Runaway Love
「……で、これからどうする気?」
「えっと、一応、目ぼしい建造物はチェックしてるんで、先に回ってしまおうかと思って」
「――大阪城とか?」
「ちょっと違いますね。高層ビルとか、こういう駅とか――まあ、街並み全部勉強です」
そう言って、岡くんは、出たばかりの駅を振り返って見上げる。
「――それに、やっぱり、写真や映像と、実際に見るのとは違いますから」
「……少しは、勉強になる訳」
「ハイ。――茉奈さんと一緒です」
「は?」
あたしは、苦々しく聞き返す。
建物とあたしが一緒の扱いとは。
「あ、いえ。……昔は、奈津美が撮った写真でしか、あなたに会えなかったから……」
「え」
「実際に、こうやって会って話して――息遣いを感じてると……茉奈さんがオレの妄想じゃなくて、本当に生きてるんだなって。……現実にオレの目の前にいてくれるんだなって、実感しますから」
あたしは、遠くを見ながらそう告げる岡くんを見やる。
「――あたしは生きてるわよ」
「ハイ。でも……最初に会った時、夢かと思うようなシチュエーションだったし……それから一度も、こうやって向き合って話したりした事も無かったから……時々、オレの妄想じゃないかと思う時もあったんですよ」
その言葉に、記憶の中の最初の出会いをたどる。
――言いたい事は、わからないでもない。
あの雨の中、言葉を交わしたのは、数分も無い。
そして、それから、あたしは岡くんを認識する事も無かったのだから。
あたしは、少しだけうつむいて歩き出す。
「茉奈さん?」
「……止まってると、邪魔になるわよ」
「――……ハイ」
人の流れにのまれそうになるのに耐えながら、あたしは足を進める。
すると、不意に左手に包み込むような温もりを感じ、顔を上げる。
「……接触禁止」
「――迷子防止です」
その言葉に、逃げ道を作られたようで、妙な安心感を覚えてしまう。
「……緊急事態?」
「ハイ。――でも、嫌なら離します」
あたしは、一瞬迷ったが、彼の手の――その温かさを、離したくないと思ってしまった。
「茉奈さん……?」
驚いたような、あたしを呼ぶ声。
けれど、あたしが一番驚いている。
――無意識のうちに、繋いだ手に、指を絡めて力を込めたのだから。
我に返り、思わず離そうとするが、岡くんは、引き留めるように自分の指に力を込める。
「……お、岡くん」
「――緊急事態なんですから……許されますよ」
微笑んであたしを見やる彼の視線は、とても優しくて。
不自然に鳴る鼓動を抑えたくて、あたしは視線をそらした。
そのまま、手を繋ぎ、観光地と呼ばれるエリアを回る。
早川と行ったような、いかにも、という所から、何で、と思うようなビジネス街。
電車で行けば良いのに、何故か、岡くんは歩く事を選んだ。
「だって、茉奈さんと少しでもこうやっていたいんですから」
そう言って、繋いだ手を持ち上げて笑う。
その笑顔に、あたしの胸は無性にざわめいた。
うれしいような、くすぐったいような。
でも、ちょっとだけ困るような。
野口くんといた時とは、まったく違う気持ちに、自分でも戸惑う。
――けれど、嫌ではない。
「あ、茉奈さん、アイス食べます?」
「アンタ、さっきも食べたじゃない」
「食べ盛りなんです!」
笑顔で返す岡くんをあしらいながらも、あたしは、自分の中に生まれた感情を整理しきれないでいた。
「えっと、一応、目ぼしい建造物はチェックしてるんで、先に回ってしまおうかと思って」
「――大阪城とか?」
「ちょっと違いますね。高層ビルとか、こういう駅とか――まあ、街並み全部勉強です」
そう言って、岡くんは、出たばかりの駅を振り返って見上げる。
「――それに、やっぱり、写真や映像と、実際に見るのとは違いますから」
「……少しは、勉強になる訳」
「ハイ。――茉奈さんと一緒です」
「は?」
あたしは、苦々しく聞き返す。
建物とあたしが一緒の扱いとは。
「あ、いえ。……昔は、奈津美が撮った写真でしか、あなたに会えなかったから……」
「え」
「実際に、こうやって会って話して――息遣いを感じてると……茉奈さんがオレの妄想じゃなくて、本当に生きてるんだなって。……現実にオレの目の前にいてくれるんだなって、実感しますから」
あたしは、遠くを見ながらそう告げる岡くんを見やる。
「――あたしは生きてるわよ」
「ハイ。でも……最初に会った時、夢かと思うようなシチュエーションだったし……それから一度も、こうやって向き合って話したりした事も無かったから……時々、オレの妄想じゃないかと思う時もあったんですよ」
その言葉に、記憶の中の最初の出会いをたどる。
――言いたい事は、わからないでもない。
あの雨の中、言葉を交わしたのは、数分も無い。
そして、それから、あたしは岡くんを認識する事も無かったのだから。
あたしは、少しだけうつむいて歩き出す。
「茉奈さん?」
「……止まってると、邪魔になるわよ」
「――……ハイ」
人の流れにのまれそうになるのに耐えながら、あたしは足を進める。
すると、不意に左手に包み込むような温もりを感じ、顔を上げる。
「……接触禁止」
「――迷子防止です」
その言葉に、逃げ道を作られたようで、妙な安心感を覚えてしまう。
「……緊急事態?」
「ハイ。――でも、嫌なら離します」
あたしは、一瞬迷ったが、彼の手の――その温かさを、離したくないと思ってしまった。
「茉奈さん……?」
驚いたような、あたしを呼ぶ声。
けれど、あたしが一番驚いている。
――無意識のうちに、繋いだ手に、指を絡めて力を込めたのだから。
我に返り、思わず離そうとするが、岡くんは、引き留めるように自分の指に力を込める。
「……お、岡くん」
「――緊急事態なんですから……許されますよ」
微笑んであたしを見やる彼の視線は、とても優しくて。
不自然に鳴る鼓動を抑えたくて、あたしは視線をそらした。
そのまま、手を繋ぎ、観光地と呼ばれるエリアを回る。
早川と行ったような、いかにも、という所から、何で、と思うようなビジネス街。
電車で行けば良いのに、何故か、岡くんは歩く事を選んだ。
「だって、茉奈さんと少しでもこうやっていたいんですから」
そう言って、繋いだ手を持ち上げて笑う。
その笑顔に、あたしの胸は無性にざわめいた。
うれしいような、くすぐったいような。
でも、ちょっとだけ困るような。
野口くんといた時とは、まったく違う気持ちに、自分でも戸惑う。
――けれど、嫌ではない。
「あ、茉奈さん、アイス食べます?」
「アンタ、さっきも食べたじゃない」
「食べ盛りなんです!」
笑顔で返す岡くんをあしらいながらも、あたしは、自分の中に生まれた感情を整理しきれないでいた。