Runaway Love
「――……気づいてねぇのかよ、ずっと、震えてんだぞ、お前」
「……え」
 言われて、ようやく自分が小刻みに震えているのに気がついた。
「……怖かったよな……。――……俺は、間に合ったか……?」
 暗に、襲われていないかと、確認され、あたしはうなづく。
「……ホントに、大丈夫だから……」
 そう言って、視線を少しだけそらす。
 ――無理矢理されたキスは、今思い出しても気持ち悪い。
 自分の感情が伴わない接触は、どんなものであっても、嫌悪感しか残さない。
 ――それは、高校時代のファーストキスでもそうだ。
 もう、本当の先輩の姿を知っていたから……。
「――茉奈、お前、これ以上何かされるようなら、警察行けよ」
「大丈夫だから。……それに、たぶん、先輩はそんな事気にしない」
「何だよ、それっ……!」
「そういう人なの!……罪悪感とか、他人がどう思うとか、まったく気にしない……気にならない人なの」
 たぶん――どこか、欠けている人なんだ。
 そう思うと、悲しくなるけれど。
「……だから……アンタが何を言おうが、きっと、止まらない」
 自分を満たすものを持ち続けられない人なんだろう。
 もしかしたら――あたしが手に入ったら、あっさりと離れるのかもしれない。
「茉奈、お前、何考えてる」
「え」
 不意にそう言われ、あたしは早川を見やる。
 抱きしめられたままなので、顔を動かすのも難しかったが、目だけは向けた。
「――自分が犠牲になれば良いとか、思ってねぇよな」
 あたしは、苦笑いで首を振る。
 それは、今さっきクギを刺されたばかりだ。
「……大丈夫だから。――……アンタが心配する事じゃないわ」
 キッパリと言い切る。
 早川は、少しだけあたしを離すと、そっと口づけた。
「――……バカ、お前の大丈夫はあてにならねぇんだよ」
「……うるさい、バカ」
 いつものようなやり取り。
 けれど、雰囲気はまったく違う。
 何度も何度も軽くキスを落とす早川は、あたしの身体をそっと撫でまわした。
 それは、さっきまでの気持ち悪さを上書きするようだ。
 その証拠に、小刻みだった震えは、もう、無くなっている。
「――……落ち着いたか」
「……うん……ありがと……」
 あたしは、そっと、早川の胸に顔をうずめた。
「――バカ、勘違いしてもいいのかよ」
「……困る」
「じゃあ」
「――……でも、こうしてると、安心できるの」
 それは、恋愛感情とは別の――もっと、別の次元の何か。
 そんな気がする。

 ――それが、早川が求めている感情とは違うのは――わかり切っていた。
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