Runaway Love
今日は、珍しく野口くんが残業だったようで、アパートに着いて夕飯の支度をしている辺りで、着信があった。
「お疲れ様」
『お疲れ様です。――見ましたか?』
主語は無いが、昼間の事だろう。
「ええ、掲示板に貼ってあったから。――野口くん、何か聞いてる?」
『――……いえ、ただ、今日、大野代理が呼ばれてました』
「大野さんが?」
『まあ、内容はわかりませんが……帰って来た時に、複雑な表情していましたから、まるっきり良い事では無いかと思います』
「……そう……」
あたしは、それだけ返す。
彼には、異動の予定は話さない方が良いだろう。
そもそも、社長が口を滑らせただけで、詳しい事は聞いていないのだから。
『茉奈さん』
「え?」
『――……会いに行ったら、ダメですか?』
「……ごめんなさい……。……しばらくは、放っておいてほしい、かな……」
できるだけ、言葉を選び、拒否をする。
『――わかりました。……じゃあ、図書館行く時、言ってください。そろそろ、返却日ですよね』
「え、あ、そうね」
あんまりにもバタバタしていたし、急展開過ぎて、すっかり抜けていた。
あたしは、未だ手を付けていない、残りの本を考えてうなづく。
それでも、彼と一緒に行くのは気が引けた。
「――まあ、バスもあるし、一人で行けるから」
『……それも、ダメなんですか?』
「――……ダメっていうか……」
口ごもりながら、考える。
野口くんとは、趣味に関しては、恋愛抜きで一緒にいて楽しいし、話も弾む。
でも、今は、それを勘違いしそうで怖い。
『茉奈さん、また難しく考えてません?』
「え」
電話の向こう側の彼が、苦笑いしているのがわかる。
そんな口調。
『――オレ、本に関しては、純粋に話していて楽しいですよ。……茉奈さんは、違うんですか?』
「そ、そんな事無いわよ!……あたしも、野口くんと、本の話するの、好きよ」
『じゃあ、それで良くないですか?』
頑なになりそうな、あたしの思考を止めるように、彼は、優しく言う。
『何でもかんでも、恋愛につなげなくて良いんですよ。――ただ、オレが、あなたを大事に想ってるのを、わかってくれていれば……今は、それで』
――何で、そう、お見通しなのよ。
そして、その上で、そう言ってくれるのよね……。
あたしは、泣きたくなるのをこらえながら、うなづく。
「……じ、じゃあ……来週の土曜日、で、良いかしら……」
『ハイ。予定しておきます。ああ、一緒に読むって言ってた本、オレ、別に借りますから気にしないでください』
「あ、そ、そうね。ごめんなさい……」
――あの時は、こんな風になるなんて、思ってなかったから……。
『何かあったら、連絡くださいね』
「……ええ、ありがとう」
『それじゃあ――』
野口くんは、そう言うと、少しだけ甘えたような口調で続けた。
『――……あの……』
「え?」
『……何も無くても……電話して、良いですか』
「――野口くん?」
『……茉奈さんに会えない分、声が聞きたいです』
あたしは、一瞬、言葉に詰まる。
『茉奈さん』
すると、野口くんは、念を押すように言う。
『――オレ、片想いに戻るとは言いましたけど、何もしない訳ではないんですからね』
「――……っ……」
『ちゃんと、あなたがオレを見てくれるように、努力はしますよ?』
「……もう……わかったわよ」
若干、根負けしたような気もするが、それで野口くんが安心するのなら、うなづくしかない。
『ありがとうございます』
「――じゃあ、おやすみなさい」
『ハイ。……茉奈さん』
「え?」
『――愛してます』
「……おっ……おやすみっ!!」
まるで、挨拶代わりのような言葉に、あたしはいちいち敏感に反応してしまう。
――これも、無意識だったら、ちゃんと言わないと。
野口くんは、クスリ、と、笑うと、
『あんまり可愛い反応しないでくださいよ。我慢できなくなりますから』
そう言って、通話を終えた。
……もう……もうっ!!
