
「……ねえ、キスマークの消し方、わかる?」
「え」
それから、早川は、スマホで検索しながら、タオルをレンジで温め、蒸しタオルを作った。
「――たぶん、コレが一番やりやすい方法なんだろうけど……」
そう言って、温度を確認しながら、あたしの首筋に当てた。
「――……っん!」
思ったよりも熱く、思わず身体がビクリと反応してしまう。
「……おい」
「だって……」
眉を寄せる早川は、一旦タオルを外すと、もう一度軽く冷まし、再び当てた。
「……どうだ」
「……ん……大丈夫……」
目を閉じ、はあ、と、息を吐く。
でも、本当に、これで消えてくれるんだろうか。
そんな事を思いながら数分間、無言のまま、早川はタオルを当ててくれた。
何だか、よくわからない光景に、思わず苦笑いが浮かぶ。
――何で、あたしは、こんな事、頼んでるんだろうね。
「ちょっと外してみるぞ」
すると、早川は、そう言ってタオルを外し、あたしの首筋をまじまじと見た。
「――……どう……?消えた……?」
「……んー……微妙なトコだな」
「ちゃんと検索したんでしょうね」
「一応、温めたり、冷やしたりすれば良いってあったぞ」
そう言って、再び、タオルを当てる。
「ん……っ……」
あたしが、ビクリと反応を返すと、早川はしかめ面で言う。
「――おい、茉奈。その声、どうにかしろ。いい加減、襲うぞ」
「似たような事したクセに」
「……それは、まあ……」
「ふざけた事言うなら、さっさと出て行って」
「ホントに襲うぞ」
言いながら、タオルを持った手は離さない。
軽口の応酬をしながらも、早川は真剣にあたしの肌を見つめている。
「……まあ、若干薄くなった程度か」
「――そう上手くはいかないようね」
「後は大丈夫か」
確認され、言葉に詰まった。
それを見逃すようなコイツではない。
「まだ、あるのかよ。……ったく……マジで、後で文句言わねぇとだな」
「何言ってんの。アンタ、岡くんの連絡先なんて知らないでしょ」
そう言うが、あっさりと否定された。
「いや、知ってるぞ」
「はぁ⁉」
勢いよく顔を上げると、至近距離になった早川は苦笑いで答える。
「――っつーか、初めて会った後、無理矢理交換させられた。……お前に何かあったら、連絡しろって聞かなくてよ」
「……なっ……」
あ然として、無意識に口が開いてしまう。
それを見た早川は、ぶっ、と、吹き出した。