Runaway Love
「杉崎主任ー、相席、良いですかぁー?」
お昼休み。
昨日の今日だけれど、お弁当を作る気力も無かったので、連日で社食を利用する羽目になってしまった。
週末で、営業部の方がバタバタしているらしく、空席が多かったので、あたしは、窓側の二人掛けテーブル席に一人で陣取る。
そして、サバみそ定食に手をつけ始めてすぐ、甘ったるい声が上から降って来たのだ。
あたしは、そちらを見上げると、昨日、早川に絡んでいた受付嬢が立っていた。
スラッとしたその姿は、雑誌のモデルのようで、一瞬見とれてしまったが、すぐに視線を落とす。
どうせ、ロクな事じゃないんだろうから、できれば、放っておいてほしい。
せっかくの美味しいご飯が、台無しになるような話題は避けたいのだ。
「――あの、席なら割と空いてますけど」
あたしは、できる限りの低い声で、彼女を見ずに言う。
普通なら、不機嫌を悟って離れていくはず。
けれど、彼女は、あたしの返事をスルーして、あっさりと目の前に座った。
持っていた、スパゲティカルボナーラの香りが、容赦なくこちらまで来るので、あたしは少しだけ眉を寄せる。
――いや、カルボナーラに罪は無い。
「えっとぉ、受付やってる、派遣の篠塚藍香って言いますぅ」
「――……はあ」
そう言って、篠塚さんは、ゆるくウェーブのかかった長い髪を押さえ、ニッコリと会釈する。
その計算された仕草に、思わず奈津美を思い出してしまった。
受付嬢と呼ばれる彼女たちは、これが通常なのか。
――あたしには、到底マネできない、愛想の良さ。
そう、無駄に感心していると、そのまま話し始められてしまった。
「あのぉ……杉崎主任って、彼氏さん、年下だったんですねぇ?」
「……は?」
思わず、ポカンと口が開いてしまった。
持っていた箸は、トレイに逆戻りだ。
けれど、そんな反応もお構いなしに、彼女は続ける。
「この前、正門前で、ちょっとゴタゴタしてたじゃないですかぁ。藍香、ちょうど、上の廊下の窓から見えてぇ……」
「ちょっと、待って」
あたしは、少しだけドスを利かせた声で、言葉を止める。
「――何か、勘違いされてませんか」
「え?でも、密着してたじゃないですかぁ」
そう言われると、言葉が出ない。
岡くんの事は、義弟の親友としか言えないんだから。
「――アレは、事情があって」
「……でも、早川主任と言い争ってたってぇ、みんな、言ってましたよぉ?」
「それは、アイツの勘違いのせいですから」
バッサリと切り捨てるあたしを、篠塚さんは、キョトンと見返す。
「え?じゃあ、結局、杉崎主任って、誰と付き合ってるんですぅ?」
「誰とも付き合ってないし、付き合う気も無いですから」
あたしは、箸を持ち直すと、食事を再開した。
これ以上は、プライベートだ。ベラベラと話す義務など無い。
すると、篠塚さんは、トレイを持って立ち上がった。
「――なぁんだ。つっまんなーい」
「……は?」
思わず、にらみつけるように見上げてしまう。
どういう意味だ、それは。
「せっかく、ニュースになりそうだったのにぃ」
「……は??」
篠塚さんは、あたしを見下ろすと、意味ありげに笑って言った。
「三角関係とか、絶好のゴシップじゃないですかぁ。みんなで盛り上がりたかったのにぃ」
ぼう然としているあたしをそのままに、彼女は、周囲を見回し、同僚を見つけると、そちらに行ってしまった。
――……何だ、それは。
あたし等は、アンタたちのヒマつぶしじゃない!!
怒りに任せて、ご飯を食べてしまったので、せっかくの味は分からずじまいだった。
お昼休み。
昨日の今日だけれど、お弁当を作る気力も無かったので、連日で社食を利用する羽目になってしまった。
週末で、営業部の方がバタバタしているらしく、空席が多かったので、あたしは、窓側の二人掛けテーブル席に一人で陣取る。
そして、サバみそ定食に手をつけ始めてすぐ、甘ったるい声が上から降って来たのだ。
あたしは、そちらを見上げると、昨日、早川に絡んでいた受付嬢が立っていた。
スラッとしたその姿は、雑誌のモデルのようで、一瞬見とれてしまったが、すぐに視線を落とす。
どうせ、ロクな事じゃないんだろうから、できれば、放っておいてほしい。
せっかくの美味しいご飯が、台無しになるような話題は避けたいのだ。
「――あの、席なら割と空いてますけど」
あたしは、できる限りの低い声で、彼女を見ずに言う。
普通なら、不機嫌を悟って離れていくはず。
けれど、彼女は、あたしの返事をスルーして、あっさりと目の前に座った。
持っていた、スパゲティカルボナーラの香りが、容赦なくこちらまで来るので、あたしは少しだけ眉を寄せる。
――いや、カルボナーラに罪は無い。
「えっとぉ、受付やってる、派遣の篠塚藍香って言いますぅ」
「――……はあ」
そう言って、篠塚さんは、ゆるくウェーブのかかった長い髪を押さえ、ニッコリと会釈する。
その計算された仕草に、思わず奈津美を思い出してしまった。
受付嬢と呼ばれる彼女たちは、これが通常なのか。
――あたしには、到底マネできない、愛想の良さ。
そう、無駄に感心していると、そのまま話し始められてしまった。
「あのぉ……杉崎主任って、彼氏さん、年下だったんですねぇ?」
「……は?」
思わず、ポカンと口が開いてしまった。
持っていた箸は、トレイに逆戻りだ。
けれど、そんな反応もお構いなしに、彼女は続ける。
「この前、正門前で、ちょっとゴタゴタしてたじゃないですかぁ。藍香、ちょうど、上の廊下の窓から見えてぇ……」
「ちょっと、待って」
あたしは、少しだけドスを利かせた声で、言葉を止める。
「――何か、勘違いされてませんか」
「え?でも、密着してたじゃないですかぁ」
そう言われると、言葉が出ない。
岡くんの事は、義弟の親友としか言えないんだから。
「――アレは、事情があって」
「……でも、早川主任と言い争ってたってぇ、みんな、言ってましたよぉ?」
「それは、アイツの勘違いのせいですから」
バッサリと切り捨てるあたしを、篠塚さんは、キョトンと見返す。
「え?じゃあ、結局、杉崎主任って、誰と付き合ってるんですぅ?」
「誰とも付き合ってないし、付き合う気も無いですから」
あたしは、箸を持ち直すと、食事を再開した。
これ以上は、プライベートだ。ベラベラと話す義務など無い。
すると、篠塚さんは、トレイを持って立ち上がった。
「――なぁんだ。つっまんなーい」
「……は?」
思わず、にらみつけるように見上げてしまう。
どういう意味だ、それは。
「せっかく、ニュースになりそうだったのにぃ」
「……は??」
篠塚さんは、あたしを見下ろすと、意味ありげに笑って言った。
「三角関係とか、絶好のゴシップじゃないですかぁ。みんなで盛り上がりたかったのにぃ」
ぼう然としているあたしをそのままに、彼女は、周囲を見回し、同僚を見つけると、そちらに行ってしまった。
――……何だ、それは。
あたし等は、アンタたちのヒマつぶしじゃない!!
怒りに任せて、ご飯を食べてしまったので、せっかくの味は分からずじまいだった。