Runaway Love
59
翌日も、同じような感じで、小川さんの教育は続く。
一つの事にかける時間は長いが、その分、ミスも少ない。
「あ、あの、杉崎さん……」
「どうかしました?」
あたしは、発注書が入ったカゴをチェックしながら、小川さんの仕事の進み具合を確認する。
同時進行でやらないと、また、昨日のような時間になってしまうのは、目に見えているのだから。
「伝票の打ち込み、終わったんですが……これで良かったですか?」
「ああ、ハイ。ちょっと、確認させてください」
そう言って、彼女の隣からパソコンの入力画面を見る。
伝票と数字の確認をし、取引先や日付もチェック。
「大丈夫ですね」
「あ、ありがとうございます」
思った以上に慎重ではあるが、ミスをして二度手間になるよりはマシか。
あたしは、次の段階を説明しながら、時計を見やれば、もう、お昼の時間だ。
「えっと、もう、お昼なんで、コレ終わったら食堂行きましょうか」
「ハ、ハイ」
できる限り柔らかく言うと、小川さんは、少しだけ緊張がほどけたのか、口元を上げてうなづいた。
工場長が戻って来たタイミングで、あたしと小川さんは食堂に向かった。
彼女は、あたしと同じお弁当組のようで、二人でロッカールームに寄って行く。
「す、杉崎さん。あ……あの、食堂って、どこにいても良いんですか……?」
食堂に入るなり、小川さんは、そう言っておどおどと辺りを見回す。
「え、ええ。特に縛りは無いみたいですよ。それに、工場は二十四時間稼働してますから、ここもずっと開放されているんです。だから、いつも同じ人がいる訳ではないんですよ」
「――そ、そうですか」
彼女はうなづくと、チラリと奥の席に視線を向ける。
どうやら、できる限り、話しかけられないようなところが良いようだ。
「じゃあ、そっち行きましょうか」
「え、あ、良いんですか……?」
「え?」
質問の意味がわからず聞き返すと、小川さんは、申し訳無さそうに言った。
「その……私と一緒で……」
「そのつもりでしたけど?」
そう返し、笑顔を向ける。
自分でも引きつりたくなるような、あからさまなそれだが、たぶん、彼女にはハッキリと伝わるような表現の方が良いのだと思う。
野口くんも、同じ感じだったから。
他人の感情をうかがい過ぎて消耗するのなら、ハッキリと表し、安心してもらった方が良い。
「あ、ありがとうございます」
あたしは笑顔のまま、席に着く。
彼女は向かいに座って、お弁当を開ける。
「すごい……可愛い!」
「え」
昨日は、バタバタしていて気づかなかったが、彼女のお弁当は、カラフルでとても可愛い。
「あ、えっと……子供のお弁当作る時のクセで……」
「ああ、そうでしたね。おいくつです?」
「上が小学校三年で、下が一年です……」
あたしは、少しだけ驚いて言った。
「えっと……結構、早い時のお子さんなんですね」
「え?」
目を丸くし、小川さんはあたしを見る。
「――え、あの……私、四十ですが……」
「……え」
お互いに目を丸くし合う。
見た目、三十代前半。自分とほとんど変わらないと思っていた。
「す、すみません、早とちりして……」
「いえ、こちらこそ……言ってなくて……」
彼女はかしこまってしまい、頭を下げた。
「あ、あの、気にしないでください」
あたしは、どうフォローしようかと悩みながら、言葉を探す。
けれど、それより先に、小川さんが言った。
「いえ……若く見られるのは、ありがたいので……」
そう言うと、ごまかすようにお弁当に手を付け始めた。
だが、思い出したように顔を上げた。
「えっと……杉崎さんは、おいくつなんでしょうか……」
「え、あ、に、二十九で……」
すると、彼女は少しだけ微笑む。
「――そうですか。すごく落ち着いてられて、うらやましいです」
「あ、ありがとうございます……」
