Runaway Love
工場勤務最終日、小川さんは、朝からバタバタと事務所内を走り回りながらも、どうにか一日一人で終える事ができた。
一つ一つ、あたしに確認するように、視線を向けるので、それにうなづいて返すと、安心したように次の作業に移る。
それが、自信につながってくれれば――きっと、もっと、やれる人だと思う。
定時を三十分過ぎ、ようやく、終了。
「――お疲れ様でした。基本的な事は、できてると思うので、後は経験だけですね」
あたしが、そう声をかけると、小川さんは眉を下げた。
「……でも、まだまだ心配です……」
「最初は、そうですよ。――だから、わからないところは、聞いても構わないんです」
「……ハイ。……メールで聞いても、良いですか」
「もちろん。……と、言いたいんですが、あたしも向こうでバタバタだと思うんで、急ぎなら、電話ください。大阪支店の電話番号、そこのリストに入ってると思うので」
そう返せば、小川さんは表情を明るくしてうなづいた。
「ありがとうございます」
彼女にうなづき返すと、あたしは、事務所でパソコンとにらみ合っている工場長に声をかけた。
「――工場長、短い間でしたが、お世話になりました」
すると、工場長は顔を上げて、立ち上がる。
「おう!こっちこそ、助かった!向こうでも、元気でな!」
「――ハイ」
あたしは、深々と頭を下げる。
本当は、みんなに声をかけたいが、もう、帰っている人もいるし、時間帯が違う人もいる。
辞める訳じゃないから、きっと、また、会えるとは思うけれど、挨拶はしておきたかったので、残念ではある。
事務所を後にし、あたしは小川さんとロッカールームに向かう。
「ああ、やっと来たね!」
すると、途中、永山さんに捕まり、食堂まで連れて行かれる。
小川さんも、おどおどしながらも、それに続いた。
そして、永山さんが食堂の扉を勢いよく開けると、
「あー!やっと来たー!!」
藤沢さん達、いつもの若い社員や、パートのおばさま社員達が、部屋いっぱいに集まっていた。
「あ、あの……永山さん?」
あたしが、恐る恐る彼女を見上げると、ニッコリと返された。
「みんな、世話になったしね。新しい人の歓迎も兼ねて、少しだけ、お茶していきな」
「――え」
「引っ越し作業とか残ってるのはわかるんだけど、アタシ等も、ハイ、さようなら、ってのは、嫌だからさぁ!」
その言葉に目を丸くする。
見回せば、ニコニコと手を振る藤沢さんや、いつものメンバー、声をかけてくれる皆さんが、あたしを見ていた。
それは――純粋な厚意。
「ホラ、バスの時間もあるから、サクッとやってしまおうね!」
「永山さんー!言い方失礼ー!」
「うるさいね!もう、杉崎さんだって、慣れたもんでしょうが」
そう言って、永山さんは、あたしに笑いかける。
あたしは、涙目になりそうなところを必死で我慢しながら、笑って返した。
「ホラホラ、新人さん――小川さんだったね、座って座って!」
「あ、ハ、ハイ」
テーブルの中央に連れて行かれると、お茶のペットボトルが渡される。
「簡単で、ごめんなさいねぇ!」
そう、おばさま社員達が笑い、あたしも小川さんも笑って返す。
「じゃあ、杉崎さん、ありがとう、と、小川さん、いらっしゃい、ってコトで!」
永山さんの音頭で、全員が乾杯するように、ペットボトルを持ち上げる。
「杉崎さんー!向こう行ったら、写真、送ってくださいねー!アタシ、大阪って行ったコト無いから!」
隣に座った藤沢さんは、そう言ってあたしにスマホを向けた。
「ええ、まあ、上手く撮れたらで良いかしら」
それには、苦笑いで返す。
マトモに撮った事など無いのだ。
「ハーイ!こっちも、送りますね!」
「ありがとう」
それから、皆さんと言葉を交わし、きっかり三十分で終了。
名残惜しいが、それぞれの生活があるのだ。
全員で門を出て、あたしはバス停に向かう。
もう少しで、ちょうど良い時間だ。
