Runaway Love
「――お疲れ様です」
「お、お疲れ様です、古川主任。家、こっちでした?」
少々噛みそうになるが、何とかこらえて早川は挨拶をする。
姿が見えなかったから、てっきり、すぐに帰ったと思ったのに。
「いえ、野暮用です。――そちらは、これからデートですか」
「え、あ、いや」
責めるような口調に、早川はたじろぐ。
代わりに、あたしが、古川主任を見上げて言った。
「違います。――仮にそうだとして、古川主任には、関係ありません。完全にプライベートです」
「――それもそうですが。仕事に影響されたら、たまったものではないんですが。いかがでしょう、早川主任?」
彼は、そう、あたしをあしらい、早川へと視線を向ける。
まるで、早川が影響されているような言い方に、あたしは、カチンときて言い返した。
「余計なお世話です。でも、仮に影響が出るのなら――早川はマイナスではなく、プラスにする男ですから」
それだけ言うと、あたしは足を進める。
「お、おい、茉奈!」
追いかけてくる早川が、名前を呼ぶのを、今はとがめる心境では無かった。
無言のまま、足早にマンションまでたどり着くと、すぐに中に入り、階段を駆け上がる。
「おい、コラ、待てって!」
早川も一緒に階段を上る。
二階には、すぐにたどり着き、あたしは部屋の鍵をバッグから出しながら廊下を歩く。
「――お疲れ様」
「茉奈」
鍵を開けて自分の部屋のドアを開ける。
だが、閉める事はかなわなかった。
ドアを押さえ、早川はあたしをのぞき込む。
「――真っ赤」
「……うっ……うるさいっ!」
うれしそうな声音なのは、気のせいではない。
早川は、そのままあたしの部屋に入ると、ドアを閉める。
「ちょっと!」
「――うるせぇ。少し、黙ってろ」
そう言うと、早川は、そのまま口づけてきた。
覆い被さるように抱き寄せられ、何度もキスを落とされる。
「は……早川っ……!」
どうにか、身体を離そうとするが、力ではかなわないのは明白だ。
「――……ねえっ……!……た、崇也っ……!」
絞り出すように名前を呼ぶ。
コイツには、きっと、コレの方が効くだろう。
予想通り、早川は一瞬固まり、あたしはそれを逃さない。
腕を身体の間に入れ、顔を上げる。
たぶん、あたし以上に真っ赤になった早川は、眉を寄せてあたしを見下ろした。
「……ズルいぞ、茉奈」
「……アンタ、人の話、聞いてたワケ⁉」
ちゃんと考えるって言ったのに、こんな風にされたら、考えられないではないか。
そうボヤくように言うと、早川はあたしを抱きしめて、ポツリと言った。
「――……バカ。……惚れた女に、あんな風に言われたら、我慢できるかよ」
「……え」
「――……スゲェ嬉しかった……」
「……い、勢いよっ……」
あたしも、つられるように赤くなる。
――あんな風に言うつもりは無かったけど……思っていない訳ではない。
少なくとも、本心ではある。
コイツの仕事に対する姿勢は、初めて会った時から好ましいものではあるのだから。
でも、本人を前にして、言う事でも無かった。
正直、かなり、恥ずかしい。
早川は、あたしを抱く腕の力を強めた。
「――……そういうトコ、スゲェ、好きだ」
「……バカッ!」
こんなストレートに言われると、反応に困る。
そのスキに、早川は、再びあたしに口づけてきた。
先ほどよりも――まるで、食べられてしまうかと思うくらい――激しく。
早川は、気が遠くなるまで、あたしの唇を自分のそれで堪能し続けていた。
今まで手加減されていたのだと思い知らされ、胸がモヤモヤ、ムカムカとする。
腹立たしいので、早川の胸を拳で叩くが、すぐに両手は捕らえられ、指を絡められる。
その指はそおっと、あたしの手の甲を伝い、思わずビクリと肩を上げてしまう。
――そこは……野口くんが教えたところ。
そう気づくと、身体中が反応してしまう。
――このままじゃ、キスだけで終わらない。
でも、もう、動けない。
――気持ち良いって、知ってしまっているから。
だが、早川は、そっと指を離し、唇を離した。
「――……は、やか……わ……」
「――悪い。……ちょっと、マズくなりそうだし、やめるわ」
「……え」
耳まで赤くなった早川は、視線をそらし、あたしを離す。
けれど、その瞬間、あたしはその場にへたり込んでしまった。
「お、おい、茉奈?」
「……バカ。……た、立てない……」
――足に力が入らない。
「――へ?」
「……こ、腰、抜けた……みたい……」
すると、早川は目を丸くし、そして、ニヤリと笑う。
「何だ、感じたのか?」
からかうような言葉に、あたしは、真っ赤になって拳を振り上げた。
「――バカっ!!出ていきなさいよ!!」
「悪かったって。ホラ」
「――きゃあっ……⁉」
身体が宙に浮く感覚。
