Runaway Love
慣れない駅の中、早川に手を引かれ、次の電車に乗る。
さすがに夜は、そこまで混んでいないらしいが、あたしにしてみれば、結構な人間の数だ。
早川と二人、出入り口のすぐそばに立ち、ドアに寄りかかる。
「大丈夫か」
「――ええ……と、言いたいところだけど、さすがに、移動時間が長すぎだわ」
あたしは、苦笑いしながら、早川を見上げて言った。
「まあ、な。たぶん、お前が一番ハードスケジュールだろ」
「たぶん、じゃ、ないわよ。確実だわ」
ため息をつきながら、ドアの外の景色を眺める。
遠目にも、いろんな看板が見え、馴染みのないそれに、自分がまったく違う土地に来たのだと実感させられた。
大体十分くらい乗っただろうか。
どうにか、電車から降りると、大きく深呼吸。
少々、空気が薄いような気がしたのは、人だらけのせいか。
酸欠になりかけた肺に、どうにか空気を送り込み、あたしは顔を上げて、隣を歩いている早川に尋ねた。
「――……コレ、毎日?」
「いや、大丈夫だ。大阪支店は、マンションから歩いて行ける」
「……良かった……」
本気で安堵したあたしを、早川は苦笑いで見下ろす。
「マンションは、ここから、歩いて五分くらいだ」
「そう」
そして、すれ違う人が少なくなってくる頃、駅を出る。
ようやく、外の空気が吸えた。
「こっちだ」
そう言って、早川はあたしの手を握り直し、足を進める。
そこで、やっと、手をずっとつないだままだという事に気がついた。
「は、早川、手離して」
「良いだろ、誰が見てる訳でもなし」
「そうじゃなくて」
「――嫌か?」
少しだけ不安そうに尋ねるので、あたしは視線を落とした。
「――……い、嫌、じゃない。……けど――」
「茉奈。荷物置いたら、俺の部屋、来い」
「え」
「……話くらい、聞くって言っただろ」
あたしが驚いて見上げると、早川の少しだけ悲しそうな笑顔が、街灯の明かりに映し出された。
そこから、少しの間、無言のまま歩き、会社が借り上げたマンションに着いたのは、本当に五分程。
「えっと、俺が鍵預かってたから」
そう言って、早川はスーツの上着のポケットから、鍵を取り出す。
「――二〇二……。二階の左から二番目――俺の部屋の隣だ」
「……は?」
あたしは、渡された鍵を取り落としそうになる。
「え、ちょっと、本当に?」
「ああ。――勝手に決められてるから、俺のせいじゃねぇぞ」
その言葉に、眉を寄せる。
――社長、いらない気を回してないでしょうね……。
少々げんなりしながらも、あたしは、早川の後に続き、マンションの入り口を入る。
エレベーターと階段があり、管理は不動産会社を通して。
清掃業者は、朝夕で入るようだとの事。
「あっちみたいに、管理人がいる訳でもないんだと」
「――完全に、効率重視ね」
「ああ、まあ、悪いコトばかりじゃねぇんだけど……少し、戸惑うよな」
「……そうね」
ふと、昼間、送り出してくれた大家さんの事を思い浮かべ、あたしは視線を下げた。
どっちが良いという訳ではない。
――けれど、今のあたしには、少しだけさみしく感じた。
さすがに夜は、そこまで混んでいないらしいが、あたしにしてみれば、結構な人間の数だ。
早川と二人、出入り口のすぐそばに立ち、ドアに寄りかかる。
「大丈夫か」
「――ええ……と、言いたいところだけど、さすがに、移動時間が長すぎだわ」
あたしは、苦笑いしながら、早川を見上げて言った。
「まあ、な。たぶん、お前が一番ハードスケジュールだろ」
「たぶん、じゃ、ないわよ。確実だわ」
ため息をつきながら、ドアの外の景色を眺める。
遠目にも、いろんな看板が見え、馴染みのないそれに、自分がまったく違う土地に来たのだと実感させられた。
大体十分くらい乗っただろうか。
どうにか、電車から降りると、大きく深呼吸。
少々、空気が薄いような気がしたのは、人だらけのせいか。
酸欠になりかけた肺に、どうにか空気を送り込み、あたしは顔を上げて、隣を歩いている早川に尋ねた。
「――……コレ、毎日?」
「いや、大丈夫だ。大阪支店は、マンションから歩いて行ける」
「……良かった……」
本気で安堵したあたしを、早川は苦笑いで見下ろす。
「マンションは、ここから、歩いて五分くらいだ」
「そう」
そして、すれ違う人が少なくなってくる頃、駅を出る。
ようやく、外の空気が吸えた。
「こっちだ」
そう言って、早川はあたしの手を握り直し、足を進める。
そこで、やっと、手をずっとつないだままだという事に気がついた。
「は、早川、手離して」
「良いだろ、誰が見てる訳でもなし」
「そうじゃなくて」
「――嫌か?」
少しだけ不安そうに尋ねるので、あたしは視線を落とした。
「――……い、嫌、じゃない。……けど――」
「茉奈。荷物置いたら、俺の部屋、来い」
「え」
「……話くらい、聞くって言っただろ」
あたしが驚いて見上げると、早川の少しだけ悲しそうな笑顔が、街灯の明かりに映し出された。
そこから、少しの間、無言のまま歩き、会社が借り上げたマンションに着いたのは、本当に五分程。
「えっと、俺が鍵預かってたから」
そう言って、早川はスーツの上着のポケットから、鍵を取り出す。
「――二〇二……。二階の左から二番目――俺の部屋の隣だ」
「……は?」
あたしは、渡された鍵を取り落としそうになる。
「え、ちょっと、本当に?」
「ああ。――勝手に決められてるから、俺のせいじゃねぇぞ」
その言葉に、眉を寄せる。
――社長、いらない気を回してないでしょうね……。
少々げんなりしながらも、あたしは、早川の後に続き、マンションの入り口を入る。
エレベーターと階段があり、管理は不動産会社を通して。
清掃業者は、朝夕で入るようだとの事。
「あっちみたいに、管理人がいる訳でもないんだと」
「――完全に、効率重視ね」
「ああ、まあ、悪いコトばかりじゃねぇんだけど……少し、戸惑うよな」
「……そうね」
ふと、昼間、送り出してくれた大家さんの事を思い浮かべ、あたしは視線を下げた。
どっちが良いという訳ではない。
――けれど、今のあたしには、少しだけさみしく感じた。