Runaway Love
昼食で必要以上に疲れ果てたせいか、午後から、何だか身体が重かった。
――まったく、人を何だと思ってんのかしら。
怒りは、いまだに収まらない。
でも、ため息をつきながらも、手は止める事はない。
今日の分のチェックを終え、書類をそろえると、不意に目の前が歪んでいく。
――え?
「すっ……杉崎主任!」
隣でパソコンをにらんでいた外山さんの、高い声が頭に響く。
――そんなに大声で叫ばないでよ。
「杉崎くん⁉」
部長の声も、慌てたように聞こえる。
――けれど、目が開かない。
――……ダメだ。何で?
体勢を戻そうとするけれど、力が入らない。
――やだ、何、コレ。
そう思ったところで、意識はブツリと途切れた。
『――君の妹、可愛いよね。紹介してくれない?』
掛け持ちしていたバイトのスーパーに、奈津美はよく来ていて。
それを見つけた、同じバイトの大学生や社員に、そう言われた。
それは、もう、何回も。
――そして、それはいつもの事。
断れば、ないがしろにされる。
それも、いつもの事。
けれど、奈津美は、そう言い寄って来る男全員と、あっさりと仲良くなって。
――照行くんという彼氏がいても、関係なかった。
それも、あたしの気に障った。
『君も、もう少し、妹さんみたいに愛想よくしたら?』
――余計なお世話だ。
あたしは、誰のためにも生きていない。
――あたしは、あたしでいたいだけなんだから。
――”奈津美の姉”じゃない、”杉崎茉奈”でいたいだけなんだから。
ぼうっとした頭をどうにか覚醒させ、目を開ける。
見覚えのない天井に、一瞬ギクリとしてしまうけれど、起き上がれば白いベッドの上だった。
どうやら、会社の医務室のようだ。
「ああ、起きたかい?」
「――あ、はい」
カーテンを開けて入って来たのは、医務室の主。
常勤の勤務医、中山先生だ。
縦横に大きな体を揺すりながら、あたしをのぞき込む。
「ちょっと、熱が高かったから休んでもらったけど――動けるなら、タクシー呼ぶかい?」
「え」
――熱?
キョトンとしたあたしを見ると、先生は苦笑いした。
「自覚が無かったのかな?三十九度以上はあったよ。逆に、よく動けてたね」
「……すみません」
「まあ、後、一日で良かったね。一応、今日明日分の薬は出しておくから、来週になっても調子が戻らないなら、かかりつけの医者に診てもらうんだね」
「……はい。……ありがとうございました」
あたしは、ゆっくりとベッドから下り立つ。
平衡感覚は、まだ、戻っていないようで、ふらついている自覚はある。
けれど、これ以上は、迷惑になってしまうだろうから、ちゃんと歩かなきゃ。
「大丈夫かい?誰か呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です」
先生が心配そうに言うが、あたしは首をゆるゆると振る。
そして、渡された薬の紙袋を持つと、医務室を後にした。
出てすぐに、ロビー越しに正面玄関が見え、外の景色が視界に入る。
既に夕闇どころか、真っ暗だ。
一体、何時間寝てたんだろう。
最近、こういう事が多すぎる気がする。
あたしは、廊下の壁をつたいながら、ロッカールームに向かった。
――まったく、人を何だと思ってんのかしら。
怒りは、いまだに収まらない。
でも、ため息をつきながらも、手は止める事はない。
今日の分のチェックを終え、書類をそろえると、不意に目の前が歪んでいく。
――え?
「すっ……杉崎主任!」
隣でパソコンをにらんでいた外山さんの、高い声が頭に響く。
――そんなに大声で叫ばないでよ。
「杉崎くん⁉」
部長の声も、慌てたように聞こえる。
――けれど、目が開かない。
――……ダメだ。何で?
体勢を戻そうとするけれど、力が入らない。
――やだ、何、コレ。
そう思ったところで、意識はブツリと途切れた。
『――君の妹、可愛いよね。紹介してくれない?』
掛け持ちしていたバイトのスーパーに、奈津美はよく来ていて。
それを見つけた、同じバイトの大学生や社員に、そう言われた。
それは、もう、何回も。
――そして、それはいつもの事。
断れば、ないがしろにされる。
それも、いつもの事。
けれど、奈津美は、そう言い寄って来る男全員と、あっさりと仲良くなって。
――照行くんという彼氏がいても、関係なかった。
それも、あたしの気に障った。
『君も、もう少し、妹さんみたいに愛想よくしたら?』
――余計なお世話だ。
あたしは、誰のためにも生きていない。
――あたしは、あたしでいたいだけなんだから。
――”奈津美の姉”じゃない、”杉崎茉奈”でいたいだけなんだから。
ぼうっとした頭をどうにか覚醒させ、目を開ける。
見覚えのない天井に、一瞬ギクリとしてしまうけれど、起き上がれば白いベッドの上だった。
どうやら、会社の医務室のようだ。
「ああ、起きたかい?」
「――あ、はい」
カーテンを開けて入って来たのは、医務室の主。
常勤の勤務医、中山先生だ。
縦横に大きな体を揺すりながら、あたしをのぞき込む。
「ちょっと、熱が高かったから休んでもらったけど――動けるなら、タクシー呼ぶかい?」
「え」
――熱?
キョトンとしたあたしを見ると、先生は苦笑いした。
「自覚が無かったのかな?三十九度以上はあったよ。逆に、よく動けてたね」
「……すみません」
「まあ、後、一日で良かったね。一応、今日明日分の薬は出しておくから、来週になっても調子が戻らないなら、かかりつけの医者に診てもらうんだね」
「……はい。……ありがとうございました」
あたしは、ゆっくりとベッドから下り立つ。
平衡感覚は、まだ、戻っていないようで、ふらついている自覚はある。
けれど、これ以上は、迷惑になってしまうだろうから、ちゃんと歩かなきゃ。
「大丈夫かい?誰か呼ぼうか?」
「いえ、大丈夫です」
先生が心配そうに言うが、あたしは首をゆるゆると振る。
そして、渡された薬の紙袋を持つと、医務室を後にした。
出てすぐに、ロビー越しに正面玄関が見え、外の景色が視界に入る。
既に夕闇どころか、真っ暗だ。
一体、何時間寝てたんだろう。
最近、こういう事が多すぎる気がする。
あたしは、廊下の壁をつたいながら、ロッカールームに向かった。