Runaway Love
「おはようございます、茉奈さん」
「おはよう、駆くん」
あたしは、助手席に乗せてもらうと、運転席に戻った野口くんを見やる。
久し振りに休日に会うせいか、いつも以上に私服の彼がカッコよく見えてしまい、思わず視線をそらしてしまった。
「どうかしましたか?」
「えっ、あ……何だか、休みに会うの、久し振りだな、って……」
「そうですね。――茉奈さんの私服も、久し振りですね。可愛いです」
不意打ちの言葉に、あたしは顔が赤くなるのを感じる。
「え、っとっ……まず、図書館よねっ……!」
ごまかすように、そう言うと、彼は、クスリ、と、笑ってうなづいた。
「――そうですね。行く前に、気になる本、チェックしていきますか」
「ええ。帰ったら、借りに行きたいわね」
あたしは、うなづくと、窓の外の景色を眺める。
――もう、しばらくは、こうやって見る事も無いのだ。
そう思うと、少しでも、目に焼き付けておこうと思った。
――あたしの故郷は、ここなのだから。
図書館に着くと、以前のように、一人で回る事にする。
野口くんは、少しだけ不服そうにしていたが、こればかりは譲れない。
彼は、あたしとは別の棚を見て回っていた。
その間、向けられている女性達の視線には、苦笑いしかない。
――いずれ、慣れてくれれば良いんだけど……。
そんな事を思いながら、あたしは、棚にギッシリと並んだタイトルを眺めていった。
それから、野口くんはいつものように十冊借り、あたしは読みたい本のリストを記憶にとどめる。
帰ってきたら、やっぱり借りに行かなきゃ。
芦屋先生の既刊も入っていたし、新しい人も発掘したい。
二人で、本の話題で盛り上がりながらマルタヤで食材を買うと、野口くんの部屋に到着した。
そして、材料を並べていると、彼はあたしをのぞき込む。
「――何?」
「……いえ。……少しでも、茉奈さんを目に焼き付けていたいと思って」
「……な、何言ってっ……」
けれど、それ以上は言えなかった。
軽く、唇が触れる。
「……駆くん」
「すみません。――離れなきゃいけないと思ったら、やっぱり、我慢できませんでした」
「……次は無いわよ?」
ジロリと見上げると、彼は、赤くなりながら、眉を下げてうなづいた。
「すみませんってば」
「――駆くん、いつも無意識だから」
「気をつけますから」
そう言いながらも、あたしに抱き着く。
「駆くん」
「――でも、茉奈さんも、無意識が過ぎますからね」
「きゃっ……んっ……」
耳元で囁かれ、久し振りのそれに、思わず声を上げてしまう。
「バカ……っ……!」
「ホラ、可愛い反応」
抱いている腕に力を込め、野口くんはあたしに頬を寄せる。
「――嫌いになりましたか」
「……そういう訳じゃなくて……ね……」
思わず目を閉じてしまい、かえって敏感に彼を感じる。
「……向こうに行ったら、早川主任と一緒に仕事するんですよね……」
ポツリとつぶやくように、野口くんは耳元で言った。
――ああ、そうか。
――……野口くんにとっては、ただ、あたしが出向するなら、我慢できたのかもしれない。
……けれど……その先に、早川がいるから……。
「……茉奈さん……やっぱり……キス、したいです。――ダメ、ですか?」
「駆くん」
甘えるように言うのは――無意識に、それを怖がっているからかもしれない。
そう思うと、邪険にはできない。
あたしは、彼を見上げ、かすかにうなづく。
すると、そっとあたしを離し、先程よりも長く口づける。
そして、舌を滑り込ませ、あたしにその感触を刻み込むように絡める。
「――茉奈さん……オレ、ちゃんと待ちます……」
唇を離すと、野口くんは、少しだけ悲しそうに笑って言う。
そして、指で、あたしの唇をそっと撫でると、ゆっくりと離れた。
「……駆くん」
「もう、大丈夫です。……茉奈さんは、茉奈さんのペースで考えてください」
その言葉に、申し訳無さを感じながらも、あたしはうなづく。
「……ありがとう……」
