Runaway Love
 結局、宣言通りに、あたしは営業部の片付けも手伝う事になった。
 まあ、経理部の方はほとんど三人でやっていたから、ちょうど良かったかもしれない。

「よぉーし、様になったなぁ!」

 部屋を見渡し、上機嫌の支社長は、にこやかに言った。
「明日から、全員、張り切ってやろうなぁ!」
「――ハイ!」
 そう言って、今日は終業となる。
 少々早い気もするが、明日からの忙しさを考えれば、ちょうど良いのかもしれない。
 早速、営業の方は、新人教育が始まるし、来週には大阪から出て、兵庫や京都、近辺の会社に営業をかけるらしい。

「あ、あの、杉崎主任」

 それぞれが帰路につくところ、あたしは、呼び止められ振り返った。
 声の主は、経理担当になった、若い女性社員二人だ。
「――お疲れ様」
 そう声をかけると、二人とも、緊張したように固まる。
 ……マズい。あたしも、威圧感があるのかしら。
 あわてて、フォローしようとするが、何を言ったらいいのかわからない。
 だが、二人はそのまま頭を下げる。
「え」
「あ、ありがとうございました!」
「――え?」
 二人、視線を合わせると、背の高いショートカットの女性が言った。
「さっき……言い返してくれて……うれしかったです」
「え」
「あの……古川主任、すごくプレッシャー、キツくて……ミスしたら、すぐにクビにされそうな気がして怖かったんですけど、杉崎主任が言ってくれた言葉で、安心できました」
 もう片方の、少々ぽっちゃりした背の低い女性は、そう言って、また頭を下げた。
「あ、ああ、別に……特別な事を言った訳じゃないし。……まあ、あたしもちょっとイラッとしちゃったから。……明日、気まずかったらごめんなさい」
 すると、二人は、クスリ、と、笑い、首を振る。
「大丈夫です。――がんばりますから」
「そう。……なら、良かった」
 あたしも、つられて微笑む。
 ひとまず、すぐに辞めると言われなくて良かった。
 二人は、完全にこちらに異動組なので、あたしのいるマンスリーではなく、地元に部屋を借りているようだ。挨拶をすると、そのまま電車で帰って行った。
「――どうやら、後輩には懐かれたようだな」
 駅の方へ向かう二人を見送っていると、後ろから早川が、そう声をかけてきた。
「……うるさい、早川」
「――帰るか。……それとも、デートするか?」
「……うるさいってば」
 早川は、あたしの反応を楽しそうに見やる。
「何よ、ニヤニヤして」
「――いや、何か……こういうのも久し振りだな」
 その言葉に、あたしは視線を下げた。
「――茉奈?」
「外で名前で呼ぶな、バカ」
「もうプライベートだ」
「関係無い」
 開き直る早川は、あたしの手を握る。
 だが、すぐに離した。

「――早川?」

 視線の先を見やれば――こちらを見ている、古川主任がいた。
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