Runaway Love
お昼も終わり、また、押せ押せになっている事務作業と雑務に追われ、終了したのは八時を回るところだった。
けれど、工場は、また二十四時間稼働に戻っているので、そこかしこから音が聞こえて、それに安心感を覚える。
「杉崎さんよ、またバスかい?」
「ハイ。定期ありますし」
事務所の鍵をかけると、工場長は眉を寄せた。
「ああ、まあ、そうなんだが……。妙齢の女性を、この時間に一人歩きで帰すのはなあ……」
「大丈夫です。今まで、不都合はありませんでしたし」
「車は乗らないのかい?免許はあるんだよな?」
あたしは、その問いかけに、一瞬止まる。
けれど、ゆっくりと首を振った。
「――……運転は、したくないんです」
工場長は、何か言いたげにしていたが、あたしは、頭を下げロッカールームへ向かった。
荷物を持ち、靴を履き替えると、出入り口に向かう。
すると、スマホが振動し始め、あたしは外に出て、バッグから取り出した。
「――野口くん?」
『お疲れ様です。今、どこですか』
あたしは、星がかすかに見える空を見上げ、答えた。
「――帰るところ」
『迎えに行きますよ』
「……大丈夫。ちゃんと、帰れるから」
『――……でも、心配なんで……』
眉を下げる彼が浮かび、口元を上げた。
「ありがとう。……でも、駆くんも、今日から仕事でしょう?いいから、休んでて」
『――……わかり、ました……』
距離を置くと宣言した以上、必要最低限の接触にしたい。
徐々に離れていけば――彼の方から冷めていくかもしれないし。
――そんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
『――じゃあ、着いたら、メッセージでいいんで、ください』
「……わかったわ」
あたしは、うなづくと通話を終える。
野口くんなりの、最大限の譲歩だろう。
スマホをバッグにしまうと、あたしは、目の前の横断歩道を渡り、バス停で五分ほど待つ。
定刻通りに来たバスに乗り込むと、もう、見慣れてしまった景色を眺めながら、やり過ごす。
いつものバス停で降りると、アパートまで、早歩きだ。
自分の身は、自分で守る。
それくらいは、意識に叩き込んである。
あたしは、アパートの門が見えると、更に歩を進めた。
階段を駆け上がり、部屋の鍵を開け、中に入り、すぐに閉める。
そして、大きく息を吐いた。
帰宅するのに必要以上に消耗してしまうから、そろそろ、早く帰りたいものだわ。
心の中でボヤきながら、あたしは、言われた通り、野口くんに部屋に着いたと、メッセージを入れる。
すると、即座に返信。
――何も無かったですか?
それには、大丈夫、と、返す。
――良かったです。じゃあ、おやすみなさい。
あたしも、同じように返し、スマホを充電しようとテーブルに置く。
すると、また、震えたので、慌てて手にした。
――愛してます。
その言葉を見た瞬間、沸騰してしまった頭は真っ白で、自分がスマホを取り落とした事にも気づかなかった。
けれど、工場は、また二十四時間稼働に戻っているので、そこかしこから音が聞こえて、それに安心感を覚える。
「杉崎さんよ、またバスかい?」
「ハイ。定期ありますし」
事務所の鍵をかけると、工場長は眉を寄せた。
「ああ、まあ、そうなんだが……。妙齢の女性を、この時間に一人歩きで帰すのはなあ……」
「大丈夫です。今まで、不都合はありませんでしたし」
「車は乗らないのかい?免許はあるんだよな?」
あたしは、その問いかけに、一瞬止まる。
けれど、ゆっくりと首を振った。
「――……運転は、したくないんです」
工場長は、何か言いたげにしていたが、あたしは、頭を下げロッカールームへ向かった。
荷物を持ち、靴を履き替えると、出入り口に向かう。
すると、スマホが振動し始め、あたしは外に出て、バッグから取り出した。
「――野口くん?」
『お疲れ様です。今、どこですか』
あたしは、星がかすかに見える空を見上げ、答えた。
「――帰るところ」
『迎えに行きますよ』
「……大丈夫。ちゃんと、帰れるから」
『――……でも、心配なんで……』
眉を下げる彼が浮かび、口元を上げた。
「ありがとう。……でも、駆くんも、今日から仕事でしょう?いいから、休んでて」
『――……わかり、ました……』
距離を置くと宣言した以上、必要最低限の接触にしたい。
徐々に離れていけば――彼の方から冷めていくかもしれないし。
――そんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
『――じゃあ、着いたら、メッセージでいいんで、ください』
「……わかったわ」
あたしは、うなづくと通話を終える。
野口くんなりの、最大限の譲歩だろう。
スマホをバッグにしまうと、あたしは、目の前の横断歩道を渡り、バス停で五分ほど待つ。
定刻通りに来たバスに乗り込むと、もう、見慣れてしまった景色を眺めながら、やり過ごす。
いつものバス停で降りると、アパートまで、早歩きだ。
自分の身は、自分で守る。
それくらいは、意識に叩き込んである。
あたしは、アパートの門が見えると、更に歩を進めた。
階段を駆け上がり、部屋の鍵を開け、中に入り、すぐに閉める。
そして、大きく息を吐いた。
帰宅するのに必要以上に消耗してしまうから、そろそろ、早く帰りたいものだわ。
心の中でボヤきながら、あたしは、言われた通り、野口くんに部屋に着いたと、メッセージを入れる。
すると、即座に返信。
――何も無かったですか?
それには、大丈夫、と、返す。
――良かったです。じゃあ、おやすみなさい。
あたしも、同じように返し、スマホを充電しようとテーブルに置く。
すると、また、震えたので、慌てて手にした。
――愛してます。
その言葉を見た瞬間、沸騰してしまった頭は真っ白で、自分がスマホを取り落とした事にも気づかなかった。