その言葉に、マイナスなイメージは無かったので、あたしは素直に受け取る事にした。
一つの事にかける時間は長いが、その分、ミスも少ない。
「あ、あの、杉崎さん……」
「どうかしました?」
あたしは、発注書が入ったカゴをチェックしながら、小川さんの仕事の進み具合を確認する。
同時進行でやらないと、また、昨日のような時間になってしまうのは、目に見えているのだから。
「伝票の打ち込み、終わったんですが……これで良かったですか?」
「ああ、ハイ。ちょっと、確認させてください」
そう言って、彼女の隣からパソコンの入力画面を見る。
伝票と数字の確認をし、取引先や日付もチェック。
「大丈夫ですね」
「あ、ありがとうございます」
思った以上に慎重ではあるが、ミスをして二度手間になるよりはマシか。
あたしは、次の段階を説明しながら、時計を見やれば、もう、お昼の時間だ。
「えっと、もう、お昼なんで、コレ終わったら食堂行きましょうか」
「ハ、ハイ」
できる限り柔らかく言うと、小川さんは、少しだけ緊張がほどけたのか、口元を上げてうなづいた。
工場長が戻って来たタイミングで、あたしと小川さんは食堂に向かった。
彼女は、あたしと同じお弁当組のようで、二人でロッカールームに寄って行く。
「す、杉崎さん。あ……あの、食堂って、どこにいても良いんですか……?」
食堂に入るなり、小川さんは、そう言っておどおどと辺りを見回す。
「え、ええ。特に縛りは無いみたいですよ。それに、工場は二十四時間稼働してますから、ここもずっと開放されているんです。だから、いつも同じ人がいる訳ではないんですよ」
「――そ、そうですか」
彼女はうなづくと、チラリと奥の席に視線を向ける。
どうやら、できる限り、話しかけられないようなところが良いようだ。
「じゃあ、そっち行きましょうか」
「え、あ、良いんですか……?」
「え?」
質問の意味がわからず聞き返すと、小川さんは、申し訳無さそうに言った。
「その……私と一緒で……」
「そのつもりでしたけど?」
そう返し、笑顔を向ける。
自分でも引きつりたくなるような、あからさまなそれだが、たぶん、彼女にはハッキリと伝わるような表現の方が良いのだと思う。
野口くんも、同じ感じだったから。
他人の感情をうかがい過ぎて消耗するのなら、ハッキリと表し、安心してもらった方が良い。
「あ、ありがとうございます」
あたしは笑顔のまま、席に着く。
彼女は向かいに座って、お弁当を開ける。
「すごい……可愛い!」
「え」
昨日は、バタバタしていて気づかなかったが、彼女のお弁当は、カラフルでとても可愛い。
「あ、えっと……子供のお弁当作る時のクセで……」
「ああ、そうでしたね。おいくつです?」
「上が小学校三年で、下が一年です……」
あたしは、少しだけ驚いて言った。
「えっと……結構、早い時のお子さんなんですね」
「え?」
目を丸くし、小川さんはあたしを見る。
「――え、あの……私、四十ですが……」
「……え」
お互いに目を丸くし合う。
見た目、三十代前半。自分とほとんど変わらないと思っていた。
「す、すみません、早とちりして……」
「いえ、こちらこそ……言ってなくて……」
彼女はかしこまってしまい、頭を下げた。
「あ、あの、気にしないでください」
あたしは、どうフォローしようかと悩みながら、言葉を探す。
けれど、それより先に、小川さんが言った。
「いえ……若く見られるのは、ありがたいので……」
そう言うと、ごまかすようにお弁当に手を付け始めた。
だが、思い出したように顔を上げた。
「えっと……杉崎さんは、おいくつなんでしょうか……」
「え、あ、に、二十九で……」
すると、彼女は少しだけ微笑む。
「――そうですか。すごく落ち着いてられて、うらやましいです」
「あ、ありがとうございます……」
その言葉に、マイナスなイメージは無かったので、あたしは素直に受け取る事にした。