Runaway Love
6
翌朝、いつもより三十分ほど早く起きると、あたしは寝ぼけ半分でシャワーを浴びる。
何だかんだ考えていたら、結局、日付を越えたあたりまで目がさえてしまったのだ。
どうにか身体を動かし、買った日に冷凍したパンを温めるだけの、簡単な朝食。
インスタントのポタージュと一緒に、どうにかお腹に納め、いつも通りのメイクを簡単に済ませ、いつも通りの服に着替える。
――別に、何も変わらない。
そう、自分に言い聞かせ、部屋を出た。
「はよ、杉崎」
すると、アパートの門を出たあたりで、後ろから声がかかる。
あたしは、一瞬ギクリとしてしまうが、気づかれないよう、深呼吸して振り返った。
「――おはよう、早川」
それだけ返し、前を向く。
――早川は気づかなかっただろうけれど、ドア一枚挟んだ向こう側で、岡くんとキスしていたなんて、気まずくてしかたない。
「昨日」
「え」
けれど、その一言で、心臓が跳ね上がる。
――大丈夫……気づいていない……はず。
ビクつくあたしに構わず、早川は続けた。
「先に帰っただろ、お前」
不服そうに言う早川に、あたしは不服そうに返す。
心の中は、安堵でいっぱいだが、気づかれたくはない。
「一緒に帰る約束なんて、してないでしょ」
「流れ的にわからねぇか?」
「――わからないわよ」
「帰りに部屋行ってみたけど、留守にしてたし――どこか寄ってたのかよ」
「関係ないでしょうが。……放っておいてくれないかしら」
どんどんと歩くスピードを速める。
これ以上突っ込まれたら、ごまかしきれない。
けれど、早川はあっさりと追いつき、隣に来ると、あたしをのぞき込む。
「……何、不機嫌になってんだよ」
「別に。関係無いって言ってるじゃない」
「気になるだろうが。――好きなんだから」
あたしは、その瞬間、早川を見上げる。
「バッ……!!何、朝っぱらからっ……!!」
――こんなの、他の人に聞かれたらっ……!!
焦って周囲を見回すあたしと対照的に、早川は余裕で笑う。
「誰もいねぇよ。この辺、俺たちくらいしか通勤路じゃねぇし。そもそも、みんな車通勤だろうが」
「そういう問題じゃないわよ……」
開き直った感のある早川は、あたしの頭をポンと叩く。
「それに、別に聞かれたって――」
言いかけた早川は、頭に置いた手で更に、あたしの髪を撫で回す。
おかげで、後ろで一つに結んでいたのに、グシャグシャだ。
「ちょっとっ……!」
「おい、髪、濡れてねぇか?」
「え」
早川が眉を寄せて言うので、あたしは、慌てて自分の髪を触る。
すると、ドライヤーが中途半端だったのか、内側がまだ乾ききっていなかった。
「……気にしないで。さっき、シャワー浴びた後、ドライヤーが適当だったから」
「――え」
「まあ、時間が経てば乾くでしょ。もう、夏のようなもんだし」
あたしは、そう言って、髪を撫でて押さえると、横断歩道を渡る。
そろそろ会社の駐車場が見えてくる頃だ。
――いい加減、離れないと。
そう思い、足を速める。
こんなトコ、早川をお気に入りの女性陣に見られたらと思うと、気が滅入るのだ。
「お、おい、杉崎」
早川は、慌てたようにあたしを呼ぶが、無視して正門を通る。
正面玄関から、いつものロッカールームに向かうと、早川はあきらめたのか、追って来なかった。
あたしは、ほう、と、息を吐く。
――とにかく、今日一日、乗り切らなきゃ。
――そう思ったのに。
何だかんだ考えていたら、結局、日付を越えたあたりまで目がさえてしまったのだ。
どうにか身体を動かし、買った日に冷凍したパンを温めるだけの、簡単な朝食。
インスタントのポタージュと一緒に、どうにかお腹に納め、いつも通りのメイクを簡単に済ませ、いつも通りの服に着替える。
――別に、何も変わらない。
そう、自分に言い聞かせ、部屋を出た。
「はよ、杉崎」
すると、アパートの門を出たあたりで、後ろから声がかかる。
あたしは、一瞬ギクリとしてしまうが、気づかれないよう、深呼吸して振り返った。
「――おはよう、早川」
それだけ返し、前を向く。
――早川は気づかなかっただろうけれど、ドア一枚挟んだ向こう側で、岡くんとキスしていたなんて、気まずくてしかたない。
「昨日」
「え」
けれど、その一言で、心臓が跳ね上がる。
――大丈夫……気づいていない……はず。
ビクつくあたしに構わず、早川は続けた。
「先に帰っただろ、お前」
不服そうに言う早川に、あたしは不服そうに返す。
心の中は、安堵でいっぱいだが、気づかれたくはない。
「一緒に帰る約束なんて、してないでしょ」
「流れ的にわからねぇか?」
「――わからないわよ」
「帰りに部屋行ってみたけど、留守にしてたし――どこか寄ってたのかよ」
「関係ないでしょうが。……放っておいてくれないかしら」
どんどんと歩くスピードを速める。
これ以上突っ込まれたら、ごまかしきれない。
けれど、早川はあっさりと追いつき、隣に来ると、あたしをのぞき込む。
「……何、不機嫌になってんだよ」
「別に。関係無いって言ってるじゃない」
「気になるだろうが。――好きなんだから」
あたしは、その瞬間、早川を見上げる。
「バッ……!!何、朝っぱらからっ……!!」
――こんなの、他の人に聞かれたらっ……!!
焦って周囲を見回すあたしと対照的に、早川は余裕で笑う。
「誰もいねぇよ。この辺、俺たちくらいしか通勤路じゃねぇし。そもそも、みんな車通勤だろうが」
「そういう問題じゃないわよ……」
開き直った感のある早川は、あたしの頭をポンと叩く。
「それに、別に聞かれたって――」
言いかけた早川は、頭に置いた手で更に、あたしの髪を撫で回す。
おかげで、後ろで一つに結んでいたのに、グシャグシャだ。
「ちょっとっ……!」
「おい、髪、濡れてねぇか?」
「え」
早川が眉を寄せて言うので、あたしは、慌てて自分の髪を触る。
すると、ドライヤーが中途半端だったのか、内側がまだ乾ききっていなかった。
「……気にしないで。さっき、シャワー浴びた後、ドライヤーが適当だったから」
「――え」
「まあ、時間が経てば乾くでしょ。もう、夏のようなもんだし」
あたしは、そう言って、髪を撫でて押さえると、横断歩道を渡る。
そろそろ会社の駐車場が見えてくる頃だ。
――いい加減、離れないと。
そう思い、足を速める。
こんなトコ、早川をお気に入りの女性陣に見られたらと思うと、気が滅入るのだ。
「お、おい、杉崎」
早川は、慌てたようにあたしを呼ぶが、無視して正門を通る。
正面玄関から、いつものロッカールームに向かうと、早川はあきらめたのか、追って来なかった。
あたしは、ほう、と、息を吐く。
――とにかく、今日一日、乗り切らなきゃ。
――そう思ったのに。