Runaway Love
再び、五階でエレベーターを下りると、あたしは、経理部の部屋のドアを開ける。
「杉崎主任!」
外山さんが、イスをひっくり返す勢いで立ち上がると、あたしのところまでやって来た。
突撃してきた彼女を受け止め、苦笑いで返す。
「――……もう、しばらくは、工場の方を続けるわ」
「……よ……良かったぁー!」
涙目になりかけていた外山さんを離すと、あたしは、大野さんのところまで向かう。
「……まだ、後任が決まらないのもありますが……続けさせていただきます」
「――おう。助かる」
そう言うと、イスから立ち上がり、大野さんはあたしに頭を下げた。
「……お……大野さん?」
「――悪かった。……直属上司として、もっと、早く対応すべきだった」
「え」
「お前が、辞表を出すような事態を放置していたのは、オレの責任だ」
あたしは、その言葉に、慌てて首を振る。
「そ、そんな訳無いです!元々、あたしの個人的な問題だった訳で……」
大野さんは、顔を上げると、首を振り返す。
「それでもだ。――仕事する上で問題は無かったから、口出しするか、様子を見るか、部長と何度も話していたんだがな」
「――……え……」
「一応、部長の方から、直接社長に相談してたと思うぞ」
そう言って、大野さんは再び席に着いた。
「工場出向でどう転ぶか、心配だったんだが……お前さん、本社にいる時より、表情明るいな」
あたしは、その言葉にうなづく。
「――……みなさん、申し訳無いくらい、良い人達ばかりです」
「そうか。……こっちには、戻りたくなくなったか?」
「それは、何とも。――あたしが決める事じゃありませんから」
「まあ、そりゃそうか」
大野さんは、苦笑いで返すと、作業を始めた。
「……じゃあ、向こうに戻ります」
「――おう、気をつけて行けよ」
「ハイ」
あたしは、頭を下げると、部屋を後にした。
「杉崎主任!」
エレベーターを待っていると、後ろから野口くんが早足でやって来て、そのまま資料室に引きずられるように連れて行かれた。
「の、野口くん」
彼は、無言で、あたしをきつく抱き締める。
「――……もう、行っちゃうんですか」
甘えるような口調に、苦笑いが浮かんだ。
「……仕事中よ」
「休憩もらいました」
「……もう……」
あたしは、あきれ半分に彼の背に手を回す。
「……茉奈さん」
「――ちゃんと、仕事しましょ」
わがままをなだめるように、あたしは軽く背中を叩く。
「……じゃあ、充電させてください」
「え、あ、コラ……」
言うが遅い、野口くんは、唇を重ねてくる。
絡められる舌に、身体は敏感に反応をかえしてしまい、思わず身をよじった。
「――……今日は、迎えに行きます」
「……あたし、距離、置きたいって言わなかった……?」
「偽装は続いてるんでしょう?」
「じゃあ、送ってくれるだけね」
「――デートは?」
「条件次第」
流されるような事は、もう、しない。
ちゃんと、誠実に向き合えるように、今は一人でいたい。
――そして、恋愛が、本当にあたしに必要無いのか、考えたい。
「――夕飯だけなら、どうですか」
野口くんは、あたしから離れると、拗ねるように尋ねた。
その表情に、思わず心臓が鳴る。
――ホント、無意識って手に負えないわね……。
いつもは大人びている彼が見せる、甘えたような表情は、それだけで、あたしの意思を揺るがしてしまう。
「だけ、ね」
あたしが念を押すように言うと、野口くんは、砕けた笑顔でうなづいた。
「杉崎主任!」
外山さんが、イスをひっくり返す勢いで立ち上がると、あたしのところまでやって来た。
突撃してきた彼女を受け止め、苦笑いで返す。
「――……もう、しばらくは、工場の方を続けるわ」
「……よ……良かったぁー!」
涙目になりかけていた外山さんを離すと、あたしは、大野さんのところまで向かう。
「……まだ、後任が決まらないのもありますが……続けさせていただきます」
「――おう。助かる」
そう言うと、イスから立ち上がり、大野さんはあたしに頭を下げた。
「……お……大野さん?」
「――悪かった。……直属上司として、もっと、早く対応すべきだった」
「え」
「お前が、辞表を出すような事態を放置していたのは、オレの責任だ」
あたしは、その言葉に、慌てて首を振る。
「そ、そんな訳無いです!元々、あたしの個人的な問題だった訳で……」
大野さんは、顔を上げると、首を振り返す。
「それでもだ。――仕事する上で問題は無かったから、口出しするか、様子を見るか、部長と何度も話していたんだがな」
「――……え……」
「一応、部長の方から、直接社長に相談してたと思うぞ」
そう言って、大野さんは再び席に着いた。
「工場出向でどう転ぶか、心配だったんだが……お前さん、本社にいる時より、表情明るいな」
あたしは、その言葉にうなづく。
「――……みなさん、申し訳無いくらい、良い人達ばかりです」
「そうか。……こっちには、戻りたくなくなったか?」
「それは、何とも。――あたしが決める事じゃありませんから」
「まあ、そりゃそうか」
大野さんは、苦笑いで返すと、作業を始めた。
「……じゃあ、向こうに戻ります」
「――おう、気をつけて行けよ」
「ハイ」
あたしは、頭を下げると、部屋を後にした。
「杉崎主任!」
エレベーターを待っていると、後ろから野口くんが早足でやって来て、そのまま資料室に引きずられるように連れて行かれた。
「の、野口くん」
彼は、無言で、あたしをきつく抱き締める。
「――……もう、行っちゃうんですか」
甘えるような口調に、苦笑いが浮かんだ。
「……仕事中よ」
「休憩もらいました」
「……もう……」
あたしは、あきれ半分に彼の背に手を回す。
「……茉奈さん」
「――ちゃんと、仕事しましょ」
わがままをなだめるように、あたしは軽く背中を叩く。
「……じゃあ、充電させてください」
「え、あ、コラ……」
言うが遅い、野口くんは、唇を重ねてくる。
絡められる舌に、身体は敏感に反応をかえしてしまい、思わず身をよじった。
「――……今日は、迎えに行きます」
「……あたし、距離、置きたいって言わなかった……?」
「偽装は続いてるんでしょう?」
「じゃあ、送ってくれるだけね」
「――デートは?」
「条件次第」
流されるような事は、もう、しない。
ちゃんと、誠実に向き合えるように、今は一人でいたい。
――そして、恋愛が、本当にあたしに必要無いのか、考えたい。
「――夕飯だけなら、どうですか」
野口くんは、あたしから離れると、拗ねるように尋ねた。
その表情に、思わず心臓が鳴る。
――ホント、無意識って手に負えないわね……。
いつもは大人びている彼が見せる、甘えたような表情は、それだけで、あたしの意思を揺るがしてしまう。
「だけ、ね」
あたしが念を押すように言うと、野口くんは、砕けた笑顔でうなづいた。