Runaway Love
新しい事務員の方は、元々、資格を持っていたが、結婚時に専業主婦になったらしい。
今は、二人の子育て中ではあるけれど、実家に同居していて、万が一子供の具合が悪くても両親が面倒を見られるとの事。
ここは、そういう環境の人も多いし、上の世代も多いから、何かトラブルがあっても、理解が得やすいだろう。
――……あたしは、三十日まで、その彼女に仕事を教え、三十一日に本社に戻って、翌日から、すぐに大阪勤務。
――……どうして、なんて、考えたくないのに……。
辞表は完全に撤回した訳じゃない。
ここにいられるのなら――そう、思ったから……。
なのに。
会社にまで、逃げ道をふさがれてしまったようで――少しだけ、気が滅入った。
求人に応募があったという話は、すぐに、工場中を駆け巡ったらしく、お昼に食堂へ向かうと、あたしは、いろんな人に声をかけられた。
その多くは、残念だ、というもので、あたしは、少しだけ申し訳無くて……少しだけ、うれしかった。
「じゃあ、杉崎さん、辞めるとかじゃないんですね?」
「――ええ、まあ。……本社に戻るだけ。元々、柴田さんの後任が決まるまで、っていう話だったから」
食堂では、先にテーブルに着いていた藤沢さん達に招かれ、あたしは、そこにお邪魔する。
お弁当を広げながら、あたしが答えると、いつものメンバーは全員眉を下げた。
「えー……さみしいですー」
「こっちにいましょうよー」
各々、トレイに乗ったご飯に手をつけてはいるが、空気はしんみりしている。
「せっかく、仲良くなれたと思ったのに……」
その言葉に、あたしは、胸が詰まる。
本当の事を言えないのは、申し訳無いが、仕方ない。
「――そうね。……あたしも、とても残念だわ。……でも、こればっかりは、最初から決まっていた事だし――」
「そうですけど……」
若い娘達にそう言われるのは、本当にうれしい。
短い間だったが、あたしも、柴田さんのような関係を少しでも築けたのかと思うと、ここに来た意味は大きいと思う。
すると、藤沢さんは、急に目を輝かせてあたしに言った。
「そうだ!杉崎さん、連絡先、交換しましょうよ!」
「え」
「ね、SNSやってなくても、メッセージくらい送れますよね⁉」
「え、で、でも……あたし、そんなにマメじゃないし……」
「良いですよ!お忙しいのはわかってますから!」
半ば強制的に、連絡先の交換を藤沢さんとすると、ニッコリと、笑顔を向けられた。
「えへへー!何か、おねーさん、できたみたい」
「――藤沢さん」
「あたし、一人っ子だから、うれしいですー!」
ストレートなその言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
このコには、裏が全く感じられない。
だからこそ――あたしも、素直に受け取る事ができた。
「何だい、アンタ等、大騒ぎして」
すると、今、休憩に来たのか、永山さんが隣のテーブルに着いて、あたし達を見やる。
「永山さん!杉崎さんが本社戻るってー!」
「ああ、ウワサになってたけど……本当なんだね?」
そう言って、あたしに視線を向けたので、頭を下げた。
「――ハイ。……来週までの勤務の予定です……」
永山さんは、そうかい、と、眉を下げる。
「まあ、アンタは元々臨時だったんだから、しょうがないか。たまには、顔見せに来なよ」
「永山さん、まだ一週間ありますよ!」
若い娘達にそうたしなめられ、永山さんは、苦笑いを浮かべてうなづいた。
「それもそうだね。じゃあ、それまでは、よろしくね」
「ハイ」
あたしはうなづき、残っていたお弁当を完食する。
――……本当に、ここに来られて、良かった。
心から、そう思えた。
今は、二人の子育て中ではあるけれど、実家に同居していて、万が一子供の具合が悪くても両親が面倒を見られるとの事。
ここは、そういう環境の人も多いし、上の世代も多いから、何かトラブルがあっても、理解が得やすいだろう。
――……あたしは、三十日まで、その彼女に仕事を教え、三十一日に本社に戻って、翌日から、すぐに大阪勤務。
――……どうして、なんて、考えたくないのに……。
辞表は完全に撤回した訳じゃない。
ここにいられるのなら――そう、思ったから……。
なのに。
会社にまで、逃げ道をふさがれてしまったようで――少しだけ、気が滅入った。
求人に応募があったという話は、すぐに、工場中を駆け巡ったらしく、お昼に食堂へ向かうと、あたしは、いろんな人に声をかけられた。
その多くは、残念だ、というもので、あたしは、少しだけ申し訳無くて……少しだけ、うれしかった。
「じゃあ、杉崎さん、辞めるとかじゃないんですね?」
「――ええ、まあ。……本社に戻るだけ。元々、柴田さんの後任が決まるまで、っていう話だったから」
食堂では、先にテーブルに着いていた藤沢さん達に招かれ、あたしは、そこにお邪魔する。
お弁当を広げながら、あたしが答えると、いつものメンバーは全員眉を下げた。
「えー……さみしいですー」
「こっちにいましょうよー」
各々、トレイに乗ったご飯に手をつけてはいるが、空気はしんみりしている。
「せっかく、仲良くなれたと思ったのに……」
その言葉に、あたしは、胸が詰まる。
本当の事を言えないのは、申し訳無いが、仕方ない。
「――そうね。……あたしも、とても残念だわ。……でも、こればっかりは、最初から決まっていた事だし――」
「そうですけど……」
若い娘達にそう言われるのは、本当にうれしい。
短い間だったが、あたしも、柴田さんのような関係を少しでも築けたのかと思うと、ここに来た意味は大きいと思う。
すると、藤沢さんは、急に目を輝かせてあたしに言った。
「そうだ!杉崎さん、連絡先、交換しましょうよ!」
「え」
「ね、SNSやってなくても、メッセージくらい送れますよね⁉」
「え、で、でも……あたし、そんなにマメじゃないし……」
「良いですよ!お忙しいのはわかってますから!」
半ば強制的に、連絡先の交換を藤沢さんとすると、ニッコリと、笑顔を向けられた。
「えへへー!何か、おねーさん、できたみたい」
「――藤沢さん」
「あたし、一人っ子だから、うれしいですー!」
ストレートなその言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
このコには、裏が全く感じられない。
だからこそ――あたしも、素直に受け取る事ができた。
「何だい、アンタ等、大騒ぎして」
すると、今、休憩に来たのか、永山さんが隣のテーブルに着いて、あたし達を見やる。
「永山さん!杉崎さんが本社戻るってー!」
「ああ、ウワサになってたけど……本当なんだね?」
そう言って、あたしに視線を向けたので、頭を下げた。
「――ハイ。……来週までの勤務の予定です……」
永山さんは、そうかい、と、眉を下げる。
「まあ、アンタは元々臨時だったんだから、しょうがないか。たまには、顔見せに来なよ」
「永山さん、まだ一週間ありますよ!」
若い娘達にそうたしなめられ、永山さんは、苦笑いを浮かべてうなづいた。
「それもそうだね。じゃあ、それまでは、よろしくね」
「ハイ」
あたしはうなづき、残っていたお弁当を完食する。
――……本当に、ここに来られて、良かった。
心から、そう思えた。