Runaway Love
「じゃあ、今日はこの辺にしとこうか」
支店長――いや、支社長の言葉に、全員がうなづく。
小さい規模の支店。余裕で一日で終わると思っていたが、何せ、結構な歴史がある。
今までの資料などのファイル、初期からある、年代物の記録や写真。
パソコンや、デスクも一気に移動しなければならなかった。
その間も、営業を休む訳にはいかないと、早川たちは引っ越し作業に加わる事はできず。
右も左もわからないような新人達と、異動してきた、いろんな課の人達で、どうにか荷造りをして、運び出した。
定時を回ったので、全員で簡単に片付けた、八割程物が無くなった部屋を後にすると、支社長が上機嫌で言った。
「どうだ、これから全員で飲み行くんは?」
すると、横にいた副支店長――こちらも、副支社長に昇進した――が、たしなめるように言った。
「急すぎます。昨日の今日で、全員引っ越してきたばかりですよ。まだ、慣れてもいないんですから」
「まあ、そうやなぁ」
少々不本意そうにうなづくと、その場で、あたし達は解放された。
とはいえ、ほとんどが、会社の借り上げたマンションに帰るので、自然、帰り道は一緒になる。
「――どうだ、初日は」
「どうもこうもないわよ。勝手のわからない人間に、大事な資料、片付けさせないでよ」
あたしは、眉を寄せて、隣を歩く早川をにらみ上げた。
営業事務と経理担当の古川主任――最初に、あたしの素性を尋ねた眼鏡の男性――が、指示は出してくれた。
だが、それでも、約二十人、お互いに初対面で緊張している中、意思疎通はなかなか難しいのだ。
あちらこちらで戸惑いの声が上がり、その度に作業は中断する。
そして、そのせいもあり、引っ越しは完全に終わらなかったのだ。
「……まあ、でも、それをきっかけに交流してくれってコトじゃねぇのか」
「――……そう言われても……」
あたしは、チラリと、大人しく後ろから歩いてくる数人の人達を見やる。
同じように、出向という形らしい。
完全に異動になる人は、もう、自分の部屋なり、家なりがあるのだから。
マンションに着くと、それぞれが中に入る。
「――お疲れ様でした」
あたしも、同じようにして入ると、エレベーターホールで待っている人達に挨拶をした。
「あ、お、お疲れ様でした」
緊張したように振り返ったのは、見た事が無い女性社員。
男性社員三人も、同じように頭を下げた。
「ここは、完全に出向組だな」
早川が後ろから来て見回す。
どうやら、見覚えがある顔もいるようだった。
「――早川、お前、後でここら辺案内しろー」
その中の一人が、若干、恨みがましそうに言うと、早川は、笑ってうなづく。
「わかった、わかった。まあ、落ち着いたらな」
「ああ、絶対だぞ。おれは、半年出向なんだから」
「長いな」
「技術職だからなぁ」
その会話に、あたしは違和感を覚える。
――技術職?
すると、早川は、その彼を紹介しながら言った。
「杉崎、こっち、同期の宗村。工場機器全般の管理を受け持ってる」
あたしは、その言葉に眉を寄せた。
「――工場……?」
その反応に、今度は早川が眉を寄せる。
「聞いてないのか?」
「だから、何が」
「あと半年したら、大阪工場できるんだぞ」
「――……は??」
支店長――いや、支社長の言葉に、全員がうなづく。
小さい規模の支店。余裕で一日で終わると思っていたが、何せ、結構な歴史がある。
今までの資料などのファイル、初期からある、年代物の記録や写真。
パソコンや、デスクも一気に移動しなければならなかった。
その間も、営業を休む訳にはいかないと、早川たちは引っ越し作業に加わる事はできず。
右も左もわからないような新人達と、異動してきた、いろんな課の人達で、どうにか荷造りをして、運び出した。
定時を回ったので、全員で簡単に片付けた、八割程物が無くなった部屋を後にすると、支社長が上機嫌で言った。
「どうだ、これから全員で飲み行くんは?」
すると、横にいた副支店長――こちらも、副支社長に昇進した――が、たしなめるように言った。
「急すぎます。昨日の今日で、全員引っ越してきたばかりですよ。まだ、慣れてもいないんですから」
「まあ、そうやなぁ」
少々不本意そうにうなづくと、その場で、あたし達は解放された。
とはいえ、ほとんどが、会社の借り上げたマンションに帰るので、自然、帰り道は一緒になる。
「――どうだ、初日は」
「どうもこうもないわよ。勝手のわからない人間に、大事な資料、片付けさせないでよ」
あたしは、眉を寄せて、隣を歩く早川をにらみ上げた。
営業事務と経理担当の古川主任――最初に、あたしの素性を尋ねた眼鏡の男性――が、指示は出してくれた。
だが、それでも、約二十人、お互いに初対面で緊張している中、意思疎通はなかなか難しいのだ。
あちらこちらで戸惑いの声が上がり、その度に作業は中断する。
そして、そのせいもあり、引っ越しは完全に終わらなかったのだ。
「……まあ、でも、それをきっかけに交流してくれってコトじゃねぇのか」
「――……そう言われても……」
あたしは、チラリと、大人しく後ろから歩いてくる数人の人達を見やる。
同じように、出向という形らしい。
完全に異動になる人は、もう、自分の部屋なり、家なりがあるのだから。
マンションに着くと、それぞれが中に入る。
「――お疲れ様でした」
あたしも、同じようにして入ると、エレベーターホールで待っている人達に挨拶をした。
「あ、お、お疲れ様でした」
緊張したように振り返ったのは、見た事が無い女性社員。
男性社員三人も、同じように頭を下げた。
「ここは、完全に出向組だな」
早川が後ろから来て見回す。
どうやら、見覚えがある顔もいるようだった。
「――早川、お前、後でここら辺案内しろー」
その中の一人が、若干、恨みがましそうに言うと、早川は、笑ってうなづく。
「わかった、わかった。まあ、落ち着いたらな」
「ああ、絶対だぞ。おれは、半年出向なんだから」
「長いな」
「技術職だからなぁ」
その会話に、あたしは違和感を覚える。
――技術職?
すると、早川は、その彼を紹介しながら言った。
「杉崎、こっち、同期の宗村。工場機器全般の管理を受け持ってる」
あたしは、その言葉に眉を寄せた。
「――工場……?」
その反応に、今度は早川が眉を寄せる。
「聞いてないのか?」
「だから、何が」
「あと半年したら、大阪工場できるんだぞ」
「――……は??」