Runaway Love
しんとした部屋の中、隣の部屋のドアが開く音が聞こえ、唇を噛む。
――……あたしは……また、傷つけたんだろうか。
けれど、アイツだって、人の気も知らずに――……。
そう思い、かすかに首を振る。
――違う。
――……アイツは、ただ、自分の気持ちに素直なだけだ。
……あたしが、向けられたその気持ちを、受け取れないだけで……。
――……ごめん、って言っても……きっと、本心からじゃなきゃ、アイツはすぐに気づくんだろう。
そのくらいは、アイツの事をわかっているつもりだ。
そんな気分のまま、地図を片手に地下鉄に乗り、インテリア用品店でカーテンを、どうにか選ぶ。
一か月だけではあるが、何も無いのはさすがに困るし。
そして、そのまま周辺をウィンドウショッピングする。
地元では、まったく馴染みの無い店や、ビルの大群に圧倒されつつ、街行く人達の波にのまれる。
だが、数時間もしないうちに人酔いしたようで、あたしは、すぐに帰る事にした。
――やっぱり、あたしには、ちょっと慣れないな。
きっと、観光とかで友人や恋人と来るのは楽しいんだろう。
けれど――今は、そんな気分ではない。
テンション高く盛り上がっている若い女性達の脇を通りすぎ、あたしは、そのまま駅に向かう。
カーテンを抱え、休日で、きっといつも以上に混んでいる電車に、追いやられるように乗り込んだ。
――大丈夫。
一人でも、ちゃんと帰れる。
そう、子供の様な事を思いながら、ドアの近くで、身を潜めるように立つ。
空気が薄い気がして、唇を噛みながら、小さく深呼吸。
そんな事を繰り返して、乗り込んだ駅にたどり着いた。
――……ホラ、あたしだって、ちゃんと一人でもできるんだから。
そんなやりきった感に浸ってすぐに、自分にあきれた。
――完全に子供だわ。
……もうすぐ三十路の女が、何、ドヤってんのよ。
奈津美の事、言えないような気がしてきた。
――案外、あたしは、自分が思っているよりも、子供なのかもしれない。
マンションに到着し、階段を上がる。
部屋の前でバッグから鍵を出していると、ドアが開く音がして、顔を上げた。
「――おかえり」
「――……早川」
隣の部屋から、早川が出てきて、あたしは固まってしまう。
「――一人で行って来られたんだな」
からかうような言い方に、思わず眉を寄せる。
「うるさい」
「――大丈夫だったか」
「大丈夫だから、帰って来たんでしょうが」
そう口にしてから、心の中で苦ってしまう。
何、平然と会話してんのよ。
あたしは、視線をそらし、手元の鍵を見やる。
「茉奈?」
「……あ、あの、さ……」
「ん?」
「――……朝は、その……ごめんなさい……」
言いながら、早川の反応が怖くなり、あたしは、逃げるように鍵を開けて部屋に入ろうとした。
だが、閉めたはずのドアは、途中で止まっている。
振り返れば、早川が手で押さえていた。
「な、何よ」
「――だからっ……お前は……」
そう言って、すぐにドアを閉め、あたしを抱き寄せる。
「ちょっと」
「――ダメだ。詫び代わりに抱きしめさせろ」
「何それ、横暴!」
「――黙ってろって」
言うが遅い、早川の唇が触れてきて、あたしは一瞬固まる。
――待ってるって言ったクセに。
軽く数回触れると、更にきつく抱き締められた。
「は、早川」
「――俺の方こそ、悪かった」
「え」
耳元で囁かれ、思わずビクリと身体は跳ね上がる。
けれど、届いた言葉に、意識は向かった。
「何がよ」
アンタに謝られる必要なんて、無いでしょう。
――傷つけたのは、あたしなんだから。
そう続けようとしたが、すぐに唇はふさがれる。
そして、そっと離されると、今度は頬を優しく撫でられ、思わず目を閉じる。
「――……責めるつもりなんて、無かった」
「……別に……あたしのせいなんでしょ」
目をうっすらと開ければ、困ったような早川の顔が視界に入る。
「――ただの、嫉妬だ。お前のせいな訳があるか」
「――え」
――嫉妬……?