ごめんなさい、は、心の中で続ける事にした。
「おはよう、駆くん」
あたしは、助手席に乗せてもらうと、運転席に戻った野口くんを見やる。
久し振りに休日に会うせいか、いつも以上に私服の彼がカッコよく見えてしまい、思わず視線をそらしてしまった。
「どうかしましたか?」
「えっ、あ……何だか、休みに会うの、久し振りだな、って……」
「そうですね。――茉奈さんの私服も、久し振りですね。可愛いです」
不意打ちの言葉に、あたしは顔が赤くなるのを感じる。
「え、っとっ……まず、図書館よねっ……!」
ごまかすように、そう言うと、彼は、クスリ、と、笑ってうなづいた。
「――そうですね。行く前に、気になる本、チェックしていきますか」
「ええ。帰ったら、借りに行きたいわね」
あたしは、うなづくと、窓の外の景色を眺める。
――もう、しばらくは、こうやって見る事も無いのだ。
そう思うと、少しでも、目に焼き付けておこうと思った。
――あたしの故郷は、ここなのだから。
図書館に着くと、以前のように、一人で回る事にする。
野口くんは、少しだけ不服そうにしていたが、こればかりは譲れない。
彼は、あたしとは別の棚を見て回っていた。
その間、向けられている女性達の視線には、苦笑いしかない。
――いずれ、慣れてくれれば良いんだけど……。
そんな事を思いながら、あたしは、棚にギッシリと並んだタイトルを眺めていった。
それから、野口くんはいつものように十冊借り、あたしは読みたい本のリストを記憶にとどめる。
帰ってきたら、やっぱり借りに行かなきゃ。
芦屋先生の既刊も入っていたし、新しい人も発掘したい。
二人で、本の話題で盛り上がりながらマルタヤで食材を買うと、野口くんの部屋に到着した。
そして、材料を並べていると、彼はあたしをのぞき込む。
「――何?」
「……いえ。……少しでも、茉奈さんを目に焼き付けていたいと思って」
「……な、何言ってっ……」
けれど、それ以上は言えなかった。
軽く、唇が触れる。
「……駆くん」
「すみません。――離れなきゃいけないと思ったら、やっぱり、我慢できませんでした」
「……次は無いわよ?」
ジロリと見上げると、彼は、赤くなりながら、眉を下げてうなづいた。
「すみませんってば」
「――駆くん、いつも無意識だから」
「気をつけますから」
そう言いながらも、あたしに抱き着く。
「駆くん」
「――でも、茉奈さんも、無意識が過ぎますからね」
「きゃっ……んっ……」
耳元で囁かれ、久し振りのそれに、思わず声を上げてしまう。
「バカ……っ……!」
「ホラ、可愛い反応」
抱いている腕に力を込め、野口くんはあたしに頬を寄せる。
「――嫌いになりましたか」
「……そういう訳じゃなくて……ね……」
思わず目を閉じてしまい、かえって敏感に彼を感じる。
「……向こうに行ったら、早川主任と一緒に仕事するんですよね……」
ポツリとつぶやくように、野口くんは耳元で言った。
――ああ、そうか。
――……野口くんにとっては、ただ、あたしが出向するなら、我慢できたのかもしれない。
……けれど……その先に、早川がいるから……。
「……茉奈さん……やっぱり……キス、したいです。――ダメ、ですか?」
「駆くん」
甘えるように言うのは――無意識に、それを怖がっているからかもしれない。
そう思うと、邪険にはできない。
あたしは、彼を見上げ、かすかにうなづく。
すると、そっとあたしを離し、先程よりも長く口づける。
そして、舌を滑り込ませ、あたしにその感触を刻み込むように絡める。
「――茉奈さん……オレ、ちゃんと待ちます……」
唇を離すと、野口くんは、少しだけ悲しそうに笑って言う。
そして、指で、あたしの唇をそっと撫でると、ゆっくりと離れた。
「……駆くん」
「もう、大丈夫です。……茉奈さんは、茉奈さんのペースで考えてください」
その言葉に、申し訳無さを感じながらも、あたしはうなづく。
「……ありがとう……」
ごめんなさい、は、心の中で続ける事にした。