Runaway Love
動揺しているアタシを後目に、早川はその同期と盛り上がり、エレベーターに乗り込んで行った。
あたしは、ロビーを見回す。
そんなに広くも無い中、申し訳程度に、自販機が二台設置されていた。
非常口のランプは、反対側の奥の通路に向かう頭上にある。
階段はエレベーターのすぐ隣にあったので、あたしは、そちらで上がる。
つい一昨日まで、五階までの階段を上っていたのだから、まだマシだ。
二階に着くと、あたしはそのまま部屋に入ろうとする。
「おい、茉奈!」
「――早川」
外で、名前で呼ぶな。
そう怒鳴ろうと思ったが、どうにか思いとどまった。
玄関のドアを開けかけたあたしは、仕方なしに再び閉める。
「……何」
「階段かよ、お前」
「悪い?」
「てっきり、一緒に来ると思ってたのに」
「関係無いでしょうが」
そう言い切ると、再びドアを開け、中に入ろうとするが、早川が一瞬早く、ドアを押さえた。
「早川」
「――メシ、行こうぜ」
「……悪いけど、まだ部屋は片付いてないから」
「じゃあ、手伝う」
「いらない」
あたしは、頑なに拒否する。
――まだ、完全に切り替えられた訳ではない。
仕事中は、まだ何とかなる。
――……でも、今は、まだ。
そんな想いを感じ取ったのか、早川は、あたしの頭を軽く叩いた。
「……何よ」
「――いや……まあ、ゆっくり休めよ」
「……あ、ありがと……」
苦笑いで返し、早川は先に部屋に入って行った。
あたしは、それを見送り、部屋に入る。
何故だか――また、涙が浮かんできた。
けれど、今は、止めずに流れるままにしたかった。
翌日、同じように早川と支店へ向かうと、反対側の道から、真新しいスーツ姿の新人のコがやって来て、お互いに気づくと頭を軽く下げ合った。
「おはようございます、早川主任、杉崎主任」
「おう」
「おはよう――ええっと、ごめんなさい、名前……」
さすがに、昨日の今日で、全員は覚えられない。
すると、わかったように、彼はうなづいた。
「沢です、今年入社しました!よろしくお願いします!」
そう言って、頭を下げる。
何だか、体育会系な雰囲気を感じるのは、気のせいではないだろう。
見た目、まだ、学生でも通用するが、体つきは何だか違うように見える。
「おれも、ご一緒して良いですか?」
「ああ、どうせ、同じトコ行くんだしな」
「ええ」
あたし達が、そううなづくと、彼はニッコリと笑い頭を下げた。
「ありがとうございます!お二人は、ご夫婦でご一緒に通勤ですか!」
「「――……はっ……???」」
彼の言葉に、早川と二人、耳まで真っ赤になって、硬直したのだった。
あたしは、ロビーを見回す。
そんなに広くも無い中、申し訳程度に、自販機が二台設置されていた。
非常口のランプは、反対側の奥の通路に向かう頭上にある。
階段はエレベーターのすぐ隣にあったので、あたしは、そちらで上がる。
つい一昨日まで、五階までの階段を上っていたのだから、まだマシだ。
二階に着くと、あたしはそのまま部屋に入ろうとする。
「おい、茉奈!」
「――早川」
外で、名前で呼ぶな。
そう怒鳴ろうと思ったが、どうにか思いとどまった。
玄関のドアを開けかけたあたしは、仕方なしに再び閉める。
「……何」
「階段かよ、お前」
「悪い?」
「てっきり、一緒に来ると思ってたのに」
「関係無いでしょうが」
そう言い切ると、再びドアを開け、中に入ろうとするが、早川が一瞬早く、ドアを押さえた。
「早川」
「――メシ、行こうぜ」
「……悪いけど、まだ部屋は片付いてないから」
「じゃあ、手伝う」
「いらない」
あたしは、頑なに拒否する。
――まだ、完全に切り替えられた訳ではない。
仕事中は、まだ何とかなる。
――……でも、今は、まだ。
そんな想いを感じ取ったのか、早川は、あたしの頭を軽く叩いた。
「……何よ」
「――いや……まあ、ゆっくり休めよ」
「……あ、ありがと……」
苦笑いで返し、早川は先に部屋に入って行った。
あたしは、それを見送り、部屋に入る。
何故だか――また、涙が浮かんできた。
けれど、今は、止めずに流れるままにしたかった。
翌日、同じように早川と支店へ向かうと、反対側の道から、真新しいスーツ姿の新人のコがやって来て、お互いに気づくと頭を軽く下げ合った。
「おはようございます、早川主任、杉崎主任」
「おう」
「おはよう――ええっと、ごめんなさい、名前……」
さすがに、昨日の今日で、全員は覚えられない。
すると、わかったように、彼はうなづいた。
「沢です、今年入社しました!よろしくお願いします!」
そう言って、頭を下げる。
何だか、体育会系な雰囲気を感じるのは、気のせいではないだろう。
見た目、まだ、学生でも通用するが、体つきは何だか違うように見える。
「おれも、ご一緒して良いですか?」
「ああ、どうせ、同じトコ行くんだしな」
「ええ」
あたし達が、そううなづくと、彼はニッコリと笑い頭を下げた。
「ありがとうございます!お二人は、ご夫婦でご一緒に通勤ですか!」
「「――……はっ……???」」
彼の言葉に、早川と二人、耳まで真っ赤になって、硬直したのだった。