Runaway Love
『あ、茉奈さん!すみません、今、部屋に着きました!』
その張本人の声に、心臓は、勝手にスピードを上げて鳴り始める。
あたしは、深呼吸して、それを落ち着かせた。
「――悪かったわね、忙しいのに」
『いえ!茉奈さんが、最優先ですから!』
スマホを持ちながら、直立不動で言う彼が思い浮かび、クスリ、と、口元が上がった。
『……茉奈さん?』
「ううん、何でもないわよ。……ちょっと、事情が変わってね」
『え?』
「――……九月一日から一か月、大阪に出向する事になったの」
『――え?』
――……ああ、電話で良かった。
……こんなの、直接言ったら、きっと、あたしは動けなくなる。
『……な、何ですか、それ……』
動揺を隠しきれないのだろう。岡くんの声は、かすかに震えている。
「――会社の事情だから、詳しい事は言えないんだけど……まあ、教育係になるのかしら」
『……そ、そう、ですか――。……オレには、話せない事なんですよね』
「――ごめんなさい」
一応、会社の辞令であり、内部事情なのだから、外の人間には話せない。
あたしがそう言うと、岡くんは、少しの間、無言になった。
沈黙に耐えている間、あたしは、どう続ければ良いのかを考える。
けれど、どうにも、言葉は思い浮かばない。
何を言っても――彼をフォローできるとは思えない。
『……遠い、ですよね』
すると、岡くんは、ポツリと、そうつぶやく。
「……まあ……新幹線だって、半日くらいはかかるでしょうよ」
『……それに……向こうには、あの人もいるんですよね』
「え?」
誰の事を言っているのか、一瞬、わからなかった。
あたしが聞き返すと、彼は、困ったような口調で言う。
『――早川さんですよ。……大阪に行ってるんでしょう?』
「え、あれ、あたし言ったっけ……?」
『本人から、メッセージが来てましたよ。結構前に』
それを聞いて、あたしは、二人が連絡先を交換していた事を思い出した。
『――自分がいない時に、茉奈さんに何かあったら、許さない、って、クギ刺されましたけど』
「……早川……」
思わず、スマホをもったままうなだれた。
――どうして、アイツは……。
すると、岡くんは、そんなあたしを気にせずに続けた。
『もちろん、絶対無い、って返しましたけどね』
「――……アンタ等、何、本人そっちのけで闘ってんのよ」
彼は、あたしの言葉に、声を上げて笑った。
『まあ、男の本能ですよ。お互いに、奪われたくないんですから』
耳に届く言葉に、ドキリ、と、胸が鳴る。
――自覚しろよ。
浮かぶのは、早川の言葉。
――心の中で、わかっているって、何度も返す。
「……もう……ホント、バカよね、アンタ達って……」
『――ハイ。……バカになるくらい、あなたの事を愛してるんですよ』
「――……っ……!!!」
穏やかな口調で言う彼の言葉に、全身が熱くなる。
「じっ……じゃあっ……そういうコトでっ!」
『あ、茉奈さん、お手伝いいるなら……』
「大丈夫!マンスリーマンションだから、ひと通り揃ってる!」
あたしは、それだけ言い残すと、終了ボタンを少しだけ強めに押した。
その張本人の声に、心臓は、勝手にスピードを上げて鳴り始める。
あたしは、深呼吸して、それを落ち着かせた。
「――悪かったわね、忙しいのに」
『いえ!茉奈さんが、最優先ですから!』
スマホを持ちながら、直立不動で言う彼が思い浮かび、クスリ、と、口元が上がった。
『……茉奈さん?』
「ううん、何でもないわよ。……ちょっと、事情が変わってね」
『え?』
「――……九月一日から一か月、大阪に出向する事になったの」
『――え?』
――……ああ、電話で良かった。
……こんなの、直接言ったら、きっと、あたしは動けなくなる。
『……な、何ですか、それ……』
動揺を隠しきれないのだろう。岡くんの声は、かすかに震えている。
「――会社の事情だから、詳しい事は言えないんだけど……まあ、教育係になるのかしら」
『……そ、そう、ですか――。……オレには、話せない事なんですよね』
「――ごめんなさい」
一応、会社の辞令であり、内部事情なのだから、外の人間には話せない。
あたしがそう言うと、岡くんは、少しの間、無言になった。
沈黙に耐えている間、あたしは、どう続ければ良いのかを考える。
けれど、どうにも、言葉は思い浮かばない。
何を言っても――彼をフォローできるとは思えない。
『……遠い、ですよね』
すると、岡くんは、ポツリと、そうつぶやく。
「……まあ……新幹線だって、半日くらいはかかるでしょうよ」
『……それに……向こうには、あの人もいるんですよね』
「え?」
誰の事を言っているのか、一瞬、わからなかった。
あたしが聞き返すと、彼は、困ったような口調で言う。
『――早川さんですよ。……大阪に行ってるんでしょう?』
「え、あれ、あたし言ったっけ……?」
『本人から、メッセージが来てましたよ。結構前に』
それを聞いて、あたしは、二人が連絡先を交換していた事を思い出した。
『――自分がいない時に、茉奈さんに何かあったら、許さない、って、クギ刺されましたけど』
「……早川……」
思わず、スマホをもったままうなだれた。
――どうして、アイツは……。
すると、岡くんは、そんなあたしを気にせずに続けた。
『もちろん、絶対無い、って返しましたけどね』
「――……アンタ等、何、本人そっちのけで闘ってんのよ」
彼は、あたしの言葉に、声を上げて笑った。
『まあ、男の本能ですよ。お互いに、奪われたくないんですから』
耳に届く言葉に、ドキリ、と、胸が鳴る。
――自覚しろよ。
浮かぶのは、早川の言葉。
――心の中で、わかっているって、何度も返す。
「……もう……ホント、バカよね、アンタ達って……」
『――ハイ。……バカになるくらい、あなたの事を愛してるんですよ』
「――……っ……!!!」
穏やかな口調で言う彼の言葉に、全身が熱くなる。
「じっ……じゃあっ……そういうコトでっ!」
『あ、茉奈さん、お手伝いいるなら……』
「大丈夫!マンスリーマンションだから、ひと通り揃ってる!」
あたしは、それだけ言い残すと、終了ボタンを少しだけ強めに押した。