Runaway Love
翌日は、小川さんに月末締めのやり方を説明。
柴田さんのメモにも詳しく書いてあったので、幾分やりやすかった。
「――じゃあ、明後日までに、今月分の領収証や伝票の漏れが無いか、確認して、本社にデータを送ってもらえば良いわ。後は、帳簿をひと月分つけてあるヤツも」
「ハ、ハイ」
「入力済みの伝票は、こっちに保管して」
言いながら、デスクの下にあるファイルを指さす。
小川さんは、一つ一つ確認しながらうなづくが、やはり不安なのだろう。
いくつか前のヤツを、再び聞いてくるので、また説明する。
だが、わからないままにされるよりは良い。
通常業務と並行でやっているので、二人で一つ進んで、一つ戻ってを繰り返しながらも、どうにか終了できた。
「――杉崎さん、一応、全部終わりました」
「お疲れ様」
あたしがうなづくと、小川さんは、少しだけホッとしたように、うなづき返した。
「おう、終わったかい」
「ハイ」
事務所を出たところで、工場長に声をかけられ、あたしと小川さんは、同時にうなづく。
工場長は事務所の鍵をかけて、あたし達を見やった。
「どうだい、小川さん、何とかなりそうかい」
「――ハ、ハイ……」
「明日は最後なので、小川さんに一人でやってもらいます」
そう、あたしが言うと、彼女はビクリと肩を跳ね上げた。
そして、不安そうに振り返り、眉を下げる。
「――……一人で、ですか」
「ええ。もう、明日は、あたしが後ろで見ている形にしますので」
あたしが、柴田さんにしてもらったように、彼女に引き継ごうと思ったのだ。
何にせよ、明後日からは、一人で賄わなければならないのだから。
「――大丈夫です。一回やってみれば、大体わかりますから」
「……ハ、ハイ……。じゃあ……頑張ってみます」
緊張感を隠せないまま、小川さんがうなづき、あたしはそれにうなづいて返した。
――きっと、大丈夫。
何となく、そう思う。
落ち着いていれば、きちんとできる人だと思うから。
「でも、皆さんにフォローお願いできるよう、工場長からも伝えてください」
「おう。せっかく来てくれたんだ、協力は惜しまないぞ」
「ありがとうございます」
あたしは、二カッと笑う工場長に、口元を上げて返した。
アパートの部屋の鍵を開け、大きく息を吐く。
――明日で、この生活も終わり。
明後日には、本社で出向の準備、半日で上がって、そのまま大阪行きになる。
住吉さんから、朝一番で、そうメールが来ていた。
新幹線の乗り継ぎ有で、約五時間ほどだという。
夜には、向こうに着く予定だ。
それから、迎えに来てもらって、会社が借り上げたマンションまで向かう。
考えただけでも、ハードスケジュールだが、仕方ない。
それに――そのくらい忙しいくらいが、今はありがたい。
――……野口くんの事を、考えないで済むから……。
無意識にバッグからスマホを出して、着信を確認してしまうくらいには、あたしは、彼のいる生活に慣れてしまったようだ。
そう感じ――胸が痛い。
すると、スマホが一瞬震えたので、反射的に画面に目を落とす。
――明後日、ホームまで迎えに行く。
早川からのメッセージだった。
それに、了解、とだけ返し、あたしは電源を落とす。
――……今は、誰とも話したくない――……。
野口くんを、あれだけ傷つけておいて、自分も傷ついたように感じるなんて、図々しい。
――……そんな自分を、今は、許せなかった。
柴田さんのメモにも詳しく書いてあったので、幾分やりやすかった。
「――じゃあ、明後日までに、今月分の領収証や伝票の漏れが無いか、確認して、本社にデータを送ってもらえば良いわ。後は、帳簿をひと月分つけてあるヤツも」
「ハ、ハイ」
「入力済みの伝票は、こっちに保管して」
言いながら、デスクの下にあるファイルを指さす。
小川さんは、一つ一つ確認しながらうなづくが、やはり不安なのだろう。
いくつか前のヤツを、再び聞いてくるので、また説明する。
だが、わからないままにされるよりは良い。
通常業務と並行でやっているので、二人で一つ進んで、一つ戻ってを繰り返しながらも、どうにか終了できた。
「――杉崎さん、一応、全部終わりました」
「お疲れ様」
あたしがうなづくと、小川さんは、少しだけホッとしたように、うなづき返した。
「おう、終わったかい」
「ハイ」
事務所を出たところで、工場長に声をかけられ、あたしと小川さんは、同時にうなづく。
工場長は事務所の鍵をかけて、あたし達を見やった。
「どうだい、小川さん、何とかなりそうかい」
「――ハ、ハイ……」
「明日は最後なので、小川さんに一人でやってもらいます」
そう、あたしが言うと、彼女はビクリと肩を跳ね上げた。
そして、不安そうに振り返り、眉を下げる。
「――……一人で、ですか」
「ええ。もう、明日は、あたしが後ろで見ている形にしますので」
あたしが、柴田さんにしてもらったように、彼女に引き継ごうと思ったのだ。
何にせよ、明後日からは、一人で賄わなければならないのだから。
「――大丈夫です。一回やってみれば、大体わかりますから」
「……ハ、ハイ……。じゃあ……頑張ってみます」
緊張感を隠せないまま、小川さんがうなづき、あたしはそれにうなづいて返した。
――きっと、大丈夫。
何となく、そう思う。
落ち着いていれば、きちんとできる人だと思うから。
「でも、皆さんにフォローお願いできるよう、工場長からも伝えてください」
「おう。せっかく来てくれたんだ、協力は惜しまないぞ」
「ありがとうございます」
あたしは、二カッと笑う工場長に、口元を上げて返した。
アパートの部屋の鍵を開け、大きく息を吐く。
――明日で、この生活も終わり。
明後日には、本社で出向の準備、半日で上がって、そのまま大阪行きになる。
住吉さんから、朝一番で、そうメールが来ていた。
新幹線の乗り継ぎ有で、約五時間ほどだという。
夜には、向こうに着く予定だ。
それから、迎えに来てもらって、会社が借り上げたマンションまで向かう。
考えただけでも、ハードスケジュールだが、仕方ない。
それに――そのくらい忙しいくらいが、今はありがたい。
――……野口くんの事を、考えないで済むから……。
無意識にバッグからスマホを出して、着信を確認してしまうくらいには、あたしは、彼のいる生活に慣れてしまったようだ。
そう感じ――胸が痛い。
すると、スマホが一瞬震えたので、反射的に画面に目を落とす。
――明後日、ホームまで迎えに行く。
早川からのメッセージだった。
それに、了解、とだけ返し、あたしは電源を落とす。
――……今は、誰とも話したくない――……。
野口くんを、あれだけ傷つけておいて、自分も傷ついたように感じるなんて、図々しい。
――……そんな自分を、今は、許せなかった。