慣れないそれに、あたしは一瞬で青くなった。
「お、お疲れ様です、古川主任。家、こっちでした?」
少々噛みそうになるが、何とかこらえて早川は挨拶をする。
姿が見えなかったから、てっきり、すぐに帰ったと思ったのに。
「いえ、野暮用です。――そちらは、これからデートですか」
「え、あ、いや」
責めるような口調に、早川はたじろぐ。
代わりに、あたしが、古川主任を見上げて言った。
「違います。――仮にそうだとして、古川主任には、関係ありません。完全にプライベートです」
「――それもそうですが。仕事に影響されたら、たまったものではないんですが。いかがでしょう、早川主任?」
彼は、そう、あたしをあしらい、早川へと視線を向ける。
まるで、早川が影響されているような言い方に、あたしは、カチンときて言い返した。
「余計なお世話です。でも、仮に影響が出るのなら――早川はマイナスではなく、プラスにする男ですから」
それだけ言うと、あたしは足を進める。
「お、おい、茉奈!」
追いかけてくる早川が、名前を呼ぶのを、今はとがめる心境では無かった。
無言のまま、足早にマンションまでたどり着くと、すぐに中に入り、階段を駆け上がる。
「おい、コラ、待てって!」
早川も一緒に階段を上る。
二階には、すぐにたどり着き、あたしは部屋の鍵をバッグから出しながら廊下を歩く。
「――お疲れ様」
「茉奈」
鍵を開けて自分の部屋のドアを開ける。
だが、閉める事はかなわなかった。
ドアを押さえ、早川はあたしをのぞき込む。
「――真っ赤」
「……うっ……うるさいっ!」
うれしそうな声音なのは、気のせいではない。
早川は、そのままあたしの部屋に入ると、ドアを閉める。
「ちょっと!」
「――うるせぇ。少し、黙ってろ」
そう言うと、早川は、そのまま口づけてきた。
覆い被さるように抱き寄せられ、何度もキスを落とされる。
「は……早川っ……!」
どうにか、身体を離そうとするが、力ではかなわないのは明白だ。
「――……ねえっ……!……た、崇也っ……!」
絞り出すように名前を呼ぶ。
コイツには、きっと、コレの方が効くだろう。
予想通り、早川は一瞬固まり、あたしはそれを逃さない。
腕を身体の間に入れ、顔を上げる。
たぶん、あたし以上に真っ赤になった早川は、眉を寄せてあたしを見下ろした。
「……ズルいぞ、茉奈」
「……アンタ、人の話、聞いてたワケ⁉」
ちゃんと考えるって言ったのに、こんな風にされたら、考えられないではないか。
そうボヤくように言うと、早川はあたしを抱きしめて、ポツリと言った。
「――……バカ。……惚れた女に、あんな風に言われたら、我慢できるかよ」
「……え」
「――……スゲェ嬉しかった……」
「……い、勢いよっ……」
あたしも、つられるように赤くなる。
――あんな風に言うつもりは無かったけど……思っていない訳ではない。
少なくとも、本心ではある。
コイツの仕事に対する姿勢は、初めて会った時から好ましいものではあるのだから。
でも、本人を前にして、言う事でも無かった。
正直、かなり、恥ずかしい。
早川は、あたしを抱く腕の力を強めた。
「――……そういうトコ、スゲェ、好きだ」
「……バカッ!」
こんなストレートに言われると、反応に困る。
そのスキに、早川は、再びあたしに口づけてきた。
先ほどよりも――まるで、食べられてしまうかと思うくらい――激しく。
早川は、気が遠くなるまで、あたしの唇を自分のそれで堪能し続けていた。
今まで手加減されていたのだと思い知らされ、胸がモヤモヤ、ムカムカとする。
腹立たしいので、早川の胸を拳で叩くが、すぐに両手は捕らえられ、指を絡められる。
その指はそおっと、あたしの手の甲を伝い、思わずビクリと肩を上げてしまう。
――そこは……野口くんが教えたところ。
そう気づくと、身体中が反応してしまう。
――このままじゃ、キスだけで終わらない。
でも、もう、動けない。
――気持ち良いって、知ってしまっているから。
だが、早川は、そっと指を離し、唇を離した。
「――……は、やか……わ……」
「――悪い。……ちょっと、マズくなりそうだし、やめるわ」
「……え」
耳まで赤くなった早川は、視線をそらし、あたしを離す。
けれど、その瞬間、あたしはその場にへたり込んでしまった。
「お、おい、茉奈?」
「……バカ。……た、立てない……」
――足に力が入らない。
「――へ?」
「……こ、腰、抜けた……みたい……」
すると、早川は目を丸くし、そして、ニヤリと笑う。
「何だ、感じたのか?」
からかうような言葉に、あたしは、真っ赤になって拳を振り上げた。
「――バカっ!!出ていきなさいよ!!」
「悪かったって。ホラ」
「――きゃあっ……⁉」
身体が宙に浮く感覚。
慣れないそれに、あたしは一瞬で青くなった。