早川には似合わない言葉に、あたしは目を丸くして、まじまじと見つめてしまった。
「……あんまり見るな、バカ」
すると、早川は、バツが悪そうに微笑んで返した。
――……あたしは……また、傷つけたんだろうか。
けれど、アイツだって、人の気も知らずに――……。
そう思い、かすかに首を振る。
――違う。
――……アイツは、ただ、自分の気持ちに素直なだけだ。
……あたしが、向けられたその気持ちを、受け取れないだけで……。
――……ごめん、って言っても……きっと、本心からじゃなきゃ、アイツはすぐに気づくんだろう。
そのくらいは、アイツの事をわかっているつもりだ。
そんな気分のまま、地図を片手に地下鉄に乗り、インテリア用品店でカーテンを、どうにか選ぶ。
一か月だけではあるが、何も無いのはさすがに困るし。
そして、そのまま周辺をウィンドウショッピングする。
地元では、まったく馴染みの無い店や、ビルの大群に圧倒されつつ、街行く人達の波にのまれる。
だが、数時間もしないうちに人酔いしたようで、あたしは、すぐに帰る事にした。
――やっぱり、あたしには、ちょっと慣れないな。
きっと、観光とかで友人や恋人と来るのは楽しいんだろう。
けれど――今は、そんな気分ではない。
テンション高く盛り上がっている若い女性達の脇を通りすぎ、あたしは、そのまま駅に向かう。
カーテンを抱え、休日で、きっといつも以上に混んでいる電車に、追いやられるように乗り込んだ。
――大丈夫。
一人でも、ちゃんと帰れる。
そう、子供の様な事を思いながら、ドアの近くで、身を潜めるように立つ。
空気が薄い気がして、唇を噛みながら、小さく深呼吸。
そんな事を繰り返して、乗り込んだ駅にたどり着いた。
――……ホラ、あたしだって、ちゃんと一人でもできるんだから。
そんなやりきった感に浸ってすぐに、自分にあきれた。
――完全に子供だわ。
……もうすぐ三十路の女が、何、ドヤってんのよ。
奈津美の事、言えないような気がしてきた。
――案外、あたしは、自分が思っているよりも、子供なのかもしれない。
マンションに到着し、階段を上がる。
部屋の前でバッグから鍵を出していると、ドアが開く音がして、顔を上げた。
「――おかえり」
「――……早川」
隣の部屋から、早川が出てきて、あたしは固まってしまう。
「――一人で行って来られたんだな」
からかうような言い方に、思わず眉を寄せる。
「うるさい」
「――大丈夫だったか」
「大丈夫だから、帰って来たんでしょうが」
そう口にしてから、心の中で苦ってしまう。
何、平然と会話してんのよ。
あたしは、視線をそらし、手元の鍵を見やる。
「茉奈?」
「……あ、あの、さ……」
「ん?」
「――……朝は、その……ごめんなさい……」
言いながら、早川の反応が怖くなり、あたしは、逃げるように鍵を開けて部屋に入ろうとした。
だが、閉めたはずのドアは、途中で止まっている。
振り返れば、早川が手で押さえていた。
「な、何よ」
「――だからっ……お前は……」
そう言って、すぐにドアを閉め、あたしを抱き寄せる。
「ちょっと」
「――ダメだ。詫び代わりに抱きしめさせろ」
「何それ、横暴!」
「――黙ってろって」
言うが遅い、早川の唇が触れてきて、あたしは一瞬固まる。
――待ってるって言ったクセに。
軽く数回触れると、更にきつく抱き締められた。
「は、早川」
「――俺の方こそ、悪かった」
「え」
耳元で囁かれ、思わずビクリと身体は跳ね上がる。
けれど、届いた言葉に、意識は向かった。
「何がよ」
アンタに謝られる必要なんて、無いでしょう。
――傷つけたのは、あたしなんだから。
そう続けようとしたが、すぐに唇はふさがれる。
そして、そっと離されると、今度は頬を優しく撫でられ、思わず目を閉じる。
「――……責めるつもりなんて、無かった」
「……別に……あたしのせいなんでしょ」
目をうっすらと開ければ、困ったような早川の顔が視界に入る。
「――ただの、嫉妬だ。お前のせいな訳があるか」
「――え」
――嫉妬……?
早川には似合わない言葉に、あたしは目を丸くして、まじまじと見つめてしまった。
「……あんまり見るな、バカ」
すると、早川は、バツが悪そうに微笑んで返した。