Runaway Love
次に目を開けると、はだけた男の胸が見え、あたしは硬直してしまった。
「……ああ、起きたか、杉崎?」
顔を上げると、早川の顔が至近距離だ。
思わず息をのむが、昨夜の記憶をたどり、申し訳なさが湧き出てきた。
「お、お、はよ。……ごめん……大丈夫……?」
そのまま、ぎこちなく挨拶をするが、早川は気に留める様子も無い。
あたしの額に手を当て、ほう、と、息を吐いた。
「どうにか、熱、下がったみてぇだな」
「――え」
あたしは自分の手を、首元に当てた。
確かに、昨日とはうって変わって、ほぼ平熱に戻っているようだ。
「……ありがと。……もう、大丈夫みたい……」
「おう、良かったな。経理部の人達にも、礼言っておけよ。お前がぶっ倒れてから、医務室連れて行ったり、残りの仕事引き継いでいたみたいだからな」
「――あ」
言われて、ようやく思い至った。
そして、罪悪感が襲って来る。
あたしのせいで、余計な仕事を増やしてしまうなんて――。
「気に病むくらいなら、ちゃんと治せ。そんなの、文句言う人達じゃねぇだろ?」
「――ええ、そうね。……何か、アンタに言われるの腹立つけど」
すると、不意に、早川は笑い出した。
「な、何よ」
「――いや……いつもの杉崎で、安心した」
「――……何よ、それ……」
あたしが眉を寄せると、ぐい、と、引き寄せられた。
「ちょっと……」
「まあ、弱ってるお前、可愛いかったから良いけど――心配だったんだぞ」
そう言われると、言葉が返せない。
確かに、心配かけたとは思ったけど……。
「――可愛いとか、いらないし」
「やっぱり、いつも通りだな」
早川は、何だかうれしそうに、あたしを抱きしめた。
その温もりに、安心しそうになり、我に返る。
「あ、あのさっ……朝ご飯、食べるっ……⁉」
「え?ああ、別にいいぞ。帰るから」
「え」
抱きしめられたまま、早川を見上げると、苦笑いで返された。
「だから、心配だったってだけだ。――普通に勘違いしそうになるから、そういうのやめとけ」
「――え」
「まあ、勘違いしても良いなら、別だけどな」
「……何よ、それ」
あたしは、受けた恩を返せないような、不義理な人間ではない。
勘違いしてもしなくても、それはそっちの自由だ。
そう思い、早川の腕から逃れ、起き上がる。
平衡感覚も戻っているので、たぶん、大丈夫だろう。
後は、残りの薬を飲んでいれば、週末には元通りになるはずだ。
「おい、杉崎」
「――簡単なもので良ければ、食べて行って。――せめてものお礼よ」
「……ったく……」
早川は、起き上がると後頭部を軽くかきながら、うなづいた。
「まあ、役得って、コトにしておくわ」
「何よ、それ」
あたしは、振り返ると、少しだけ寝癖のついた早川に笑いかけた。
いつもとは全然違う――素のコイツは、そこまで鼻につかないな。
そんな事を思いながら、冷蔵庫を開ける。
自分の体力を考えながら、いつもの朝食と、冷凍していたおかず数品をテーブルに並べたのだった。
「ごちそうさま。美味かった。お前、料理上手だな」
「――普通よ、こんなの。一人暮らしだと、適当にしがちだから、意識して作ってるだけ」
あたしが、そう言いながら食器をシンクへと持って行くと、早川はあきれたように返した。
「そういうのができるんだから、スゲェんだよ」
珍しくストレートなほめ言葉に、一瞬、固まる。
「……ほめても、何も出ないわよ」
「素直に受け取っておけよ、ったく」
そう言いながら、早川は立ち上がると、あたしの隣に来て腕まくりをし、使い終えた食器を洗い始めた。
「え、ちょっと、いいわよ」
「気にするな。メシの礼だ」
「いや、だから、それは昨日のお礼で……」
――って、言い合ってもキリがない。
あたしは、仕方なく折れる事にする。
でも、コイツといい、岡くんといい、今の男って、キッチンに立つのに抵抗ないのね……。
一般的な男性像が思い浮かばないあたしには、新鮮だ。