手を振りながら、歩き出し――こぼれそうな涙は、その手で、無理矢理こすって止めた。
一つ一つ、あたしに確認するように、視線を向けるので、それにうなづいて返すと、安心したように次の作業に移る。
それが、自信につながってくれれば――きっと、もっと、やれる人だと思う。
定時を三十分過ぎ、ようやく、終了。
「――お疲れ様でした。基本的な事は、できてると思うので、後は経験だけですね」
あたしが、そう声をかけると、小川さんは眉を下げた。
「……でも、まだまだ心配です……」
「最初は、そうですよ。――だから、わからないところは、聞いても構わないんです」
「……ハイ。……メールで聞いても、良いですか」
「もちろん。……と、言いたいんですが、あたしも向こうでバタバタだと思うんで、急ぎなら、電話ください。大阪支店の電話番号、そこのリストに入ってると思うので」
そう返せば、小川さんは表情を明るくしてうなづいた。
「ありがとうございます」
彼女にうなづき返すと、あたしは、事務所でパソコンとにらみ合っている工場長に声をかけた。
「――工場長、短い間でしたが、お世話になりました」
すると、工場長は顔を上げて、立ち上がる。
「おう!こっちこそ、助かった!向こうでも、元気でな!」
「――ハイ」
あたしは、深々と頭を下げる。
本当は、みんなに声をかけたいが、もう、帰っている人もいるし、時間帯が違う人もいる。
辞める訳じゃないから、きっと、また、会えるとは思うけれど、挨拶はしておきたかったので、残念ではある。
事務所を後にし、あたしは小川さんとロッカールームに向かう。
「ああ、やっと来たね!」
すると、途中、永山さんに捕まり、食堂まで連れて行かれる。
小川さんも、おどおどしながらも、それに続いた。
そして、永山さんが食堂の扉を勢いよく開けると、
「あー!やっと来たー!!」
藤沢さん達、いつもの若い社員や、パートのおばさま社員達が、部屋いっぱいに集まっていた。
「あ、あの……永山さん?」
あたしが、恐る恐る彼女を見上げると、ニッコリと返された。
「みんな、世話になったしね。新しい人の歓迎も兼ねて、少しだけ、お茶していきな」
「――え」
「引っ越し作業とか残ってるのはわかるんだけど、アタシ等も、ハイ、さようなら、ってのは、嫌だからさぁ!」
その言葉に目を丸くする。
見回せば、ニコニコと手を振る藤沢さんや、いつものメンバー、声をかけてくれる皆さんが、あたしを見ていた。
それは――純粋な厚意。
「ホラ、バスの時間もあるから、サクッとやってしまおうね!」
「永山さんー!言い方失礼ー!」
「うるさいね!もう、杉崎さんだって、慣れたもんでしょうが」
そう言って、永山さんは、あたしに笑いかける。
あたしは、涙目になりそうなところを必死で我慢しながら、笑って返した。
「ホラホラ、新人さん――小川さんだったね、座って座って!」
「あ、ハ、ハイ」
テーブルの中央に連れて行かれると、お茶のペットボトルが渡される。
「簡単で、ごめんなさいねぇ!」
そう、おばさま社員達が笑い、あたしも小川さんも笑って返す。
「じゃあ、杉崎さん、ありがとう、と、小川さん、いらっしゃい、ってコトで!」
永山さんの音頭で、全員が乾杯するように、ペットボトルを持ち上げる。
「杉崎さんー!向こう行ったら、写真、送ってくださいねー!アタシ、大阪って行ったコト無いから!」
隣に座った藤沢さんは、そう言ってあたしにスマホを向けた。
「ええ、まあ、上手く撮れたらで良いかしら」
それには、苦笑いで返す。
マトモに撮った事など無いのだ。
「ハーイ!こっちも、送りますね!」
「ありがとう」
それから、皆さんと言葉を交わし、きっかり三十分で終了。
名残惜しいが、それぞれの生活があるのだ。
全員で門を出て、あたしはバス停に向かう。
もう少しで、ちょうど良い時間だ。
手を振りながら、歩き出し――こぼれそうな涙は、その手で、無理矢理こすって止めた。