Runaway Love
 まともに景色を見る間もなく、うつらうつらとしながら、終着、東京駅。
 来る事自体初めてなのに、乗り換え時間はそう余裕も無い。
 人の波に流され、キョロキョロしながらも、どうにか次の新幹線の改札が見え、ホッとしながらホームに向かう。
 すると、落ち着く間も無く発車時間が迫り、車両のドアはまた、ゆっくりと開く。
 こちらも指定席なので、番号を確認しながら席に着くと、二人掛けの窓側。
 隣に誰か来るかとビクビクしてしまったが、そんな事を思っている間に、発車したので、胸を撫で下ろした。


 どうにかたどり着いた新大阪駅に降り立つと、ホームをキョロキョロと見回す。
 一応、早川には到着時間は伝えたはずだが――。

「茉奈!」

 そう思った瞬間、早川の声が聞こえ、あたしはそちらを見やる。
 走って来たのか、少々髪やスーツが乱れているが、それすらも、すれ違う女性達の注目の的だ。

「――……久し振り……じゃないわね。お盆に会ったから、そうでもないわ」

 その姿に、苦笑いを浮かべながら、あたしは早川を見上げる。

「――……相変わらずだな……ったく、少しは喜べ」
「何でよ」
「俺は死ぬほどうれしいのに?」
「こんなので死ぬなら、命がいくつあっても足らないわよ」
 すると、早川は変わらない笑顔を向けた。
「それもそうだな」
 そう言って、あたしのスーツケースを軽々と持つ。
「ちょっ……いいわよ」
「どうせ、同じトコ帰るんだから、持たせろ」
「……アンタねぇ……」
 あたしは眉を寄せるが、早川は、関係無いとばかりに歩き出す。
 そして、あたしの左手を取ると、階段を下りる。
「そうだ、メシ、食ったか?」
「――ああ、そう言えば……」
 そう、振り返り尋ねられ、ようやく、自分がお茶以外何も口にしていない事に気がついた。
「うまい店、結構あるぞ?」
 上機嫌で言う早川を見上げ、あたしは首を振った。
「――……ありがと。……でも、今日は疲れたから、いいわ」
「それもそうか。――……悪ぃな、気が回らなくて」
「アンタに気を回されなくても大丈夫よ」
 いつものような、変わらない言い合いに、心のどこかでホッとする。

 ――……野口くんの事を、隙間隙間に思い出してしまうのは、まだ辛いから。

 いくら、お互いに納得して終わらせるとはいえ、まったく平気な訳じゃない。

「茉奈、どうした?」

 すると、早川が心配そうにのぞき込んできたので、あたしは苦笑いを浮かべて首を振った。
「何でもないわよ。――それより、ここから、どこに行けば良いのよ」
「……あ、ああ。そっちの方だ。電車に乗り換え」
 そう言って、早川は、あたしの手を握り直す。
 そして、痛くない程度に、力を込めた。
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