すると、不意に玄関のチャイムが鳴り響いた。
「……ああ、起きたか、杉崎?」
顔を上げると、早川の顔が至近距離だ。
思わず息をのむが、昨夜の記憶をたどり、申し訳なさが湧き出てきた。
「お、お、はよ。……ごめん……大丈夫……?」
そのまま、ぎこちなく挨拶をするが、早川は気に留める様子も無い。
あたしの額に手を当て、ほう、と、息を吐いた。
「どうにか、熱、下がったみてぇだな」
「――え」
あたしは自分の手を、首元に当てた。
確かに、昨日とはうって変わって、ほぼ平熱に戻っているようだ。
「……ありがと。……もう、大丈夫みたい……」
「おう、良かったな。経理部の人達にも、礼言っておけよ。お前がぶっ倒れてから、医務室連れて行ったり、残りの仕事引き継いでいたみたいだからな」
「――あ」
言われて、ようやく思い至った。
そして、罪悪感が襲って来る。
あたしのせいで、余計な仕事を増やしてしまうなんて――。
「気に病むくらいなら、ちゃんと治せ。そんなの、文句言う人達じゃねぇだろ?」
「――ええ、そうね。……何か、アンタに言われるの腹立つけど」
すると、不意に、早川は笑い出した。
「な、何よ」
「――いや……いつもの杉崎で、安心した」
「――……何よ、それ……」
あたしが眉を寄せると、ぐい、と、引き寄せられた。
「ちょっと……」
「まあ、弱ってるお前、可愛いかったから良いけど――心配だったんだぞ」
そう言われると、言葉が返せない。
確かに、心配かけたとは思ったけど……。
「――可愛いとか、いらないし」
「やっぱり、いつも通りだな」
早川は、何だかうれしそうに、あたしを抱きしめた。
その温もりに、安心しそうになり、我に返る。
「あ、あのさっ……朝ご飯、食べるっ……⁉」
「え?ああ、別にいいぞ。帰るから」
「え」
抱きしめられたまま、早川を見上げると、苦笑いで返された。
「だから、心配だったってだけだ。――普通に勘違いしそうになるから、そういうのやめとけ」
「――え」
「まあ、勘違いしても良いなら、別だけどな」
「……何よ、それ」
あたしは、受けた恩を返せないような、不義理な人間ではない。
勘違いしてもしなくても、それはそっちの自由だ。
そう思い、早川の腕から逃れ、起き上がる。
平衡感覚も戻っているので、たぶん、大丈夫だろう。
後は、残りの薬を飲んでいれば、週末には元通りになるはずだ。
「おい、杉崎」
「――簡単なもので良ければ、食べて行って。――せめてものお礼よ」
「……ったく……」
早川は、起き上がると後頭部を軽くかきながら、うなづいた。
「まあ、役得って、コトにしておくわ」
「何よ、それ」
あたしは、振り返ると、少しだけ寝癖のついた早川に笑いかけた。
いつもとは全然違う――素のコイツは、そこまで鼻につかないな。
そんな事を思いながら、冷蔵庫を開ける。
自分の体力を考えながら、いつもの朝食と、冷凍していたおかず数品をテーブルに並べたのだった。
「ごちそうさま。美味かった。お前、料理上手だな」
「――普通よ、こんなの。一人暮らしだと、適当にしがちだから、意識して作ってるだけ」
あたしが、そう言いながら食器をシンクへと持って行くと、早川はあきれたように返した。
「そういうのができるんだから、スゲェんだよ」
珍しくストレートなほめ言葉に、一瞬、固まる。
「……ほめても、何も出ないわよ」
「素直に受け取っておけよ、ったく」
そう言いながら、早川は立ち上がると、あたしの隣に来て腕まくりをし、使い終えた食器を洗い始めた。
「え、ちょっと、いいわよ」
「気にするな。メシの礼だ」
「いや、だから、それは昨日のお礼で……」
――って、言い合ってもキリがない。
あたしは、仕方なく折れる事にする。
でも、コイツといい、岡くんといい、今の男って、キッチンに立つのに抵抗ないのね……。
一般的な男性像が思い浮かばないあたしには、新鮮だ。
すると、不意に玄関のチャイムが鳴り響いた。