Runaway Love
徐々に仕事の方も、新人二人がほとんど請け負えるようになってきたので、あたしは、リモートでもできるような、本社の仕事を流してもらう事にした。
『ああ、助かる!中締めも、ままならねぇ状況なんでな。頼むわ、杉崎!』
相変わらずの大野さんの口調に、思わず苦笑いが浮かんだ。
けれど、その内容に、眉を寄せる。
「大野さん、そんなに忙しいんですか?」
『あ?ああ、もう、部長は電算の方にかかりきりで、オレは実質部長の仕事と自分の仕事、お前の分も少し持ってるようなモンでな!』
「――え」
それを聞き、真っ青になる。
あたし、出向してる場合じゃないんじゃ……!
『ああ、でも、お前はそっちの仕事を優先しろよ。幸い、野口が、だいぶ使えるようになってるし、外山さんも残業してくれてる。心配されるほど、深刻な訳じゃねぇよ』
「……わかりました。……でも、無理なら、連絡ください。こちらで、できる事があればやりますので」
『サンキュ。まあ、大丈夫だろ。それより、ひとまず、そっちに送ったフォームに、大阪支社分の新規取引先、全入力と請求関連頼むわ。まだ、書類そっちにあるだろ』
「ええ、わかりました」
電話を終えると、さっそく、送られてきたデータを見る。
そして、パソコンとにらみ合っている古川主任に声をかけた。
「古川主任、今、処理中の請求書関連、あたしの方で処理しますので、伝票いただけますか。あと、取引先データ作りますので関連書類も」
すると、彼はあたしを見やり、眉を寄せる。
「本社からの指示ですか」
「ええ。結局、こちらで作ったものが本社経由で処理されるんですから、二度手間でしょう。元々あたしが担当なんで、こちらで済ませた方が早いです」
各支店での権限は、請求関連の元となる伝票の作成、報告までだ。
それが本社に来て、あたしが書類作成、チェック、入金処理まで行うので、ここでやっても同じことになる。
「――わかりました。では、私達の方は、教育がてら他の処理をしますので」
「お願いします」
あたしはうなづくと、古川主任から、営業から届く書類の山を受け取った。
やはり、新人二人を教えつつ、事務処理もこなし、更に日々十数人の営業が受けてくる書類をさばくのは、さすがに彼でも時間がかかるのは当然だ。
自分の机に、本社のように書類と電卓、ボールペンをスタンバイ。
目算で、大体一時間ほどか。
――それじゃあ、やりますか。
本社にいる時のような感覚で、電卓を片手に、作業を進め、途中不明なところを洗い出し、古川主任や大野さんに確認したりと、何だか以前に戻ったようだ。
予想通り、一時間弱ですべて終了し、処理済みの書類を揃えて一息つく。
すると、不意に視線を感じて、あたしは顔を上げる。
見やれば、古川主任と新人二人が、目を丸くしてあたしを見ていた。
「……あ、あの、何か……?」
たじろぎながらも、口を開く。
もしかしたら、集中しすぎて、話しかけられても無視するような形になってしまったか。
思わず謝ろうとした瞬間、高橋さんが、感心するように言った。
「……すっごい……」
「え?」
「カッコイイです、杉崎主任!」
「……は?」
思ってもみない言葉に、目を丸くする。
「――え、あの、あたし何か……」
古川主任に顔を向けると、苦笑いで返された。
「……いえ、教育係に抜擢されるのも、まあ、理解できました」
「……え」
「――あなた、自分の仕事している時の集中力と速さ、ここの仕事の時と段違いです」
――これは、褒められているのか?
若干柔らかい口調で言われたので、そう思う事にした。
自覚は無いが、慣れない彼らにとっては、そう見えるのかもしれない。
「……はあ、まあ……本社の時と同じようにしているだけなんで……」
取り繕うように言った言葉は、新人にとっては更に驚きのようで、終業時間のあたりには、目を輝かせて見られてしまった。
『ああ、助かる!中締めも、ままならねぇ状況なんでな。頼むわ、杉崎!』
相変わらずの大野さんの口調に、思わず苦笑いが浮かんだ。
けれど、その内容に、眉を寄せる。
「大野さん、そんなに忙しいんですか?」
『あ?ああ、もう、部長は電算の方にかかりきりで、オレは実質部長の仕事と自分の仕事、お前の分も少し持ってるようなモンでな!』
「――え」
それを聞き、真っ青になる。
あたし、出向してる場合じゃないんじゃ……!
『ああ、でも、お前はそっちの仕事を優先しろよ。幸い、野口が、だいぶ使えるようになってるし、外山さんも残業してくれてる。心配されるほど、深刻な訳じゃねぇよ』
「……わかりました。……でも、無理なら、連絡ください。こちらで、できる事があればやりますので」
『サンキュ。まあ、大丈夫だろ。それより、ひとまず、そっちに送ったフォームに、大阪支社分の新規取引先、全入力と請求関連頼むわ。まだ、書類そっちにあるだろ』
「ええ、わかりました」
電話を終えると、さっそく、送られてきたデータを見る。
そして、パソコンとにらみ合っている古川主任に声をかけた。
「古川主任、今、処理中の請求書関連、あたしの方で処理しますので、伝票いただけますか。あと、取引先データ作りますので関連書類も」
すると、彼はあたしを見やり、眉を寄せる。
「本社からの指示ですか」
「ええ。結局、こちらで作ったものが本社経由で処理されるんですから、二度手間でしょう。元々あたしが担当なんで、こちらで済ませた方が早いです」
各支店での権限は、請求関連の元となる伝票の作成、報告までだ。
それが本社に来て、あたしが書類作成、チェック、入金処理まで行うので、ここでやっても同じことになる。
「――わかりました。では、私達の方は、教育がてら他の処理をしますので」
「お願いします」
あたしはうなづくと、古川主任から、営業から届く書類の山を受け取った。
やはり、新人二人を教えつつ、事務処理もこなし、更に日々十数人の営業が受けてくる書類をさばくのは、さすがに彼でも時間がかかるのは当然だ。
自分の机に、本社のように書類と電卓、ボールペンをスタンバイ。
目算で、大体一時間ほどか。
――それじゃあ、やりますか。
本社にいる時のような感覚で、電卓を片手に、作業を進め、途中不明なところを洗い出し、古川主任や大野さんに確認したりと、何だか以前に戻ったようだ。
予想通り、一時間弱ですべて終了し、処理済みの書類を揃えて一息つく。
すると、不意に視線を感じて、あたしは顔を上げる。
見やれば、古川主任と新人二人が、目を丸くしてあたしを見ていた。
「……あ、あの、何か……?」
たじろぎながらも、口を開く。
もしかしたら、集中しすぎて、話しかけられても無視するような形になってしまったか。
思わず謝ろうとした瞬間、高橋さんが、感心するように言った。
「……すっごい……」
「え?」
「カッコイイです、杉崎主任!」
「……は?」
思ってもみない言葉に、目を丸くする。
「――え、あの、あたし何か……」
古川主任に顔を向けると、苦笑いで返された。
「……いえ、教育係に抜擢されるのも、まあ、理解できました」
「……え」
「――あなた、自分の仕事している時の集中力と速さ、ここの仕事の時と段違いです」
――これは、褒められているのか?
若干柔らかい口調で言われたので、そう思う事にした。
自覚は無いが、慣れない彼らにとっては、そう見えるのかもしれない。
「……はあ、まあ……本社の時と同じようにしているだけなんで……」
取り繕うように言った言葉は、新人にとっては更に驚きのようで、終業時間のあたりには、目を輝かせて見られてしまった。