考えたいって思ってるのに、横やり入れるように、乱してこないでよ。
あたしは、スマホを真っ赤な顔でにらんだ。
「お疲れ様」
『お疲れ様です。――見ましたか?』
主語は無いが、昼間の事だろう。
「ええ、掲示板に貼ってあったから。――野口くん、何か聞いてる?」
『――……いえ、ただ、今日、大野代理が呼ばれてました』
「大野さんが?」
『まあ、内容はわかりませんが……帰って来た時に、複雑な表情していましたから、まるっきり良い事では無いかと思います』
「……そう……」
あたしは、それだけ返す。
彼には、異動の予定は話さない方が良いだろう。
そもそも、社長が口を滑らせただけで、詳しい事は聞いていないのだから。
『茉奈さん』
「え?」
『――……会いに行ったら、ダメですか?』
「……ごめんなさい……。……しばらくは、放っておいてほしい、かな……」
できるだけ、言葉を選び、拒否をする。
『――わかりました。……じゃあ、図書館行く時、言ってください。そろそろ、返却日ですよね』
「え、あ、そうね」
あんまりにもバタバタしていたし、急展開過ぎて、すっかり抜けていた。
あたしは、未だ手を付けていない、残りの本を考えてうなづく。
それでも、彼と一緒に行くのは気が引けた。
「――まあ、バスもあるし、一人で行けるから」
『……それも、ダメなんですか?』
「――……ダメっていうか……」
口ごもりながら、考える。
野口くんとは、趣味に関しては、恋愛抜きで一緒にいて楽しいし、話も弾む。
でも、今は、それを勘違いしそうで怖い。
『茉奈さん、また難しく考えてません?』
「え」
電話の向こう側の彼が、苦笑いしているのがわかる。
そんな口調。
『――オレ、本に関しては、純粋に話していて楽しいですよ。……茉奈さんは、違うんですか?』
「そ、そんな事無いわよ!……あたしも、野口くんと、本の話するの、好きよ」
『じゃあ、それで良くないですか?』
頑なになりそうな、あたしの思考を止めるように、彼は、優しく言う。
『何でもかんでも、恋愛につなげなくて良いんですよ。――ただ、オレが、あなたを大事に想ってるのを、わかってくれていれば……今は、それで』
――何で、そう、お見通しなのよ。
そして、その上で、そう言ってくれるのよね……。
あたしは、泣きたくなるのをこらえながら、うなづく。
「……じ、じゃあ……来週の土曜日、で、良いかしら……」
『ハイ。予定しておきます。ああ、一緒に読むって言ってた本、オレ、別に借りますから気にしないでください』
「あ、そ、そうね。ごめんなさい……」
――あの時は、こんな風になるなんて、思ってなかったから……。
『何かあったら、連絡くださいね』
「……ええ、ありがとう」
『それじゃあ――』
野口くんは、そう言うと、少しだけ甘えたような口調で続けた。
『――……あの……』
「え?」
『……何も無くても……電話して、良いですか』
「――野口くん?」
『……茉奈さんに会えない分、声が聞きたいです』
あたしは、一瞬、言葉に詰まる。
『茉奈さん』
すると、野口くんは、念を押すように言う。
『――オレ、片想いに戻るとは言いましたけど、何もしない訳ではないんですからね』
「――……っ……」
『ちゃんと、あなたがオレを見てくれるように、努力はしますよ?』
「……もう……わかったわよ」
若干、根負けしたような気もするが、それで野口くんが安心するのなら、うなづくしかない。
『ありがとうございます』
「――じゃあ、おやすみなさい」
『ハイ。……茉奈さん』
「え?」
『――愛してます』
「……おっ……おやすみっ!!」
まるで、挨拶代わりのような言葉に、あたしはいちいち敏感に反応してしまう。
――これも、無意識だったら、ちゃんと言わないと。
野口くんは、クスリ、と、笑うと、
『あんまり可愛い反応しないでくださいよ。我慢できなくなりますから』
そう言って、通話を終えた。
……もう……もうっ!!
考えたいって思ってるのに、横やり入れるように、乱してこないでよ。
あたしは、スマホを真っ赤な顔でにらんだ。