Runaway Love
翌朝、あたしは、図書館の本を持って部屋を出る。
岡くんの姿を見られるのはマズいので、あたしは自力で向かう事にした。
迎えに行くと粘る彼をなだめるのは、少々骨が折れたが――。
バスに乗り、実家の方へ向かう。
彼の実家は、商店街の方の住宅街だが、一人暮らしの部屋は、大学近くとの事。
通っているところは、隣の市との境にあり、アパートは最寄駅から徒歩で十分はかからないらしい。
あたしは、言われた通り、実家の近くのバス停を過ぎ、終点の駅まで乗る。
そして、そこで降りると、駅のそばの線路を渡り、少し歩く。
ようやく到着した建物を見上げれば、築年数は、ほどほどのアパート。
そこの一階、左から二番目。
昨日言われた部屋番号を探し、チャイムを押す。
「いらっしゃい、茉奈さん!」
「――……お、おじゃまします……」
飛びついてくるかと思うほどの勢いで、岡くんはドアを開けて、あたしを迎え入れてくれた。
ニコニコと笑みを浮かべる彼に、あたしは苦笑いだ。
「……ず……随分、うれしそうね……」
「え、当然じゃないですか!茉奈さんが、オレの部屋にいるんですよ!夢じゃないですよね⁉」
真顔で返され、言葉に詰まる。
まるで、芸能人扱いだ。
「……言っとくけど、あたしは、本読みに来ただけなんだからね」
「ハイ!あ、お昼、何が良いですか?」
「――え、あ、えっと……任せるわよ」
「リクエストは?」
岡くんは、そう言いながらあたしの手を引くと、部屋の中に連れて行く。
「ちょっと、接触禁止だって言ったわよね」
「コレもダメなんですか?」
拗ねるように、あたしを見てくる彼に、思わず息をのむ。
わかっててやっているとしか思えない表情に、視線をそらした。
――……可愛いとか、思ってやらないんだから!
「じゃあ、ガマンします」
「当然でしょ」
「それより、お昼のリクエストは無いんですか?」
あたしは、一瞬、口を開きかけたが、閉じる。
既に、いろいろと世話になっているのに。
借りを増やすのは、何だか嫌だ。
あたしは、岡くんから視線を外して言った。
「……良いわよ、何でも。……アンタ、料理上手なんだから」
「――え、あ、ありがとうございます……」
すると、珍しく、彼は少々戸惑いながら返す。
「……じ、じゃあ……ちょっと考えておきますね」
その言葉にうなづき、あたしは尋ねた。
「で、どこにいれば良いの?」
「あ、そこのテーブルのトコで良いですか。オレ、やるコトあるんで」
岡くんは、ベッドのすぐそば、部屋のほぼ真ん中に置いてあったテーブルを指さして言った。
「――え」
あたしは、目を丸くする。
てっきり、そばにまとわりつかれるのかと思ったのだ。
すると、岡くんはニッコリと笑う。
「――今は何もしませんよ。……あなたが許してくれない限りは」
急にしおらしい事を言う彼に、あたしは、眉を寄せる。
「……アンタが言うと、何か裏があるのかと思うじゃない」
「え、じゃあ、しても良いんですか?」
見えない尻尾を振って、あたしに飛びつきそうな彼を、ひとにらみする。
「――良い訳、無いでしょうが!」
すると、岡くんは、冗談ですよ、と、笑う。
その笑顔に、心臓は鳴ってしまう。
「じ、じゃあっ……しばらくここで読むから」
「ハイ」
あたしは、何だか妙に気恥ずかしくなり、うなづく彼を見られなかった。
岡くんの姿を見られるのはマズいので、あたしは自力で向かう事にした。
迎えに行くと粘る彼をなだめるのは、少々骨が折れたが――。
バスに乗り、実家の方へ向かう。
彼の実家は、商店街の方の住宅街だが、一人暮らしの部屋は、大学近くとの事。
通っているところは、隣の市との境にあり、アパートは最寄駅から徒歩で十分はかからないらしい。
あたしは、言われた通り、実家の近くのバス停を過ぎ、終点の駅まで乗る。
そして、そこで降りると、駅のそばの線路を渡り、少し歩く。
ようやく到着した建物を見上げれば、築年数は、ほどほどのアパート。
そこの一階、左から二番目。
昨日言われた部屋番号を探し、チャイムを押す。
「いらっしゃい、茉奈さん!」
「――……お、おじゃまします……」
飛びついてくるかと思うほどの勢いで、岡くんはドアを開けて、あたしを迎え入れてくれた。
ニコニコと笑みを浮かべる彼に、あたしは苦笑いだ。
「……ず……随分、うれしそうね……」
「え、当然じゃないですか!茉奈さんが、オレの部屋にいるんですよ!夢じゃないですよね⁉」
真顔で返され、言葉に詰まる。
まるで、芸能人扱いだ。
「……言っとくけど、あたしは、本読みに来ただけなんだからね」
「ハイ!あ、お昼、何が良いですか?」
「――え、あ、えっと……任せるわよ」
「リクエストは?」
岡くんは、そう言いながらあたしの手を引くと、部屋の中に連れて行く。
「ちょっと、接触禁止だって言ったわよね」
「コレもダメなんですか?」
拗ねるように、あたしを見てくる彼に、思わず息をのむ。
わかっててやっているとしか思えない表情に、視線をそらした。
――……可愛いとか、思ってやらないんだから!
「じゃあ、ガマンします」
「当然でしょ」
「それより、お昼のリクエストは無いんですか?」
あたしは、一瞬、口を開きかけたが、閉じる。
既に、いろいろと世話になっているのに。
借りを増やすのは、何だか嫌だ。
あたしは、岡くんから視線を外して言った。
「……良いわよ、何でも。……アンタ、料理上手なんだから」
「――え、あ、ありがとうございます……」
すると、珍しく、彼は少々戸惑いながら返す。
「……じ、じゃあ……ちょっと考えておきますね」
その言葉にうなづき、あたしは尋ねた。
「で、どこにいれば良いの?」
「あ、そこのテーブルのトコで良いですか。オレ、やるコトあるんで」
岡くんは、ベッドのすぐそば、部屋のほぼ真ん中に置いてあったテーブルを指さして言った。
「――え」
あたしは、目を丸くする。
てっきり、そばにまとわりつかれるのかと思ったのだ。
すると、岡くんはニッコリと笑う。
「――今は何もしませんよ。……あなたが許してくれない限りは」
急にしおらしい事を言う彼に、あたしは、眉を寄せる。
「……アンタが言うと、何か裏があるのかと思うじゃない」
「え、じゃあ、しても良いんですか?」
見えない尻尾を振って、あたしに飛びつきそうな彼を、ひとにらみする。
「――良い訳、無いでしょうが!」
すると、岡くんは、冗談ですよ、と、笑う。
その笑顔に、心臓は鳴ってしまう。
「じ、じゃあっ……しばらくここで読むから」
「ハイ」
あたしは、何だか妙に気恥ずかしくなり、うなづく彼を見られなかった。