Runaway Love
「あ、茉奈さん、お腹空いてません?」
「え」
あたしが、どうにかベッドから下りると、岡くんは、にこやかに尋ねてくる。
「――まあ、時間も時間だし」
「オレ、何か作りましょうか?」
「え」
「ちょっと、失礼しまーす」
言うが遅い、キッチンに向かうと、冷蔵庫を開ける。
「お、岡くん!」
「すごい!ちゃんと作ってる人の冷蔵庫だ!」
「は?」
あたしが追いかけてくるのを待って、彼は振り返って言った。
「テルの冷蔵庫なんて、何にも入ってないんですからね!ビールと、つまみになるような物が少しだけですよ⁉」
信じられない、という顔で言うが、当の自分はどうなのやら。
そう思ったのがわかったのか、岡くんは、ちょっとだけ憤りながら続ける。
「言っときますけど、オレ、じいちゃんが料理人ですから。ガキの頃から、一通り教わってるんですよ」
「――え」
あたしは、本気でポカンとしてしまった。
「今も、じいちゃんの洋食屋で、ホールのバイトしてますし」
「洋食屋……?」
「ああ、奈津美もテルも言ってませんでした?駅前の、けやき、っていう、ちょっと古い……「”けやき”⁉」
食い気味に返してしまったのは、仕方ないと思ってほしい。
”けやき”は、この近辺で一番歴史のある、老若男女問わず人気の洋食屋だ。
普段使いも、特別な日にも使えるし、味だって、全国テレビの取材が来る程。
あたしだって、学生の頃は、友達と行くのが憧れだった。
――まあ、行くような事は無かったけれど。
「茉奈さん、知ってました?」
「……い、行った事は無いの。……ごめんなさい」
すると、岡くんはニッコリと笑った。
「いいですよ、知っててくれるだけでも。じゃあ、ちょっと材料違いますけど、じいちゃん直伝のオムライス、作りますよ」
「……え」
あたしは、一瞬、何を言われたのかわからず、ポカンとしてしまった。
「――えぇ!!?」
けれど、次には、岡くんが目を丸くするほどに、驚いたのだった。
それから二十分ほど。
やっぱり不安で、彼の後ろで待機していたが、手際の良さはあたしより上だった。
そして、徐々に良い匂いがしてきて、あたしのお腹が急激に空腹を訴えてくる。
どうにか鳴らないように、胃の辺りを押さえるけれど。
――グウ。
瞬間、穴があったら入りたかった。
すると、岡くんは、フライパンを持ったまま振り返る。
「もう、できますから。座っててください」
「……あ、あり、がと……」
真っ赤になっている自覚はあるので、うつむいてうなづいた。
超意外なんですけど。
元々、父さんは家にいない人だったから、男性が料理するというイメージが全く無かったのだ。
「ハイ、お待たせしました」
目の前に出されたオムライスは、以前見た、フリーペーパーに載っていた写真の、”けやき”のもの、そのままだ。
「……え、コレ、本当に岡くんが作ったの……?」
「今、オレ、何やってたと思ってんですか?」
「そ、そうよね。……あ、ありがと。……いただきます」
卵の半熟のトロトロ感も、写真と同じ。
スプーンを入れた途端、流れ落ちていき、中のチキンライスの、ちょっと焦げたような匂いは、逆に食欲をそそる。
少しだけ冷まして、恐る恐る口に入れてみる。
「――お、おいし……」
「良かった!」
岡くんは、あたしを見て笑い、向かいに座って自分も同じように、オムライスにスプーンを入れた。
「基本的な材料があって良かったです。コレ、テルに作れって言われると、材料全部買って来なきゃいけないから、いっつも断ってるんですよ」
「そ、そうなの」
イメージとかけ離れた岡くんの特技に、あ然としながらも、手は止まらない。
いつもの数倍早く、食べ終えてしまった。
「え」
あたしが、どうにかベッドから下りると、岡くんは、にこやかに尋ねてくる。
「――まあ、時間も時間だし」
「オレ、何か作りましょうか?」
「え」
「ちょっと、失礼しまーす」
言うが遅い、キッチンに向かうと、冷蔵庫を開ける。
「お、岡くん!」
「すごい!ちゃんと作ってる人の冷蔵庫だ!」
「は?」
あたしが追いかけてくるのを待って、彼は振り返って言った。
「テルの冷蔵庫なんて、何にも入ってないんですからね!ビールと、つまみになるような物が少しだけですよ⁉」
信じられない、という顔で言うが、当の自分はどうなのやら。
そう思ったのがわかったのか、岡くんは、ちょっとだけ憤りながら続ける。
「言っときますけど、オレ、じいちゃんが料理人ですから。ガキの頃から、一通り教わってるんですよ」
「――え」
あたしは、本気でポカンとしてしまった。
「今も、じいちゃんの洋食屋で、ホールのバイトしてますし」
「洋食屋……?」
「ああ、奈津美もテルも言ってませんでした?駅前の、けやき、っていう、ちょっと古い……「”けやき”⁉」
食い気味に返してしまったのは、仕方ないと思ってほしい。
”けやき”は、この近辺で一番歴史のある、老若男女問わず人気の洋食屋だ。
普段使いも、特別な日にも使えるし、味だって、全国テレビの取材が来る程。
あたしだって、学生の頃は、友達と行くのが憧れだった。
――まあ、行くような事は無かったけれど。
「茉奈さん、知ってました?」
「……い、行った事は無いの。……ごめんなさい」
すると、岡くんはニッコリと笑った。
「いいですよ、知っててくれるだけでも。じゃあ、ちょっと材料違いますけど、じいちゃん直伝のオムライス、作りますよ」
「……え」
あたしは、一瞬、何を言われたのかわからず、ポカンとしてしまった。
「――えぇ!!?」
けれど、次には、岡くんが目を丸くするほどに、驚いたのだった。
それから二十分ほど。
やっぱり不安で、彼の後ろで待機していたが、手際の良さはあたしより上だった。
そして、徐々に良い匂いがしてきて、あたしのお腹が急激に空腹を訴えてくる。
どうにか鳴らないように、胃の辺りを押さえるけれど。
――グウ。
瞬間、穴があったら入りたかった。
すると、岡くんは、フライパンを持ったまま振り返る。
「もう、できますから。座っててください」
「……あ、あり、がと……」
真っ赤になっている自覚はあるので、うつむいてうなづいた。
超意外なんですけど。
元々、父さんは家にいない人だったから、男性が料理するというイメージが全く無かったのだ。
「ハイ、お待たせしました」
目の前に出されたオムライスは、以前見た、フリーペーパーに載っていた写真の、”けやき”のもの、そのままだ。
「……え、コレ、本当に岡くんが作ったの……?」
「今、オレ、何やってたと思ってんですか?」
「そ、そうよね。……あ、ありがと。……いただきます」
卵の半熟のトロトロ感も、写真と同じ。
スプーンを入れた途端、流れ落ちていき、中のチキンライスの、ちょっと焦げたような匂いは、逆に食欲をそそる。
少しだけ冷まして、恐る恐る口に入れてみる。
「――お、おいし……」
「良かった!」
岡くんは、あたしを見て笑い、向かいに座って自分も同じように、オムライスにスプーンを入れた。
「基本的な材料があって良かったです。コレ、テルに作れって言われると、材料全部買って来なきゃいけないから、いっつも断ってるんですよ」
「そ、そうなの」
イメージとかけ離れた岡くんの特技に、あ然としながらも、手は止まらない。
いつもの数倍早く、食べ終えてしまった。